卓球日本代表が“絶対王者”中国を脅かし始めた。シングルスとダブルスを組み合わせた5試合で3試合を先取したチームが勝者となる男子団体戦で、そうした傾向は顕著だ。2016年リオデジャネイロ五輪では、中国に挑んで銀メダルとなった。リオデジャネイロ大会以降、日本の卓球界を牽引してきた水谷隼に加えて、若い張本智和が台頭しており、チーム力のボトムアップが図られている。
団体戦はオーダー次第で、難敵と言われる相手でも、試合を優位に進めることができるため、選手個人の力量はもとより、チームとしての戦略性も問われている。周到にデータを収集し、チームとしての緻密な戦略を立てて、戦術を駆使すれば、世界の強豪に勝利する可能性は十分にあるのだ。東京五輪でリオの借りを返すことができるのか、金メダル奪還への期待がかかる。
オリンピックで初の銀メダル獲得
卓球がオリンピックの正式種目となったのは1988年のソウル五輪から。団体戦は2008年北京五輪からだ。日本の男子団体は、2016年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得している。このときは水谷隼、吉村真晴、丹羽孝希が勝ち進み、準々決勝で香港、準決勝でドイツを下して決勝に駒を進めた。決勝は残念ながら中国のチームに1-3で敗れた。
第1試合のシングルスで、丹羽が世界ランク1位に君臨する中国の絶対的エース馬龍に敗戦したが、続くシングルスで水谷選手が許昕に競り勝ち1対1のタイに。しかし、第3試合のダブルスで丹羽・吉村ペアが張継科・許昕ペアに負け、あとがなくなった第4試合のシングルスで、吉村が馬龍に敗戦しトドメを刺された。
しかし、オリンピックの男子団体で銀メダルを獲得したことは、日本の卓球界にとって歴史的な快挙。選手たちは充実と悔しさをにじませ、4年後の東京五輪に向けてさらなる成長を誓った。
「ミスター卓球」とともに日本卓球界の黄金時代を支えたレジェンド
日本の卓球は1950〜1970年代に黄金時代を経験している。レベルは世界トップクラスで世界選手権で計48個の金メダルを獲得している。
「ミスター卓球」と呼ばれた荻村伊智朗氏は国際的にも有名だが、彼と並んで日本卓球界の黄金時代を支えた選手たちの中に田中利明氏がいる。田中氏は1955~1957年の世界選手権団体男子に3大会連続で出場し、いずれも金メダル獲得に貢献した。現役引退後は、日本卓球協会強化本部長やバルセロナ五輪の日本代表総監督を歴任し、荻村氏らとともに世界卓球殿堂入りを果たしている。
道まだ半ばの男子団体
2016年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得するまで、男子団体は韓陽・水谷隼・岸川聖也の3選手で出場した2008年北京五輪も、水谷隼・岸川聖也・丹羽孝希の3選手で出場した2012年ロンドン五輪もベスト8止まりだった。北京五輪ベスト4、ロンドン五輪銀メダル、リオデジャネイロ五輪銅メダルの戦績を残してきた女子団体に一歩遅れている感がある。
一方、オリンピックの団体戦とはルールが異なるが、世界選手権は1952~2018年の28大会で金7、銀6、銅9の計22個を獲得している。ただ、金メダルは1969年が最後で、2000年代に入ってからは2016年に銀メダルを取った以外は銅メダルばかりだ。世界選手権でも女子団体は、男子よりもメダル数が24個(金8、銀6、銅10)と少し上回っているが、1971年以降は金メダルがなく、銅が多いことは男子と変わらない。
なお、ワールドカップは2018年に銀メダルを獲得するなど計4個。アジア大会は1958~2014年の13大会で金2、銀4、銅6の計12個だが、金メダルは1966年が最後で、1986年以降は銅メダルが多い。他の大会と同じような傾向が見られる。
“絶対王者”中国に挑む韓・独・日
現在、卓球は中国が圧倒的な強さを誇っている。2016年リオデジャネイロ五輪までの男子シングルス国別メダル数は、25個のメダルのうち、金メダル5個、銀メダル5個、銅メダル4個の計14個を中国が獲得している(全種目では100個のうち金28、銀17、銅8の計53)。
団体男子を見ると、中国は2008年から3連覇。2018年の世界卓球でも9連覇を達成し、男子個人の世界ランキング(2018年12月時点)は樊振東1位、許昕2位、林高遠4位と、若き実力者がベスト5に名を連ねている。順位こそ11位に落としているが、エースの馬龍も健在だ。東京五輪に向けては、馬龍と許昕の2大エースに樊振東、林高遠など、成長著しい若手がどのように融合するのかが注目されている。現在は、銀メダルと銅メダルをドイツ、韓国、日本で争う構図となっている。2016年リオデジャネイロ五輪の準決勝で、日本がドイツを初めて破った際、ドイツの有力メディアは「たたきのめされた」「牙を抜かれた」など、過激な見出しを掲げて悔しがり、「ベテラン中心のドイツは世代交代に失敗した」と解説した。ドイツは2020年東京五輪までに世代交代を終えて、ニューフェイスで挑戦してくるだろう。
メンバーは水谷・張本プラス1か
2018年12月時点の男子シングルスの世界ランキングを見てみると、張本智和5位、丹羽孝希10位、水谷隼13位、吉村真晴28位、上田仁32位、大島祐哉33位、松平健太41位、森薗政祟48位、吉村和弘65位、𠮷田雅己69位、及川瑞基77位、宇田幸矢94位の12選手が100位以内に入っている。
2018年度の男子ナショナルチームには、(1)丹羽孝希(2)水谷隼(3)張本智和(4)松平健太(5)吉村真晴(6)上田仁(7)大島祐哉(8)吉田雅己(9)森薗政崇の9選手が選ばれている。
2020年東京五輪の代表選手は、まず、男女ともにシングルス代表を2020年1月発表の世界ランキング上位2人とする。団体戦要員の3人目は、世界ランキング、ダブルスなどの実績や相性を考慮し、メダルを取れる選手を強化本部で推薦する。2020年1月に男女計6人が発表される見込みだが、現段階では、ランキング上位の張本、水谷の2選手が大本命で、残る1席を激しく競う展開になりそうだ。
張本選手は両親がいずれも卓球選手で、2017年のワールドツアー、チェコ・オープンを最年少の14歳で優勝している。2018年全日本卓球選手権の決勝で水谷選手と激突し、圧倒的な強さを見せつけて優勝した。水谷選手は長年海外のプロリーグに参戦してきた。全日本卓球選手権9回の優勝は過去最多で、長らく1強時代を続けてきた。
日頃からライバルとしてしのぎを削る選手同士が、同じ理念や目標を共有しながら一致団結できるかが、団体戦勝利の鍵だろう。日の丸を胸に一丸となって戦った末に輝くメダルは何色なのか、大きな期待が今からふくらむ。