Tokyo 2020(東京五輪)最大のハイライトは、準々決勝・ニュージーランド戦のPK戦だった。
南アフリカ、メキシコ、フランスがそろった難しいグループを首位で通過した日本は、ベスト8でニュージーランドと対戦。序盤から相手の戦術に苦しみ、なかなかゴールが奪えない時間が続くと、120分間を終えて0-0のままPK戦へと向かった。
ここでヒーローになったのが、日本の守護神・谷晃生である。
ガンバ大阪でプロキャリアをスタートさせ、昨季に期限付き移籍先の湘南ベルマーレでデビューを飾ったばかりの谷は、かつて開催されたU-17ワールドカップという国際大会に出場した際、PK戦で敗れた過去があった。だからこそ、より一層、PK戦での勝利にこだわっていた。
「僕自身、あの時に負けた悔しさがあった。今日はそれを払しょくするチャンスだと思って落ち着いて入れました」
元日本代表GKである川口能活コーチに「お前の直感を信じてやれば、絶対にヒーローになれる」と背中を押された谷は、相手の2本目のキックに対して素晴らしい反応でセーブ。3本目もプレッシャーをかけてミスを誘った。結果、この2本が入らなかったことで日本は勝利。さらに上の舞台で戦う権利を得たのだった。
チームの中で大会を通して大きく成長した選手が何人かいる。谷も、その1人だ。大会が始まる前はGKを不安視する声も聞かれていた。だが、前述のPK戦だけでなく、ピッチ上で試合を重ねるごとに洗練されたプレーを披露していくと、周りからの信頼を少しずつ勝ち取っていった。
この成長には、最終ラインでコミュニケーションを取ることが多い主将の吉田麻也も太鼓判を押す。
「晃生は大会を通じて成長していると思います。ハイボールの飛び出しやボールを受けてのビルドアップ、そこらへんが安定してきました。それは大会前からいろいろ求めているところではあったので、徐々に良くなってきているし、勝利や無失点試合を重ねるに連れて良くなっていると思います」
6試合で5失点。3位決定戦で精根尽き果てたチームは3失点を喫してしまったが、それまでの5試合では2失点しか奪われていない。もちろん最終ラインの奮闘があったことは間違いないが、この失点の少なさは谷の安定したプレーがあったからにほかならない。
大会前は試合に出ることが1つの目標だった。その中で、多くの試合に出場することができて得られたものは何か。
「試合に出られたことで僕の中で何かが大きく変わったというよりかは、プレー面で自分が普段のリーグ戦でやっていることを出せたことが自信になった。大きな舞台では1つひとつのプレーに神経を使いますし、見えないプレッシャーももちろんありますけど、そういった中で自分の思ったとおりにプレーすることができました。そこはメンタリティーのところにも関わってきますけど、試合に出たことであらためて経験できた部分、得ることができた部分は少なからずあったと思います」
日本は最終的に4位で大会を終えることになった。準決勝まで勝ち進んだことは評価できるが、やはりメダルに手が届かなかったことは今後に向けて考えていく必要があるだろう。
ここから1人ひとりがどんな成長を見せていくのか。
再びJリーグの舞台に戻る谷は、東京五輪で得た収穫と課題を糧とし、日本の正守護神となるために邁進していく。