スポーツクライミング・楢崎智亜「今までで一番強いクライマーに」パリ2024オリンピック日本代表 

執筆者 Risa Bellino
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スポーツクライミング 楢崎智亜
写真: Dimitris Tosidis

数多くのドラマが繰り広げられ、観客を魅了し、深い感動を与えてきたオリンピック。その主役は、この瞬間のために全てを捧げ、技を磨いてきたアスリートたちだ。

7月26日〜8月11日まで開催されるパリ2024オリンピックでは、『光の都』パリに世界のトップアスリートが集まり、金メダル獲得や自己超越、支えてくれる家族や仲間のために全力を尽くす。

東京2020オリンピックで正式競技となったスポーツクライミングで金メダルに一番近い選手と言われ、初代王者を狙いながらも4位に終わり、悔しさを味わった楢崎智亜(ならさき・ともあ)。オリンピック後、日本スポーツクライミング界のパイオニアで東京2020銅メダリストの野口啓代(東京大会後引退)と結婚し、第1児を授かり、家族で気持ちを新たにパリへ向けて挑戦を続けてきた。この夏、ついにその3年間の想いと成長を再びオリンピックの舞台でぶつけることとなる。

ここでは、2016年にパリのベルシーアリーナでボルダー種目日本人初の世界選手権優勝を果たした楢崎が、思い出の地でもう一度、今度はオリンピックで頂点を目指す挑戦とその軌跡について紹介する。

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楢崎智亜の原点「上手くなるほど自由に壁を動き回れるクライミングの面白さ」

楢﨑家3人兄弟の次男として生まれた智亜は、兄がやっていたクライミングのジムについて行ったことがきっかけで、10歳の時にスポーツクライミングと出会い、彼の人生が大きく変わった。幼稚園から小学4年生まで器械体操に打ち込んでいたおかげで、持ち前の高い身体能力に加え、幼少期から培った瞬発力や空中でのバランス能力をスポーツクライミングでも存分に発揮し、登るたびに実力をつけていった。課題を攻略することの楽しさ、上手くなるほど自由に壁を動き回れる感覚が病みつきになり、どんどんのめり込んだ楢崎は、高校入学後16歳からワールドカップに参戦し始めると、高校3年の時にワールドカップ・ボルダーで5位入賞、初出場した世界選手権でTOP10入りを果たし、卒業後はプロクライマーの道へ進むことを決めた。

プロ転向後は、フィジカルに頼った登り方から勝つための登り方にシフトチェンジを行い、トレーナーから指導を仰ぎ、下半身の強化と、体の使い方を改善。課題に合わせてムーブを使い分ける技術面を向上させたことで、プロ2年目となる2016年で大躍進した。念願のワールドカップ(ボルダー種目)初優勝を飾った後、3大会連続2位入賞、そして最終戦ミュンヘン大会でシーズン2度目の優勝を飾ったことで、ワールドカップ年間チャンピオンに輝いた。1か月後の世界選手権では、ボルダー種目で日本人史上初となる世界王者に。ちょうど楢崎が快挙を達成したこの夏、2020年の東京オリンピックでスポーツクライミングが実施競技に採用されることが決定したことで、オリンピック金メダル最有力候補として、国内外から注目を集める存在となる。

東京2020の挫折から、パリ2024へ

『トモアスタイル』と呼ばれるダイナミックなムーブと攻めのクライミングを武器に、名実ともにトップクライマーに成長した楢崎は、スポーツクライミングファンの期待に応えるように、2019年の日本開催の世界選手権で、自身2度目のボルダー種目優勝、複合種目で男女を通じて日本勢初の世界一に輝き2冠を達成。東京2020オリンピック代表の座を決め、誰もが彼のオリンピックメダルを確信していた矢先に、パンデミックが発生した。

勢いに乗っていた楢崎に突き付けられた1年延期という大きな試練。自国開催の金メダル獲得のプレッシャーが膨れ上がり、ミスを恐れる精神状態で挑んだ東京2020は、実力を発揮できず4位に終わった。「開催が伸びたことで、自分の弱点ともっと向き合えたことで、逆にいろいろな練習ができてしまって。それで戦い方がまとまらなかったのはあります」(2024年3月Sportivaインタビュー)と当時を振り返る。

自分の期待に応えられなかった落胆と失意に暮れるも、切り替えることができたのは、3種目複合で実施された東京2020からルールが変わり、パリ2024ではボルダー&リードの2種目複合と、スピード単独種目に分かれたことだった。出場選手の顔ぶれも変わり、取り巻く環境も変化したことで、気持ちを切り替えることができたという楢崎は、複合に集中して強化を再スタート。競技を引退し、妻として全面的にサポートしてくれる啓代さんと二人三脚で、パリ2024出場枠を2023年世界選手権3位という結果で獲得し、再びオリンピックメダルに挑戦するチャンスを手に入れた。

