自転車のルーツとなる二輪車は、1817年にドイツで発明された。そして最初のトラックレース世界選手権が開催されたのは、1893年のアメリカ合衆国。第1回近代オリンピックでも採用されるなど、自転車競技は長くスポーツとして親しまれている。ここでは各トラック種目の起源を紹介する。
■何から起こった?いつから競技化?
自転車の起源は1817年、カール・フォン・ドライス(ドイツ)によって発明された「ドライジーネ」だとされる。ドライジーネは足で地面を蹴って進む“ランニングマシーン”だったが、19世紀の間にスピードや安全性がともに向上する。1880年代、ハリー・ジョン・ローソン(イギリス)が後輪を回す「ビシクレット」を発明。ビシクレットは自転車を表す英単語「バイシクル(bicycle)」の語源となる。
最初に開催された自転車レースについては諸説ある。1868年5月31日、フランス・パリ郊外のサン=クルー公園にて、約1200メートルの自転車レースが行われたことは確かだが、これ以前にも自転車レースが行われたことを示す史料が存在する。
今日に至るベロドローム(自転車競技場)で開催されるトラックレースは、1870年までに最初の大会が開催されたことは確かだ。ヨーロッパ大陸では公道を走るロードが人気となる一方、道路事情に問題があったイギリスでは、トラックが人気を博したようだ。トラックはイギリス以外のヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国でも行われるようになり、1893年、第1回トラック世界選手権がシカゴ(米国)で開催される。この大会のスプリントと10キロを制したのは、アーサー・オーガスタス・ジンマーマン(米国)だった。自転車競技は1896年の第1回近代オリンピック・アテネ大会でもロードとトラック5種目が採用される。トラックでは、ポール・マッソン(フランス)がスプリントなど3種目で1位を獲得。そして1900年4月14日、国際自転車競技連合(UCI)が設立された。
オリンピックで行われるトラック競技の種目は変化し続けているが、Tokyo 2020(東京五輪)ではスプリント、チームスプリント、ケイリン、チームパシュート、オムニアム、マディソンの男女合計12種目で争われる。スプリントは第1回大会から採用されているが、現在のチームスプリント(3人)は2000年のシドニー五輪からの採用。それ以前に行われていた4人による「イタリアンチームレース」が原型とされる。
ケイリンのルーツは日本発祥の競輪で、1948年11月20日に小倉競輪場(福岡県北九州市)で初開催された。競輪がケイリンとなるキッカケは、当時競輪選手だった中野浩一氏が、世界選手権のプロ・スクラッチ(現スプリント)で10連覇(1977ー86年)を達成したことだった。ケイリンは世界選手権でも採用されるようになり、シドニー五輪で採用となる。
チームパシュート(団体追い抜き)は1908年の第4回ロンドン大会から採用されていることからも、古くから行われていた種目だと分かる。一方、オムニアムは2012年のロンドン五輪から、マディソンは2021年の東京五輪から採用となる。オムニアムは2000年代から始まった種目だが、1960年代までに行われていた複合種目が元祖だとされる。マディソンの名称は、米国ニューヨーク州の商業施設に由来。1898年、トラック種目「6日間レース」がニューヨークで法的に規制されたため、それを回避する方法として始まった。
■強豪国とその背景は?
2020年5月時点のオリンピック実施トラック種目のUCI世界ランキング(国・地域)は以下の通り。
男子スプリント
- オランダ
- 日本
- ロシア
男子ケイリン
- オランダ
- 日本
- ロシア
男子オムニアム
- オランダ
- ニュージーランド
- フランス
男子チームスプリント
- オランダ
- ロシア
- フランス
男子チームパシュート
- イタリア
- スイス
- ニュージーランド
男子マディソン
- オランダ
- ニュージーランド
- フランス
女子スプリント
- ドイツ
- ロシア
- 香港
女子ケイリン
- ニュージーランド
- ドイツ
- 香港
女子オムニアム
- ポーランド
- 中国
- 日本
女子チームスプリント
- ロシア
- 中国
- ポーランド
女子チームパシュート
- 米国
- ドイツ
- カナダ
女子マディソン
- 中国
- ポーランド
- 香港
参考:Track Cycling Rankings - Union Cycliste Internationale (UCI)
自転車発祥の地、そして競技の歴史も長いことから、ヨーロッパ諸国が多くランクインしている。中でもオランダは自転車大国として知られている。オランダは、ほかのヨーロッパ諸国と比べても、自転車のインフラが整備されており、サイクリング人口が多いことが背景にある。
■どんなリーグや大会がある?
2019-20シーズンは11月から1月にかけて、6回のワールドカップを開催。2月に世界選手権が開催された。W杯と世界選手権、これらがトラック種目における主要な大会と言える。日本国内では、全日本自転車競技選手権大会のほか、海外選手も招待して行われるジャパントラックカップが主要大会に挙げられる。
また、トラックレース短距離の日本人選手の多くは日本競輪選手会に所属しており、日本各地で開催される競輪に出場している。