コーチのいないカルロス・ユーロがライバルたちから得た連帯感
もしカルロス・ユーロがポップスターだったら、マネージャーがいない状況でも、世界のベストとコラボし、才能あるアーティストやプロデューサーと共演して、次に予定されているニューアルバムを最高の状態で創出することができるだろう。
実際、現在23歳のユーロはコーチに頼ることなく競技に挑む体操競技選手であり、世界中の体育館に出入りして、同じレベルのアスリートたちとトレーニングを共にしたり、各地で出会うコーチからトレーニングのヒントを得たりしながら、開幕まで5か月もないパリ2024に出場する準備を進めている。
しかし、創造的でコラボを必然的に受け入れるポップスターと、ライバルとの1対1の熾烈な戦いを強いられるエリート競技ではどこか違いがあるかもしれない。
とはいえ、オリンピックのような最高レベルの競技の中であっても、アスリートたちの間では、ライバル同士で激しく競い合う状況にいながらにして、互いを支え合うといった美しい連帯感が存在する。
コーチのいないトレーニング
カルロス・ユーロと彼の7年間にわたるコーチだった釘宮宗大(くぎみや・むねひろ/現帝京大学コーチ)氏は、昨年10月から別々の道を歩むことになった。その直後のベルギー・アントウェルペンで開催された2023年世界体操競技選手権で、ユーロは個人総合で決勝進出を逃し、同種目でのパリ2024の出場枠獲得を逃した。
その後、今年1月から新しくコーチとなるはずだった佐野友治氏が怪我のためにユーロのコーチングを引き受けることができなくなり、世界体操選手権では2個の金メダルを含む合計6個のメダリストである彼はコーチなしでパリ2024を目指すことになった。
しかし、ユーロは、この2月、東京2020に出場したイ・ジュノ(大韓民国)がトレーニングするキャンプに招かれ、イギリス・リリーズホールの体操センターでは、オリンピックでのメダル獲得を目指すライバルたちとのトレーニングに励むことできた。
イギリスでは、ユーロは2023年世界体操競技選手権の跳馬の金メダリストであるジェイク・ジャーマン(イギリス)と一緒にトレーニングに取り組んだ。2人は、パリ2024で種目別ゆかと跳馬で金メダルを争う可能性がある。ユーロは、跳馬の現世界チャンピオンであるジャーマンから学び、ジャーマンはゆかの2019年世界チャンピオンであるユーロから学ぶことができ、お互いが切磋琢磨した。
2024年種目別ワールドカップ
パリ2024を前に、ユーロと最近のトレーニングパートナーであるイギリスのハリー・ヘプワースは、3月9日から10日にかけてアゼルバイジャン・バクーで行われた2024年 FIG 種目別ワールドカップ第3戦決勝に出場した。
この種目別大会は、まだパリ2024の出場枠を確保していない国々にとって、出場枠をかけて競い合う機会となった。
イギリスはすでに2022年の世界体操競技選手権で5人の出場枠を獲得しており、ユーロもまた、2023年の同選手権を通じてフィリピンの出場枠を確保している。この大会は彼らの実力を試す機会であるだけでなく、国内オリンピック委員会(NOC)に彼らの調子をアピールする機会となった。
ユーロにとって種目別ワールドカップに出場するのは初めてだったが、ゆかで銅メダルを獲得した。ヘプワースは跳馬で同じく銅メダルだった。
2月のドイツ・コットブスで開催された種目別ワールドカップ第2戦では、ヘプワースが、東京2020のゆかで金メダルを獲得しているイスラエルのアルチョム・ドルゴピャトを破り金メダルに輝いた。ユーロにとっては大きな刺激になったに違ない。
ライバルを練習に招いたシモーン・バイルス
体操競技界では、たとえライバルであっても互いに協力しあったり手を差し伸べたりする友情関係がしばしば見られる。
2017年世界体操競技選手権の個人総合、2022年同選手権の平均台で銀メダルを獲得したカナダのエリー・ブラックは最近、オーストラリア・キャンベラからカナダに帰国した。怪我からの回復に苦労した彼女は昨年12月、オーストラリア国立スポーツ研究所で2022年コモンウェルスゲームズ(イギリス・バーミンガム)の個人総合チャンピオンであるジョージア・ゴドウィンらと一緒にトレーニングを行っていた。「エリー + カンガルー = 純粋な幸せ🦘💕」とインスタグラムに投稿している。
ブラックはまた、アメリカに向かい、世界体操競技選手権で合計23個の金メダルに輝いたシモーン・バイルスがトレーニングする施設を訪れた。
「私をクラブに招待してくれてありがとう」と、ブラックはバイルスに世界オリンピック体操アカデミーでのトレーニングの後に投稿した。
「スポーツにおける女性の壁を打ち破り、自身の体操、価値観、そして自らと自らの健康を優先することで他の体操選手を励ます偉大なアスリートと一緒にトレーニングすることは本当に素晴らしかったです」
自国フランスで開催されるオリンピックでの活躍が期待されるメラニー・デ・ジェズス・ドス・サントスもバイルスとトレーニングを行っている。バイルスのテクニックだけでなく、どのようにプレッシャーと向き合うかなどについても貴重なアドバイスを得た。合計7個のオリンピックメダルを獲得したバイルスだけでなく、彼女のコーチであるセシル&ローラン・ランディからもアドバイスを受けることができた。
その結果、2023年世界体操競技選手権(ベルギー・アントウェルペン)でドス・サントスらフランスチームは女子団体総合で銅メダルを獲得した。これは同チームにとって、1950年の世界選手権(スイス)で銀メダルを獲得して以来のメダルとなった。同チームはまた自国開催のパリ2024オリンピックの出場枠を得ている。
選手たちは、オリンピックのようなハイレベルな戦いを1度でも競い合うと、たとえメダルを争うライバル同士であっても連帯感が生まれる。これは、スポーツこそが生み出す醍醐味であり大きな魅力であると言える。また、スポーツの発展において欠かせない要素だろう。