テコンドー男子:伏兵日本が地の利を生かして旋風を巻き起こせるか

1955年、韓国人のチェ・ホンヒ氏が民族独自の武道を求めて確立した格闘技テコンドー。

日本の空手にも似た韓国の国技テコンドー。多彩な足技で防具をつけた部位に全力で蹴り込む激しいスポーツだ。日本はすでに開催国枠で男女各2階級、合計4名の出場枠を確保している。国内ではマイナースポーツだが、世界では競技人口が増えており、各国のレベルが急速に上がってきている。そのため、メダル争いは激しいものになりそうだが、若手選手の台頭がめざましく、世界から見れば伏兵の日本が思わぬ活躍を見せるかもしれない。

韓国の国技

テコンドーは1955年、韓国人のチェ・ホンヒ氏が民族独自の武道を求めて確立した格闘技。試合ではヘッドギアと防具を装着し、足技で相手を倒す。韓国では戦後、国技として普及した。古くから朝鮮半島に伝わる武術のテッキョンと、チェ氏が日本で学んだ松濤館空手を母体としている。競技人口は7000万人以上といわれ、世界に広がっている。

オリンピックでは1988年ソウル五輪と1992年バルセロナ五輪で、公開競技として行われた後、2000年シドニー五輪から正式競技に採用された。日本国内には1980年代に入ってきて、1990年代には全国大会も行われたが、なかなか普及しなかった。しかし、2000年シドニー五輪で、女子代表の岡本依子が67kg級で、日本人初の銅メダルを獲得したことから注目を集め、競技人口も増えていった。

テコンドーには「組手」と「型」があるが、オリンピックでは「組手」が採用されている。また、2020年東京五輪のパラリンピックで初の正式種目となる。

ダイナミックな蹴り技の応酬

テコンドーは「足のボクシング」ともいわれ、スピーディーかつ華麗でダイナミックな蹴り技の応酬が見られる。前蹴り、横蹴り、回し蹴りなど、実に多彩なキック技が飛び出す。選手の柔らかい身体、長い足から繰り出される跳び蹴りや宙返り、かかと落とし、後ろ回し蹴りなど、まるでアニメやテレビゲームの格闘技のような戦いが繰り広げられます。

男子は58kg級、68kg級、80kg級、80kg超級の4階級ごとに、トーナメント方式で争う。8メートルの八角形のマットで1ラウンド2分間を3ラウンド行う。インターバルは1分間。ノックアウトで決着する場合と、得点・減点の合計で決まる場合がある。3ラウンドで決着しないとゴールデンポイントの延長戦を行う。

試合では頭にヘッドギア、胴体に防具を装着する。オリンピックなどの国際大会では、技術の有効性や打撃の強さを正確に判定するため、プロテクターやヘッドギアにセンサーが仕込まれている。下半身などプロテクターを付けていない部位への攻撃は反則だ。

ポイントは基本的に攻撃が当たることで加算される。最高点の4点は、頭部への回転蹴りに加え、飛び回し蹴りや後ろ回し蹴り、また、180度回転した後の頭部への攻撃。頭部への回転蹴り以外の蹴り技や、胴の防具への回転技、かかと落としは3点となる。倒れた後、10カウント後にファイティングポーズをとれないとKO(ノックアウト)になる。KO勝ちはあまり多くなく、ほとんどの試合はポイントで決まる。


シドニー五輪の初メダルで注目を集める

日本のテコンドーの歴史は浅く、オリンピックでのメダルは、2000年シドニー五輪女子67kg級で、岡本依子選手が獲得した銅メダル1個のみ。2012年ロンドン五輪、濱田真由選手が5位入賞、笠原江梨香選手が7位。2016年リオデジャネイロ五輪で濱田が再び出場したが、9位に終わった。

岡本選手は大学時代、アメリカ留学中にテコンドーと出会い、シドニー、アテネ、北京五輪の3大会に連続出場した。アテネ五輪は、テコンドー国内競技団体の分裂騒動により、出場が危ぶまれたが、10万人近い署名を集め、日本オリンピック委員会の救済措置により、個人資格による異例の出場だった。現在はテコンドーの普及活動に取り組むとともに、テコンドーの動きをもとにしたダイエットプログラムを開発し、健康増進のための活動も行っている。

こうした活躍は女子選手ばかりで、男子は2000年のシドニー五輪に樋口清輝選手が出場したのみ。残念ながら一回戦敗退で終わっている。

鈴木セルヒオ選手が最有力

男子の最有力選手は58kg級で2018年1月の全日本選手権で2連覇を達成し、ジャカルタで開催されたアジア競技大会で銅メダルを獲得し、16年ぶりのメダルを日本にもたらした鈴木セルヒオだ。2016年リオデジャネイロ五輪への出場は、あと一歩のところで逃したが、2020東京五輪への出場に期待がかかる。日本人の父とボリビア人の母を持ち、東京で生まれたのち、家族で移住したボリビアで育った。高校はテコンドーの本場である韓国の強豪校、漢城高校に単身留学、大学は日本の大東文化大学に進んで、テコンドーに打ち込んだ。JOCの強化指定選手として、前回五輪に出場できなかった雪辱を期している。

2017年全日本学生選手権63kg級で優勝し、2018年全日本選手権58kgで3位になった大東文化大学4年生の前田寿隆も有望選手の一角だろう。このほかにも多くの若手選手が育っている。

また、元UFCファイターで現在は異種格闘技戦をテーマにした異色の格闘技イベント「巌流島」を拠点に活動する菊野克紀選手が、2020年の東京オリンピック出場を目指し、テコンドーに挑んでいる。2018年1月の全日本選手権80kg級では、初出場ながら準優勝を果たし、周囲を驚かせた。ただ、オリンピックに出場するためには、国内大会のみならず、世界選手権など国際大会にも出場し、2019年12月時点の世界ランキングで上位に入らなければならない。そのためには、オリンピックの強化指定選手に選ばれる必要もあり、菊野に残された時間はあまり長くない。

先頭を走る韓国、それを追うヨーロッパや西アジア諸国

テコンドーは韓国の国技だけあって、当然ながら韓国が強い。とりわけ女子はその傾向が続いている。2016年リオデジャネイロ五輪では、女子の49kg級キム・ソヒ、67kg級オ・ヘリ両選手が金メダルを獲得している。一方の韓国男子は、ここのところ金メダルには手が届かないようで、58kg級キム・テフン、68kg級イ・デフン、80kg超級チャ・ドンミンが銅メダルとなった。

とりわけ男子は、2大会連続の金メダルはおろか、銀、銅メダルの獲得も難しく、オリンピックの度にニューフェースが台頭し、続けて勝つことが難しい状況が続いている。2020年東京五輪で前回大会のメダリストが、再び表彰台に上がれるかどうかを予測するのは困難だ。競技人口は着実に増えており、韓国以外の諸外国も力をつけてきている。

2017年の世界選手権では中国、タイ、トルコ、ロシア、イラン、イギリスが3個以上のメダルを獲得。これらの国のほかに、リオデジャネイロ五輪では、ヨルダン、コートジボワール、アゼルバイジャンが金メダルを獲得した。男子のメダル獲得国はニジェール、キューバ、ガボン、ギリシャ、チュニジア、アルゼンチンなど。2020年東京五輪では、果たしてどの国の選手が表彰台に上がるのか。男子初のメダルが取れるように、大きな声で声援を送りたい。

もっと見る