エース・上野由岐子が率いるソフトボール日本女子代表が新戦力とともに、12年ぶりの五輪連覇に挑む
悲願の金メダルを日本が初めて獲得した2008年の北京オリンピック。その大会を最後に、ソフトボールはオリンピック種目から除外されたが、関係者たちの並々ならぬ復活活動が実り、東京五輪で追加種目として再び実施されることとなった。
北京五輪で413球を投げ切り、世界一のエースの称号を手にした上野由岐子は、2019年の今もなお、日本代表のピッチャーズサークルに立ち続けている。地元開催のオリンピックで、12年ぶりの連覇を期待されている日本。宿敵は、昨年の世界選手権を制したアメリカ。絶対に負けられない戦いに、日本はどのように挑むのか。
参加国6か国での総当たり予選からスタート
野球とほぼ同様のルールで行われるソフトボールは、使用球が大きく、飛びにくいこともあり、塁間やホームから外野フェンスまでの距離などは、野球より短くなっている。
ソフトボール種目は、オリンピックでは女子のみで、1996年のアトランタ五輪で正式採用された。以降、シドニー、アテネ、北京と4大会で実施された後、世界的な普及が十分ではないという理由などから正式種目から除外された。
東京五輪で3大会ぶりに追加種目として実施が決まり、出場枠は「6」となっている。予選を総当たりで戦い、上位チームが決勝トーナメントへ進出。決勝トーナメントは、敗者復活戦を含む変則的なページシステム形式で行われる予定だ。
2019年3月5日現在、東京五輪出場を決めているのは開催国の日本と、2018年世界選手権優勝のアメリカの2カ国。残りの4カ国は地域の予選で決まり、アジア・オセアニアが1枠、ヨーロッパ・アフリカが1枠、アメリカ大陸(北米から南米まで)が2枠となっている。
グラウンドや投補間が短く、スピーディなプレイが醍醐味
ピッチャーとキャッチャー間の距離は、男子の野球が18.44メートルなのに対して、女子のソフトボールでは13.11メートル。このため、バッターの体感速度は野球より速くなる。アンダースローのみのピッチングから繰り出される変化球には、手元で球が上がるライズボールなど、独自のものがある。
まったく同じモーションから投げるチェンジアップも巧妙だ。ショートゴロが内野安打になるかどうか、俊足の左打者と、遊撃手の華麗なグラブさばきからの一塁送球のスピード勝負。ノーアウト、ランナー1-3塁という場面での走塁の駆け引きなど、一瞬の判断、スピーディな展開から目が離せない。
7回までの攻防。延長は促進ルールを適用
基本的には野球同様にグラウンド上で9名の2チームが、1回ごとに攻守を交代して戦う。指名打者や、選手の再出場など、独自の起用のルールがある。7回終了時点の得点で勝敗を決めるが、同点の場合は「タイブレーカー」と呼ばれる時間短縮のための促進ルールを適用。
そのときはノーアウト、ランナー2塁から(ゲーム状況があらかじめ促進された状態で)始める。塁間が短いため、ランナーは投手の手からボールが離れるまで離塁することはできず、早く塁を離れるとアウトとなる
オリンピックで金3、銀1のアメリカが最強
ソフトボールが実施された過去4大会のメダル獲得国は以下の通り。
- 1996 アトランタ 金:アメリカ 銀:中国 銅:オーストラリア
- 2000 シドニー 金:アメリカ 銀:日本 銅:オーストラリア
- 2004 アテネ 金:アメリカ 銀:オーストラリア 銅:日本
- 2008 北京 金:日本 銀:アメリカ 銅:オーストラリア
これまでの4大会すべてに参加した国は、アメリカ、日本、オーストラリア、中国、カナダの5か国。
ソフトボールのレジェンドプレーヤー
オリンピック4大会すべてに選手として出場したのは4人。オーストラリア3人、アメリカ1人。日本の斎藤春香は3大会連続で、選手として出場後、北京五輪には日本のヘッドコーチとして参加している。
ピッチャーの最多勝記録は日本の上野由岐子と高山樹里の8勝。アメリカの二刀流エース、リサ・フェルナンデスが7勝で続く。打撃部門、ホームラン本数では、アメリカの不動の4番、世界の大砲クリストル・ブストスが3大会で17本と圧倒的。また、シドニー五輪の大事な場面で3本のホームランを放った宇津木麗華が印象に残る。
走攻守がそろい、ソフトボール界で著名な外野手には、アメリカのジェシカ・メンドゥーサ、日本の山田恵里らの名が挙げられる。
東京五輪は、二刀流・藤田倭投手、強打者・山本優に注目
北京五輪に出場した日本人選手のほとんどが現役を引退している中で、現時点の日本代表チームに在籍しているのが、投手の上野由岐子、今なお「女イチロー」と呼ばれる山田恵里だ。2人は日本リーグでも中心選手として高い実績を上げており、日本の攻守の要として連覇のキーマンとなるのは必至だ。
とはいえ、東京五輪で上野が400球以上を一人で投げ抜くことは、年齢的にも厳しい。投手のもう一人の柱として、「ソフト界の大谷翔平」と呼ばれ、投打で日本を引っ張る藤田倭(ふじた・やまと)に期待が集まっている。打撃では、2018年の世界選手権に全試合スタメンで出場し、打率0.433、 6本塁打を含む17打点をあげた山本優が中心になるだろう。
宿命のライバル、アメリカと日本の一騎打ち
金メダル候補の筆頭は、日本とアメリカである。2008年北京オリンピック後の世界選手権で、日本は2位、アメリカが優勝。その後は2012、2014年と日本が連覇、アメリカが2位。2016、2018年とアメリカが連覇、日本が2位と、アメリカと日本で金メダルを分け合ってきた。
宿敵アメリカの注目選手は、北京五輪で上野と投げ合ったアメリカのベテラン投手、モニカ・アボットとキャサリン・オスターマンだ。東京五輪に向けて代表に復帰すると、押さえの切り札として、豊富な経験で若手投手陣を鼓舞している。
アメリカだけでなく、強打者をそろえるオーストラリア、アメリカの大学出身者の多いカナダなども侮れない存在となっており、将来的なソフトボールの五輪採用を占う意味でも、2強以外の国の健闘も重要になってくるだろう。