クレー射撃:欧米優位の構図に変わりなし。日本は“父娘で五輪出場”に期待

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空中に飛び出したクレーといわれる素焼きの皿を散弾銃で撃つクレー射撃

射撃は銃器で標的を撃ち、精度の高さを競う競技だ。射撃には、空中に飛び出した標的を撃ち落とす「クレー射撃」と、固定された標的を撃つ「ライフル射撃」「ピストル射撃」がある。日本国内の競技人口は少なく、ヨーロッパ諸国を始めとする強豪国に遅れを取っているものの、日本にはオリンピック全競技を見渡しても珍しい、父娘そろっての出場を目指す選手がいる。もし実現することになれば、大きな話題になるかもしれない。

飛んでいるターゲットを撃ち抜け

クレー射撃は空中に飛び出したクレーといわれる素焼きの皿を散弾銃で撃つ。ひとつの装置から遠くに飛んでいくクレーを撃つ「トラップ」と、左右の装置から飛び出したクレーを撃つ「スキート」があり、それぞれ男女別で行われる。2020年東京五輪では、トラップに男女混合の「トラップ・ミックス」が新種目として加わる。

クレー射撃は18世紀後半のヨーロッパで、当時、王族しか楽しめなかった狩猟を、貴族たちが模して、標的として放ったハトを撃ち落としたことが起源。その後、ハトの替わりにクレーを標的として競技化され、1900年パリ五輪から競技として採用された。

クレーの大きさは直径11cm。飛ぶ速度は秒速22~30mになり、それを撃ち抜く弾丸は秒速300mを超える以上になる。銃を撃ったときに体にかかる反動が大きいため、体力はおろそかにできない。ただ、それ以上に精神力が求められている。引き金を引く瞬間の判断と精密な動作を繰り返すために、いかに集中力を高められるかが、勝負の分かれ目となるからだ。手に汗を握るような緊張感の中、弾丸がクレーに命中すると乾いた音を立てて砕け散る。その様子は非日常的で、ある種の爽快感が得られ、クレー射撃の最大の醍醐味だろう。

トラップとスキートの2種目

トラップは横一線に配置された5カ所の射台を順に移動しながら、前方15メートルの位置から発射されるクレーを撃つ競技です。射手は銃を構えた状態で掛け声をかけ、その声に反応してクレーが飛び出す仕組みです。1ラウンドにつき25枚を撃ちます。命中すると1点です。1ラウンドに要する時間は25分程度。クレーが放出される角度や高度、飛行距離は9通りで、抽選などによって決められている。トラップの放出速度は3種目の中で最も速い。1枚のクレーに対して発射できる弾丸は2発。トラップは世界各国それぞれのルールで行われているが、オリンピックで実施されるトラップが、最も難度が高いとされている。

一方、スキートは直径36.82mの半円形に配置された1~7番と中心の8番の8カ所の射台を使い、さまざまな方向から1ラウンドで25枚のクレーを撃つ。射手の掛け声の後、3秒以内にクレーは放出される。クレーの飛び方は左、右、左右同時の3種類だ。1枚のクレーに対して1発しか撃てない。1ラウンドに要する時間は25~30分程度。1968年メキシコ五輪から正式種目となり、2000年シドニー五輪で女子種目が加わった。決勝で同点の場合は4番射台のみ使用し、サドンデスのシュートオフで決着をつける。世界トップレベルの戦いとなると、なかなか決着がつかず50個以上も撃つことがある。

クレーはオレンジ色に着色されていて、決勝ラウンドのみ弾丸が命中して砕けると、赤色の粉末が飛散する仕掛けになっている。

男子:トラップ

1日目に3ラウンド、2日目に2ラウンドの計5ラウンドで予選を行い、ファイナルズは50枚のクレーを撃つ負け抜け方式。

男子:スキート

1日目に3ラウンド、2日目に2ラウンドの計5ラウンドで予選を行い、ファイナルズは60枚のクレーを撃つ負け抜け方式。

女子:トラップ

3ラウンドで予選を行い、ファイナルズは50枚のクレーを撃つ負け抜け方式。

女子:スキート

3ラウンドで予選を行い、ファイナルズは50枚のクレーを撃つ負け抜け方式。

混合:トラップ

これまで男子のみのダブルトラップだった競技を混合団体に変更。


日本人メダリストは一人

クレー射撃の日本代表は、過去、男子トラップの渡辺和三選手が銀メダルを獲得したのみ。自身三度目の出場となった1992年バルセロナ五輪で決勝ラウンドへ。チェコスロバキア(当時)のペトル・フルドゥリチカとともに同点1位にとなり、サドンデスのシュートオフに進出したが、左クレーを外し銀メダルに終わった。しかし、当時44歳でのメダル獲得は、バルセロナ五輪日本選手団での最高齢記録であり、アジア人男性史上初のメダル獲得となった。また、安倍政権で財務大臣を務める麻生太郎元首相は1976年モントリオール五輪の日本代表で、41位という成績を残している。

父娘での出場なるか

日本クレー射撃協会は2018年9月7日、2018年の世界選手権、2019年のワールドカップ、アジア選手権で国・地域別の出場枠を獲得した選手を、そのまま東京五輪の代表にする方針を決めた。個人種目の国別出場枠は、最大で2枠とされているが、日本は取れなかったとしても、開催国として各種目で1枠が保証されている。

注目選手は女子スキートの折原梨花だろう。高校時代には国体のビームライフル射撃に種目で優勝し、うち1種目では大会新記録を樹立。今、メキメキと力をつけているクレー射撃のニューヒロインだ。父の折原研二もクレー射撃の日本代表選手で、全日本選手権7連覇という実績を持つ。親子で一緒に練習することが多く、娘の梨花は、何か疑問があれば、父の研二にすぐに相談するような関係だそうだ。2018年にジャカルタで開催されたアジア競技大会には親子で出場した。父の研二はオリンピック出場の経験はなく、2020年東京五輪に親子そろっての出場を目指している。実現すれば高い注目を集めるだろう。

欧米諸国の牙城を崩せるか

日本国内ではマイナースポーツの射撃競技。しかし、発祥地のヨーロッパでは、歴史と伝統があり、競技は盛んに行われ、強豪国も多い。また、アメリカも強く、近年では中国や韓国の台頭が著しい。

2016年リオデジャネイロ五輪の成績を見てみると、男子トラップの金メダルはクロアチア、銀メダルはイタリア、銅メダルはイギリス。男子スキートの金メダルはイタリア、銀メダルはスウェーデン、銅メダルは独立参加。女子トラップの金メダルはオーストラリア、銀メダルはニュージーランド、銅メダルはアメリカ、女子スキートの金メダルはイタリア、銀メダルは同じくイタリア、銅メダルはアメリカとなっている。

日本は開催国として各種目1枠の参加がすでに保証されている。これらの強豪国にどれだけ対抗できるかは、1年余りとなった時間で、どの程度成長できるかにかかっているだろう。また、集中力や精神力がものを言う競技なだけに、気候など慣れた環境下で試合が行える日本選手は有利だと言える。地元開催のアドバンテージをどこまで生かせるのか。クレー射撃で28年ぶりのメダル獲得に大きな期待が寄せられている。

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