TEAM JAPAN TVの夫婦対談で、啓代さんから現役の間に一番達成したい夢を問われると、楢崎は「今までで一番強いクライマーって思われること」と答えた。「クライミングは時代によってスタイルが変わってくるんですけど、『こいつはどの時代にいても強い』と思われるぐらい成長したい」と熱く語り、「啓代には競技に向かう姿勢だったりとか、誠実さっていうのが大事だって常に言われているので、そこは自分の心に留めながらこのまま頑張っていきたいなと思います」と、続けた。

2種目複合でのオリンピック初代王者を目指し、パリで妻と娘の声援に応えながら、楢崎の2度目のオリンピックの挑戦が8月5日からはじまる。

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スポーツクライミング日本代表、楢崎智亜の主な戦績

2024年

  • 4月10日 IFSCスポーツクライミングワールドカップ(B)優勝:柯橋大会
  • 2月10日 ボルダージャパンカップ 2位

2023年

  • 8月12日 IFSC クライミング 世界選手権・ベルン(C)3位
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)優勝:5月ソルトレイクシティ大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)2位:4月ソウル大会

2022年

  • IFSCクライミング・ワールドカップ優勝(C)10月盛岡大会(B)4月マイリンゲン大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)2位:5月ソウル大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)3位:6月ブリクセン大会
  • 2月5日 ボルダリングジャパンカップ 優勝

2021年

  • 9月21日 IFSC クライミング 世界選手権・ロシア(B)2位(L)5位
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)2位:6月インスブルック大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)3位:5月ソルトレイクシティ大会
  • 6月18日 コンバインド・ジャパンカップ 優勝(3連覇)
  • 3月6日 スピードジャパンカップ 優勝

2019年

  • 8月10日 IFSC クライミング・世界選手権・八王子(B、C)2冠達成
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)優勝:5月呉江大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)2位:4月マイリンゲン大会、4月重慶大会、6月ベイル大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)3位:10月廈門大会
  • 5月25日 コンバインド・ジャパンカップ 優勝(2連覇)

2018年

  • 9月16日 IFSC クライミング・世界選手権・インスブルック(C)5位
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)優勝:4月モスクワ大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)2位:6月八王子大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)3位:6月ベイル大会、(L)7月ヴィラ-ル大会
  • 6月23日 コンバインド・ジャパンカップ 優勝

2017年

  • IFSCクライミング・ワールドカップ(L)2位:10月呉江大会、10月廈門大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)2位:4月マイリンゲン大会、8月ミュンヘン大会

2016年

  • 9月14日 IFSC クライミング・世界選手権・パリ (B)優勝
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)優勝:4月重慶大会、8月ミュンヘン大会
  • IFSCクライミング・ワールドカップ(B)2位:5月ナビムンバイ大会、5月インスブルック大会、6月ベイル大会、8月都匀大会

2015年

  • 12月6日 IFSC クライミング・アジアユース選手権 プトラジャヤ(B)優勝(S)3位
  • 5月17日 全日本クライミングユース選手権ボルダリング競技大会 2015(ジュニア男子B)優勝
  • 3月29日 クライミング・日本ユース選手権2015(ジュニア男子L)優勝

※B=ボルダー、L=リード、S=スピード、C=複合

パリ2024オリンピック、スポーツクライミングの試合日程

以下、現地時間。スケジュールは変更になる可能性もある。

8月5日(月)

  • 10:00 男子ボルダー&リード複合、ボルダー準決勝
  • 13:00 女子スピード予選シード
  • 13:40 女子スピード予選

8月6日(火)

  • 10:00 女子ボルダー&リード複合、ボルダー準決勝
  • 13:00 男子スピード予選シード
  • 13:40 男子スピード予選

8月7日(水)

  • 10:00 男子ボルダー&リード複合、リード準決勝
  • 12:28 女子スピード準々決勝
  • 12:46 女子スピード準決勝
  • 12:55 女子スピード決勝戦

8月8日(木)

  • 10:00 女子ボルダー&リード複合、リード準決勝
  • 12:28 男子スピード準々決勝
  • 12:46 男子スピード準決勝
  • 12:55 男子スピード決勝戦

8月9日(金)

  • 10:15 男子ボルダー&リード複合、ボルダー決勝戦
  • 12:28 男子ボルダー&リード複合、リード決勝戦

8月10日(土)

  • 10:15 女子ボルダー&リード複合、ボルダー決勝戦
  • 12:28 女子ボルダー&リード複合、リード決勝戦

スポーツクライミング・楢崎智亜プロフィール

  • 名前:楢崎智亜(ならさき・ともあ)
  • 生年月日:1996年6月22日(28歳)
  • 出身地:栃木県宇都宮市
  • オリンピック歴:東京2020男子複合 4位
  • 出場種目:ボルダー&リード複合
  • ソーシャルメディア:InstagramYoutube

※年齢は2024年7月26日パリ2024オリンピック開会式当日を基準とした。