射撃:地の利を生かして強豪に立ち向かう東京五輪の有力候補たち

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ロンドン五輪に出場した小西ゆかり

銃が身近な存在ではない日本では、射撃競技はまだまだマイナーなスポーツだろう。しかし、発祥の地であるヨーロッパを始め、アメリカ、オセアニア、最近はアジアに至るまで、競技人口は多く、強豪国の壁は高い。国内でも続々と若手選手が育っている。開催国枠が保証されている2020年東京五輪では、活躍が期待できそうだ。ここでは射撃競技と注目選手を紹介しよう。

ライフルとピストル、そして散弾銃

射撃は銃器を用いて標的を撃ち、その精度の高さを競う。競技は、標的が固定されている「ライフル射撃」と、空中を飛んでいる「クレー射撃」に大別される。射撃は1896年の第1回アテネ五輪から、一時期を除いて、正式競技として、ずっと行われてきた。勝敗を分けるのは体力よりも、集中力や精神力にあるとされ、それを維持できるかでどうかであり、ライバルよりも自分自身との戦いといえるだろう。

ライフル射撃は同心円が描かれた標的の中心を狙って撃ち、中心に近いほど高得点になる。使用する銃はライフル銃とピストルに大別され、銃のタイプや標的までの距離などで、種目が細かく分かれる。銃のタイプはライフル、エアライフル、リムファイア・ピストル、エアピストルの4種類。距離は50m、25m、10mの3種類。撃つ姿勢も、片足の膝を立て、その上に銃を置いて構える「膝射(しっしゃ)」、体を伏せて銃を構える「伏射(ふくしゃ)」、立った姿勢で銃を構える「立射(りっしゃ)」の3種類があり、それらを組み合わせた種目もある。

一方、空中に飛び出したクレーといわれる皿状の標的を散弾銃で撃つのがクレー射撃。クレーがひとつの装置から発射される「トラップ」と、左右の装置から飛び出す「スキート」がある。

2020年東京五輪では15種目が実施されるが、新たに10mエアライフル、10mエアピストル、クレーのトラップで、男女混合種目が加わることになっている。各種目とも国・地域別の出場枠は最大2枠。日本は開催国枠として、男女個人各6種目で1枠ずつ、計12枠が確保されている。出場枠に入るための予選は、2018年の世界選手権をはじめとする国際大会の結果が参考にされる。

ライバルたちに負けるな。注目の日本選手

競技発祥の地であるヨーロッパやアメリカなどの強豪国で、日本は2000年代に入ってからオリンピックでのメダル争いに加わることはできていない。また、ピストル射撃では、史上初の五輪3連覇を達成した韓国の秦鍾午(チン・ジョンオ)や、ベトナムに初めて金メダルをもたらしたホアン・スアン・ビン、女子10mエアピストルでは、北京五輪、ロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪と、3大会連ぞくで中国選手が金メダルを獲得するなど、アジアにもライバルがひしめいており、少なくとも彼らを超えない限り、メダルは期待できない。

ただ、2018年アジア競技大会の10mエアピストルで、松田知幸選手(神奈川県警)が銀メダル、男子ライフル3姿勢で、松本崇志選手(自衛隊)が銅メダルを獲得し、2020年への可能性を感じさせた。2018年6月時点のナショナルチームの中から、2020年東京五輪で期待ができそうな選手たちに注目してみた。

男子ライフル:島田敦

島田敦は1998年7月20日生まれ。埼玉県上尾市出身で、現在は日本大学2年生。中学までは野球少年だったが、肩の痛みから限界を感じていたころ、進学した埼玉県の私立栄北高校の部活見学で入った射撃場の緊張感に圧倒され、ライフルの魅力にとりつかれたそうだ。高校3年生で出場した全国高校ライフル射撃競技選手権を大会新記録(624.3点)で優勝。日本大学に進学し、2017年はジュニア世界選手権で優勝(日本チーム世界新記録)、ワールドカップファイナルで6位、アジア・エアガン選手権で10位など、数々の成績を残している。

女子ライフル:清水綾乃

清水綾乃は1990年11月18日生まれ。岐阜県岐阜市出身で、現在は自衛隊体育学校所属。中学生のときにライフル射撃のアメリカ元代表で金メダリストの著書を読み、何をやってもうまくいかなかった少年が五輪メダリストになるまでのサクセスストーリーに感動し、中学3年生から射撃教室に通い始めたそうだ。地元のライフル射撃強豪校の済美高校に進学し、毎日練習に励み、高校2年生、高校3年生と国体10mライフルで連覇を果たす。その後、中央大学に進み、大学2年生で念願のナショナルチームの一員になった。卒業後は自衛官の道を選び、自衛隊体育学校の射撃班で腕を磨いている。2016年アジア・エアガン選手権大会4位、2017年ワールドカップ6位入賞。初出場の2018年アジア競技大会では、メダルが期待されていたが、出場した3種目すべてで予選敗退となった。

男子ピストル:松田知幸

松田知幸は1975年12月12日生まれ。神奈川県横浜市出身で、現在は神奈川県警の警察官だ。競技用拳銃を始めたのは2002年から。始めた頃は「落ちこぼれで毎日バカヤロー、へたくそと怒鳴られていた」という。2008年北京五輪、2012年ロンドン五輪、2016年リオデジャネイロ五輪に出場。2010年世界選手権では50mピストル、エアピストルで2冠を達成。2017年ワールドカップファイナルの男子10mエアピストルで世界新記録となる241.8点をマークして優勝した。

女子ピストル:小西ゆかり

小西ゆかりは1979年1月11日生まれ。北海道二海郡出身で、現在は飛鳥交通に所属している。北海道八雲高校卒業後、自衛隊に入隊し、競技を始めたのは2000年春に自衛隊体育学校に所属してから。自衛隊入隊後、64式小銃の検定結果がよかったことからスカウトされたそうだ。射撃の魅力について、「対戦相手がいないことから集中力がアップし、感受性や精神面での向上が大きく望める」と語る。2004年アテネ五輪、2012年ロンドン五輪に出場した。2017年、東京五輪のリハーサルを兼ね、日本で初めて開催されたアジア・エアガン選手権女子10mエアピストルで、アジア記録を更新する245.3点をマークし、初優勝を飾った。

クレー射撃:折原研二と折原梨花

ベテランの折原研二選手と娘の折原梨花選手が、親子での東京五輪出場を目指している。テレビ番組の特集などでも取り上げられており、射撃に興味のない人たちでも、折原親子のことは知っているのではないだろうか。研二選手は全日本選手権7連覇の実力者。娘の梨花は現在大学3年生。クレー射撃で初めてメダルを獲得する女子選手になるのが目標だそうだ。2018年のアジア競技大会には親子で出場しており、東京五輪も一緒に出場できるのか注目を集めている。

私たちの応援が日本代表選手の援護射撃に

射撃の競技は欧米諸国をはじめとする強豪国の壁は高い。しかし、国内でも若手が成長しつつあり、年齢を重ねても続けられるため、折原選手親子のように、二世代での出場も夢ではなくなってきている。まだまだマイナースポーツだが、ライフル射撃の射撃場には圧倒されるほどの緊張感があふれ、クレー射撃では、クレーが粉砕されたときの興奮と爽快感が味わえる。東京五輪が始まる前に、一度、射撃場に足を運んでみてはどうだろうか。部活見学で射撃に魅了された島田選手のような経験ができるかもしれない。そして、メダル獲得に挑む日本代表選手たちの活躍に期待しよう。私たちの応援が彼らの援護射撃になるはずだ。

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