ハンドボール男子:東京五輪へ向け、名監督就任と若手の海外修行でチームを強化中

東京五輪では開催国枠で32年ぶりのオリンピック出場が決まっている日本。

開催国枠を得て、2020年東京五輪で32年ぶりのオリンピック出場が決まったハンドボール男子。本場ヨーロッパ勢とのレベルの差に、長年悩まされてきたが、名監督の招聘と若手の台頭で、チーム力は徐々に上がっている。日本ではマイナースポーツとの印象もあるが、さまざまなスポーツの要素を取り入れたハンドボールならではの楽しさもある。せっかくの地元開催。これを機にぜひ東京五輪でハンドボールの良さを知ってほしい。

さまざまなスポーツの要素が満載

ハンドボールは1チーム7人(6人のコートプレーヤーとゴールキーパー)で、ボールを手で扱って相手ゴールへと投げ入れて、得点を競うスポーツだ。19世紀末にヨーロッパで始まり、20世紀初頭にドイツでスポーツとして確立され、世界へと広がった。1936年ベルリン五輪に初めて導入された後は、しばらく正式競技から外れていたが、1972年ミュンヘン五輪から再び採用された。

ゴールキーパーがいて、プレーヤーがドリブルとパスでボールをつないで、思いっきり相手ゴールにたたき込むと得点になるのはサッカーと同じ。ボールを蹴ってはならないことや、決められた歩数以上にボールを保持してはいけない、抗体が無制限に行える点などがバスケットボールと同じ。体の正面からの接触プレーには反則がとられないため、激しいボディコンタクトになることもあり、ラグビーやアメフトに近い格闘技的要素も含まれている。ただ、ゴールから6メートルのゾーンにコートプレーヤーは入ってはならず、シュートはこのゾーンの外側か、またはゾーンの外側から内側に向かってジャンプしている間に、打たなければならないというルールがあり、これはハンドボール独自の要素だ。オリンピックでは、まず12チームによるグループリーグ戦が行われ、決勝トーナメント戦を経てメダルが争われる。

渾身シュートは迫力満点

ハンドボールの魅力は、こうした複数の競技の“おいしい”ところが、ほどよくミックスされているところだろう。クライマックスのシュートでは、地面を強く蹴って跳びあがり、空中で全身をバネと化して、渾身の力でボールをゴールにたたき込む。その光景は、まさに迫力満点で、見る側を興奮させてくれる。また、スピード感のある試合展開で、激しい点の取り合いになれば、1試合に20点以上となることもあり、最後の最後で大逆転することもあるため、プレー開始から一瞬たりとも試合から目を離すことができない。敵を翻弄する個人技や、練りに練った作戦に基づく連携プレーの美しさが、きっとあなたを魅了するだろう。

コートはフットサルと同じ

コートの広さは40メートル×20メートルで、フットサルコートと同じ。試合時間は前後半それぞれ30分で、決着がつかなければ、延長前後半各5分の延長戦が行われる。ゴールの内側の大きさは高さ2メートル×幅3メートルで、これもフットサルと同じ大きさとなっている。

ゴールエリアラインはゴール前方6メートル、フリースローラインはゴール前方9メートル、ペナルティースローラインはゴール前方7メールに引かれている。


「むささびシュート」で話題に

男子の日本代表は1972年ミュンヘン五輪で初出場。これまでの出場回数は4回あるがメダルはなく、1988年ソウル五輪以降は出場できていない。2016年リオデジャネイロ大会では、実施された28競技のうち、唯一男女ともに日本が出場枠を逃した競技だった。2020年東京五輪では、男女ともに開催国枠が与えられたため、男子は32年ぶりの出場となる。

往年の名選手として思い出すのは、3回連続で世界選手権に出場、1976年モントリオール五輪から3回連続で五輪代表となった蒲生晴明だろう。「ガモ」のあだ名で世界から注目された。1972年ミュンヘン五輪に出場した近森克彦は、日本人として初めて海外(ドイツ)のプロリーグでプレーした。同じくミュンヘン五輪に出場した野田清は、角度がほとんどない位置からダイビングして放つ「むささびシュート」で話題に。ヨーロッパでも「ノダ・シュート」と呼ばれた。

