トム・デイリー:オリンピック チャンピオン
これは、13年前にオリンピック初出場を果たした北京2008の時から、27歳となった彼がずっと聞きたかった言葉である。
ここ東京で、パートナーを組んでいるマティ・リーとともに、飛込競技・男子シンクロナイズド10m高飛込で、ついにやり遂げたのだ。
表彰台の上で、溢れる感情とともに、ずっと追い続けていたオリンピック金メダルを首にかけ、デイリーはLGBTQ+の若者たちへ直接言葉を投げかけ、彼自身の経験を伝えた。
「僕がまだ若かった頃、いつも孤独や周りとの違いを感じていて、馴染むことができなかった。なんだか、それは、社会が僕に求めるものとは明らかに違うものだったんだ」
「LGBTのみんなが、今どんな気持ちであったとしても、君は独りじゃないし、なんだってできるってことを伝えたい」
「それから、君をサポートしてくれる、家族や仲間がたくさんいるってこともね」
デイリーは、2013年にカミングアウトしており、絶対に辿り着けないと思っていたオリンピック金メダルを獲得した今、彼のプライドを伝えている。
自分でも信じられないくらい、ゲイであること、そしてオリンピックチャンピオンであることに、誇りを感じています
「今、自分自身も勇気に満ち溢れています。だって、僕がまだ若かった頃、自分のせいで、なりたい自分には絶対になれないし、自分はなんにもできないと思っていた」
「でも今、オリンピックチャピオンになって、なんでもできるってことを伝えられるって思っています」
どうやってデイリーは オリンピックの歴史を創ったのか
トム・デイリーという名前は、彼がずっと待ち焦がれていたオリンピック金メダルを東京から持ち帰ったということだけではなく、彼自身がオリンピックの歴史の一部になったということで記憶されることだろう。
179という数字。一部の人にとっては少なすぎるように見えるかもしれないが、これはオリンピックで、LGBTQ+コミュニティを代表している選手の数である。
Outsportsのレポートによると、東京2020の出場選手でLGBTQと公表している選手は少なくとも179名だという。
ロンドン2012では23名、リオ2016では56名ということと比較すれば、この数字には著しい変化を感じられる。ちなみに、デイリーも、彼自身のセクシャリティを公表したアスリートのひとりとして、これらの数に含まれている。
アメリカの競泳選手、エリカ・サリバンは、デイリーに追随するように、インタビューの中で彼女のアイデンティについてプライドをもって語っている。
サリバンは、女子1500m自由形で銀メダルを獲得、その後の記者会見では自分自身を「典型的なアメリカ人」と表現した。
「私は色々なカルチャーをもっていて、人とは変わっているところがあって、その意味ではたくさんのマイノリティーを集めたような感じ。まさに、アメリカそのもの」
「アジアン・アメリカ人というルーツがある女性として、日本という場所で表彰台に昇れたこと、そして歴史に残るような種目で、初めて銀メダルを獲得した人物がゲイの女性だなんて、ただただクール。最高よ」と回答。
デイリーのカミングアウトは、とりわけオリンピックに出場しいているLGBTQアスリートとして、当初より草分け的存在として評価されている。また、彼の勇気ある行動によって、今後もカミングアウトするアスリートの数が増え続けていくことであろう。
また、デイリーがメダルを首にかけていようと、そうでなくとも、20歳のサリバンが証明するように、彼が残したレガシーはとても偉大である。
デイリーを支える夫と息子
東京2020では選手の家族たちは東京に来ることができなかったが、その多くが自宅からずっと声援を送っている。デイリーの夫と息子も同様である。
デイリーは、息子を授かったことで、飛込競技についての考えや、自分自身へのプレッシャーに変化があったと明かしている。
「息子は1番の原動力で、彼がいるから、家に帰るし、彼をハグします。トレーニングで最高のダイブができた日も、逆にひどかった日も、いつだって息子に会うために家に帰ります。見返りを必要としない愛のおかげで、飛込に対する考え方も変わりました」
「前のトレーニングで、あれだけ上手にダイブすることができたのだから、それが今もできなきゃいけないと、理想の自分を決め込んでいたプレッシャーがあったのに、父親になってからは、全部プールに置いて、家に帰るようになりました。パパになって、1番の驚くような変化だと思います」
東京2020でずっと待ち望んでいた成功を収めた今、デイリーは家族と喜びを分かち合い、再会できることを楽しみにしている。
「家族に会うのが待ちきれないよ。夫と息子に大きなハグをして、この信じられない冒険を一緒に祝福したいな」