新型コロナウイルス禍の2020年スポーツ界を振り返る…東京五輪延期、甲子園は中止に
2019年11月に確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界の人々の生活を一変させる。「現代用語の基礎知識選 2020ユーキャン新語・流行語大賞」年間大賞に選ばれた感染拡大を防ぐキーワード「3密(密閉・密集・密接)」は、スポーツ界に大きな影を落とした。
■3月24日、史上初のオリンピック開催延期へ
2020年3月24日、オリンピック開催国・日本の安倍晋三内閣総理大臣(当時)は記者会見で、国際オリンピック委員会 (IOC)のトーマス・バッハ会長、東京2020組織委員会の森喜朗会長、小池百合子東京都知事と電話会談を行い、Tokyo2020大会の1年程度延期を決定したと発表。オリンピックの開催が延期されるのは史上初の出来事だった。
しかし、この発表がされる前から、さまざまなスポーツイベント、東京五輪出場を懸けた予選などが中止・延期となっていた。2月に中国湖北省武漢市で開催予定だったボクシングのアジア・オセアニア予選は、3月にヨルダンのアンマンにて開催され、東京五輪出場選手を決定できたものの、ヨーロッパ予選は3月16日に打ち切りを決定。同時にアメリカ大陸予選や世界最終予選は中止となった。
空手やフェンシングのように、複数の国際大会で獲得できるポイントによるランキングで出場枠を争う競技は、対象となる大会の変更、あるいは前倒しでの東京五輪出場選手の決定を迫られた。全日本空手道連盟は選考対象となる国際大会の中止を受け、3月17日に全階級の東京五輪出場内定選手を発表。その後、東京五輪が1年程度延期されたことを受け、6月22日に組手の男子67キロ級と女子61キロ級について再選考すると発表した。
【空手】東京五輪代表の再選考を正式発表…組手の男子67キロ級と女子61キロ級
7人制ラグビーの日本代表入りを目指していた福岡堅樹のように、東京五輪の1年程度延期をキッカケに代表を引退、あるいは現役引退を決める選手がいる一方、原則23歳以下のみの参加となる男子サッカーのように、規制を緩和(※2021年大会では原則24歳以下の参加が可能に)されるケースや、空手などのように、選考の“仕切り直し”が行われる競技も少なくはない。また、例年とは異なるシーズンとなりながらも、日本プロ野球や日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)にように、開催へこぎつけたスポーツもある。
ただし、甲子園(選抜高等学校野球大会・全国高等学校野球選手権大会)やインターハイ(全国高等学校総合体育大会)のように、学生にとって集大成となる舞台が失われたことを、忘れてはならない。
■SNSにeスポーツ、新たな可能性を見出すアスリートたち
新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、大会などのイベント開催はもちろん、練習拠点に集まることも難しい日々。国や地域によってはロックダウン(都市封鎖)、日本でも自宅待機が推奨される中、これまでインターネットに対して消極的だった、あるいは全く縁のなかったアスリートや競技団体までもが、SNSを積極的に活用することになる。それは自身のファンに向けた近況報告、メッセージの発信に限らず、“おうちトレーニング”のような、アスリートの知見を活かす内容も含まれていた。トップアスリートによる自宅トレーニング動画は、外出の自粛、またはテレワーク・自宅勤務の増加により運動不足となった人たちにとって優れた教材として歓迎されることになる。
陸上の桐生祥秀らが「今スポーツにできることリレー」を実施。競泳の瀬戸大也は自宅に簡易プールを設置【コロナ禍でのアスリートたち】
有観客はもちろん、無観客でのイベント開催すらも自粛される中、オンライン上で行われる「eスポーツ」が注目されるようになる。実際のトラックや芝、コートの上で行われるスポーツと、eスポーツ。同じ「スポーツ」という文字を冠しながら、別物と捉えられることが多かった両者の距離が、新型コロナウイルス流行下で接近する。北米プロバスケットボールNBAは、ビデオゲーム大会「NBA 2K Players Tournament」を開催。現役のスター選手が参加した大会には、ワシントン・ウィザーズの八村塁もエントリーした。
【eスポーツ】錦織圭、大坂なおみ、八村塁、岡崎慎司ら…日本人アスリート出場イベント
そのほか、自転車ロードレースでは、スマートトレーナーを用いたプロ参加のバーチャルレースも開催されたほか、世界各地でスマートフォンのGPS機能などを利用した「オンラインマラソン」が実施されるなど、2020年はアスリートとインターネットがより密接になる年だったと言える。
■リモートマッチ、選手たちへのPCR検査徹底…新型コロナウイルス下でのイベント再開
12月8日、世界に先駆けてイギリスで新型コロナウイルスのワクチン接種がスタートした。新型コロナウイルスに関しては、いまだ全容が解明されていないものの、克服に向けて大きな一歩を踏み出すことになった。しかし人類はワクチンが開発されるまで、手をこまねいていたわけではない。急速な感染拡大により、多くのイベントが開催中止・延期を余儀なくされたが、徹底した感染拡大対策の下、イベントが再開されることになる。その象徴の1つがプロ野球だ。
日本プロ野球は当初、3月20日に開幕する予定だったが、新型コロナウイルスの影響により延期となる。NPBはJリーグと合同でガイドラインを策定。全球団の選手・監督などを対象に、PCR検査を実施するなどして、6月19日に無観客で開幕を迎えた。そして7月10日に、5000人を上限として有観客試合を再開。交流戦やオールスター戦の中止などはありながらも11月25日、日本シリーズを制した福岡ソフトバンクホークスが日本一に輝いた。この試合には、福岡PayPayドームに1万9679人の観客が集まった。
【プロ野球】11月25日|柳田、甲斐の一発でソフトバンクが日本シリーズ4連覇
プロ野球やJリーグのように有観客を再開したスポーツがある一方で、ホッケー日本リーグなど、全試合をリモートマッチ(無観客試合)でシーズンを終えた興行も少なくない。また、11月に東京で行われた体操の国際大会「Friendship and Solidarity Competition (友情と絆の大会)」では、内村航平が事前のPCR検査で陽性と判定されるも、その後「偽陽性」だったと判明。新型コロナウイルス対策の難しさが浮き彫りとなった。
■「withコロナ」で迎える2021年へ
2020年12月、新型コロナウイルスのワクチン接種が開始された一方、変異した新型コロナウイルスの事例が報告されるなど、新型コロナウイルスをめぐる状況は予断を許さない。
そうした中でも、3密を避けるほか、マスク着用、咳エチケット、手指消毒の徹底など、2020年に確立した「新しい生活様式」は、2021年においても有効となる。従来のスポーツイベントを、いかに新しい生活様式とすり合わせていくか。これが2021年においても、大きなテーマとなる。