名監督と海外修行中の若手選手に期待

男子の日本代表の愛称は『彗星JAPAN』。2017年に世界最優秀監督を受賞し、リオデジャネイロ五輪でもドイツ代表を銅メダルに導いたダグル・シグルドソン氏をヘッドコーチに迎え、東京五輪に向けて日本代表チームの強化に取り組んでいる。

また、高い期待が寄せられているのが若手の2選手。いずれもフランスチームでプレーしている。身長194センチの巨人、部井久アダム勇樹。パキスタン人を父に持つ部井久は、高い位置からの威力あるシュートを見いだされて、高校3年生で日本代表に選出され、大学進学後はフランスのチームでプレーを始めた。もうひとりは、フランス人の父を持つ土井レミイ杏利。世界トップリーグで経験を積み、技術とメンタルを磨いている。このふたり以外にも、筑波大学出身で現在ハンガリーのクラブチームに所属する徳田新之介、イラン人の父親から譲り受けた197cmという恵まれた体格を生かし、2017年に岩手で行われたU-22東アジア選手権で大活躍した、大崎電気に所属の玉川博康など、将来有望な若手の選手たちも少なくない。加えて、長年日本ハンドボール界のスタープレーヤーとして君臨した宮崎大輔も代表復帰し、競技のメジャー化に貢献している。

強豪国は発祥の地ヨーロッパに集中

ヨーロッパ生まれの競技だけあって、オリンピックのメダル争いはヨーロッパ勢で繰り広げられている。男子でヨーロッパ以外の国がメダルを取ったのは、1988年ソウル五輪で開催国の韓国が銀メダルを取っただけだ。2000年以降の5大会で金メダルを取った国は、フランスが2回、ロシア、クロアチア、デンマークがそれぞれ1回。銀メダルはスウェーデンが2回、ドイツ、アイスランド、フランスがそれぞれ1回。銅メダルはスペインが2回、ロシア、クロアチア、ドイツが1回ずつとなっている。

2017年の世界選手権では、優勝がフランス、準優勝がノルウェー、3位がスロベニア、4位がクロアチアという結果だった。日本は予選ラウンドグループAで、フランス、ノルウェー、ロシア、ブラジル、ポーランドと戦い全敗している。また、世界ランキング(男子)では、常にドイツ、デンマーク、スウェーデン、ロシア、フランスなどが10位以内を占めており、これにエジプトやチュニジアといったアフリカ勢が追いかける。体格面で劣る日本が、これらの国に追いつくためには、技術のみならず、あらゆる面での強化が必要となる。

国際経験を積んで2020年東京五輪に備えろ

シングルドソン監督は、就任以来、ヨーロッパでの長期合宿を行ったり、強豪国との試合を積極的に組んだりしてきた。2018年6月、ブラジルやドイツなどと5連戦を行い日本代表は全敗した。しかし、監督自身は前向きだ。何よりも国際舞台での経験不足を解消するには、これしかないからだ。経験に裏打ちされた強い精神力や勝ちにこだわるハングリーさが選手に足りないと指摘している。また、ハンドボールは激しいボディコンタクトがあるため、外国人選手に当たり負けしない強いフィジカルを作らないと、体力が消耗した後半に、大きく引き離されてしまうため、日本人選手の得意な俊敏性やボール回しのスピードだけでなく、基礎体力を身につけるトレーニングを重視している。1976年モントリール五輪9位がハンドボール男子の過去最高位だ。果たして2020年東京五輪で、この成績を超える結果が残せるのかに注目が集まっている。

2019年1月10日から17日までドイツ、デンマークで開催される第26回男子世界選手権。日本は予選ラウンドグループBで、スペイン、クロアチア、マケドニア、アイスランド、バーレーンと対戦する。ここでどの程度の成績を残すことができるのかが、東京五輪での可能性を占うひとつの目安となるだろう。『彗星JAPAN』の現在位置を、みんなで確認してみよう。

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