2012年ロンドン五輪や2016年リオデジャネイロ五輪など、ここ最近のオリンピックで、最も観客動員数の多い競技がビーチバレーだ。太陽の下、砂の上のコートで、水着に裸足のままプレーするビーチバレーは、求められるスタミナ、瞬発力、ジャンプ力は、インドアバレーに勝るとも劣らない。2人でインドアとほぼ変わらない広さのコートを守り、相手コートにボールをたたき込むというプレーは、瞬発力や連携力が大きく物を言う、見た目以上にハードなところが人気を集めている要因だろう。
東京五輪の開催国枠で、日本の出場は確保されている。ただ、メダルを争うためには、今後、さらなる飛躍が求められそうだ。
過去3大会に出場するも、いまだメダル獲得ならず
ビーチバレーは1992年バルセロナ五輪で公開競技として初めて採用された。5つの大陸から100人以上の選手が集まり、大きく盛り上がったことから、1996年アトランタ五輪で正式種目になった。日本男子はアトランタ五輪、2008年北京五輪、2012年ロンドン五輪の3大会に出場しているが、いずれもメダルは獲得できていない。
最高順位は北京五輪に出場した朝日健太郎・白鳥勝浩ペアの9位。次いでアトランタ五輪の瀬戸山正二・高尾和行ペアの17位、ロンドン五輪で朝日・白鳥ペアによる19位となっている。
川合俊一氏らがビーチバレー普及に尽力
日本のビーチバレー普及の立役者は、やはり日本ビーチバレー連盟会長で、タレントとしても活躍している川合俊一だろう。センタープレーヤーとして活躍し、日本体育大学在学中から全日本入り。長らく中心選手として活躍したのちに、キャプテンとしてチームを牽引した。ロサンゼルス五輪、ソウル五輪、ワールドカップなど、数多くの大会に出場経験を持ち、日本のバレーボールブームを支えたもっとも有名な選手のひとりだ。
川合氏は引退後に、プライベートで訪れたカリフォルニアの海岸で出会ったビーチバレーの魅力に引き込まれ、日本人初のプロ・ビーチバレーボーラーとして、世界各地のツアーに参戦。以来30年近く、ビーチバレーの普及活動に取り組んできた。
川合氏がビーチバレーと出会った旅に同行していたのが、大学の後輩の瀬戸山正二。瀬戸山もビーチバレーに転向。1992年に川合氏とともに、現在のPVA(Professional Volleyball Association)となるPVC(Point Volleyball Community)を設立し、競技の普及に務めてきた。1996年にはアトランタ五輪に出場している。1999年に現役引退、2000年シドニー五輪でビーチバレー日本代表の監督を務めている。この時、女子の佐伯・高橋ペアが4位になった。アトランタ五輪で瀬戸山とペアを組んだ高尾和行は「ミスタービーチバレー」と呼ばれた存在。
また、オリンピックに2度の出場経験のある朝日健太郎は、大学時代から全日本に選ばれ、卒業後に所属したサントリーのVリーグ3連覇の立役者となったミドルブロッカー。2002年にビーチバレーに転向してファンを驚かせ、ロンドン五輪後に引退。2016年に参議院議員に転身し、活躍のフィールドを政界に移した。
国内ランクトップ2の石島・高橋ペアに期待
現在、国内ランキングでベスト10に入っているのは、1位石島雄介、2位高橋巧、3位上場雄也、4位長谷川徳海、5位清水啓輔、6位西村晃一、7位白鳥勝浩、8位庄司憲右、9位越川優、10位土屋宝士の各選手だ。一方、2018年の国際バレーボール連盟のワールドツアーランキング(12月3日時点)では、国内ランキングの上位二人の石島・高橋ペアが74位、4・5位の長谷川・清水ペアが98位となっている。現段階でメダルを目指すには、プレーの質をさらに進化させることが不可欠と言えそうだ。
2020年東京五輪の出場枠は男女各24チームで、1カ国あたり最大2枠となる。日本は開催国枠として、男女各1チームの出場が確定している。ただ、開催国でなければ2016年リオデジャネイロ五輪に引き続き、出場すらできなかった状況だ。石島・高橋ペアも長谷川・清水ペアも、世界ランキングでは、それほど差が開いているわけではない。おそらく五輪出場はこの2組のどちらかになるだろう。出場する以上、開催国の意地をなんとか見せてほしい。
石島は2008年北京五輪に全日本メンバーとして出場。Vリーグの選手時代から、シーズンオフはビーチに取り組んできたが、2017年に転向したばかりで、いきなり国内ランキングトップに躍り出た。「ゴッツ」というニックネームが象徴する、屈強な巨体から放たれる威圧感と、幅の広いブロックが武器だ。一方、高橋はバレーの名門、春日部共栄高校を卒業後、大学時代からビーチバレーを始め、大学選手権で3連覇した実力の持ち主。小柄ながらスピード感があるディグと強烈なジャンプサーブでその地位を築いた。
長谷川は大学選手権で優勝後、ビーチに転向。ユニバーシアードやアジア競技大会など国内外の大会で経験を積んできた。年齢的にもベテランの域に入ったが、熱いプレーには定評のあるブロッカーだ。清水は大学時代にビーチバレーに転向して全国大学生選手権で準優勝。川崎市を拠点に自らスポンサーを集めたり、バレーボールの指導をしたりして、プロとして競技に専念できる環境を手に入れた。ジャンプフローターサーブとステップを生かしたコンビネーション攻撃が得意だ。
待ち構える海外の強豪たち
過去の五輪成績を見てみると、金メダルを獲得したのは、アメリカ3回、ブラジル2回、ドイツ1回となっている。なお、世界ランキングをみると、ノルウェー、オランダ、ラトビア、ポーランドなどの欧州勢が上位に並んでいる。前回リオデジャネイロ五輪の金メダリスト、ブラジルのアリソン・セルッティとブルーノ・シュミットペア、銀メダリストでイタリアのパオロ・ニコライとダニエレ・ルポのペア、銅メダリストでオランダのアレクサンダー・ブラウワーとロベルトメーブセンのペアは、20代後半から30代前半だ。彼らが活躍する姿が、東京五輪でも見られそうだ。中でも注目は世界ランキング1位のノルウェーペアだろう。アンデルス・モルとクリスチャン・ソーラムのふたりは、自ら“ビーチバレーバイキングス”と名乗り、2017-18シーズンの獲得賞金額で一位となっている。21歳、23歳と年齢も若く、現在の勢いに乗って、東京に乗り込んでくる可能性が高いだろう。