Tokyo2020(東京五輪)の前哨戦となるFIVB(国際バレーボール連盟)バレーボールネーションズリーグ2021が、イタリアのリミニで5月25日に開幕した。
東京五輪本番で戦う国々に対してどのような戦いができるか。試合の内容もさることながら、注目されるのはこの大会後に発表される12名の顔ぶれがどうなるか。5週間に渡るネーションズリーグは、メンバー入りを懸けたサバイバルレースでもある。
バレーボール女子日本代表はタイ、中国、韓国との対アジア勢に3連勝と幸先のいいスタートを飾った。タイ、中国は現状のベストメンバーには程遠く、韓国もこの1年で代表選手の入れ替わりを余儀なくされた。完勝を収めた背景にはそういった事情があったかもしれないが、日本の攻撃が好調だったことも見逃せない勝因の一つだろう。
これまでの女子日本代表はディフェンス力重視で、攻撃枚数が限られることもあった。ネーションズリーグの3連戦では前衛、後衛、ミドルを含めた3枚から4枚の攻撃で、常に攻め込む積極的な姿勢が見られた。
攻撃を語る上でやはり中心になるのはセッターだ。この3連戦、日本の司令塔を務めたのは代表初選出の籾井あき(JTマーヴェラス)。長身の籾井は高い位置からのセットアップでアタッカーの打点を活かすことはもちろん、ラリー中の攻撃展開も前衛レフト頼みになるのではなく、セッター対角のオポジットやミドル、バックセンター、バックライトからの攻撃を巧みに使う。
中田久美監督も「高さがあり、ドリブルをしない。何より2年連続で所属チーム(JTマーヴェラス)を優勝させた度胸もある」と太鼓判を押す。その実力は、ネーションズリーグでもここまで存分に発揮されている。
国際試合のデビュー戦となった5月1日の中国戦(有明アリーナ/東京都江東区)は、世界ランク1位の相手に対し視野も限られ、高さと組織力で勝る中国ブロックに何本もポイントを献上した。しかし試合を重ねるごとに余裕が生まれ、持ち味が十分に活かされ、勝利を呼び込む原動力となっている。
その籾井をさらに活かしているのが、対角に入る黒後愛(東レアローズ)だ。セルビアやイタリアなどの欧州勢や、アメリカ、ブラジルといった世界の強豪でセッター対角に入る選手はオポジットと呼ばれ、攻撃型の選手が入るのが主流。日本では長岡望悠(久光スプリングス)もオポジットにあたる。
黒後には日本が長年武器としてきたスピードバレーのみならず、高さとパワーを活かした攻撃力、レシーブやトスが崩れた状況からハイセットを打ち抜く力がある。その上、攻撃だけでなくサーブレシーブを担う守備力も併せ持つ。
前述の有明での中国戦は本来の力を発揮できず、納得のできるパフォーマンスはできないまま途中交代に甘んじた。しかし、試合中も籾井と常に言葉を交わし合う姿が見られ、籾井も「どんなトスがどういう場面で欲しいかを話してくれる」と言うように、大事な場面で得点をもぎ取るべく、互いにとって、そしてチームのためにプラスへ働くためのコミュニケーションが為されている。
その成果が見られたのがネーションズリーグ2戦目、5月26日に開催された中国戦だ。有明での親善試合に出場した主力メンバーを欠く相手ではあったが、それでも高さで日本に勝る中国に対し、籾井と黒後のコンビは絶好調。
相手のサーブをレシーブしてからのサイドアウト時だけでなく、相手の強打をレシーブしてからのトランジション時も、黒後のバックアタックを含む攻撃が次々決まった。試合後には黒後が取材に応じ「相手どうこうよりも、今日は籾井とのコンビを合わせることに集中した。籾井がいろいろ考えて、うまく使ってくれていい結果になった」と笑顔を見せた。
エースの古賀紗理那(NECレッドロケッツ)や石川真佑(東レアローズ)など、攻守の要となるレフトからの攻撃力は強みだが、中田監督も「日本にとっては生命線」と言うライト側の攻撃がいかに効果を発するか。長年日本の課題として掲げられてきたポイントに明るい兆しが見えた。
黒後だけでなく、有明の親善試合で活躍した長岡や、ネーションズリーグの開幕3連戦で途中出場した林琴奈(JTマーヴェラス)など、タイプの異なる選手も揃い、それぞれが機能すればさらに厚みが増す。
連勝だけでなく、試合を重ねるごとに戦力の厚みを実感する。さらに試合が続く中、どんなスタイル、カラーが定着し、どの選手がフィットするのか。12名選びに嬉しい悲鳴が上がりそうだ。