【サッカー】メキシコ五輪の銅メダルから53年…“五輪史上最強”メンバーを揃えた日本が金メダル獲得に挑む

1 執筆者 飯尾篤史
Football Japan
(2021 Getty Images)

不世出のストライカー、釜本邦茂の活躍によって男子サッカーが銅メダルを獲得したのは1968年のメキシコシティ五輪のことだから、今から53年前になる。

今回、地元開催のTokyo 2020(東京五輪)で日本はそれ以来となるメダル獲得を狙っている。だが、見据えるメダルの色は、53年前のそれではない。

「金メダルという目標に向かっていきたい」

チームを率いる森保一監督は、本大会前最後のテストマッチとなった7月17日のU-24スペイン代表戦のあと、改めて決意を示した。

東京五輪代表チーム(当時はU-20日本代表)が結成されたのは2017年12月のこと。それ以降、タイ、中国、パラグアイ、フランス、インドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)、ミャンマー、メキシコ、アメリカ合衆国、ブラジルと海外遠征を重ねてきた。他のどの国よりも継続的に、計画的に強化を進めてきたことこそ、日本のストロングポイントだ。

男子サッカーには23歳以下(1年延期された東京五輪は24歳以下)の年齢制限があるため、一般的に五輪代表は、年齢制限のないA代表の“弟分”として位置付けられる。

だから、過去の五輪代表では「オリンピック経由(2年後の)ワールドカップ行き」が合言葉となっていた。しかし森保監督は今回、「オリンピックに出場した選手がA代表になるのではなく、A代表の選手がオリンピックに出るんだ」と言い続けてきた。

そのかいもあり、今回のチームには、すでにA代表で絶対的な存在となったDF冨安健洋をはじめ、MF堂安律、久保建英、DF板倉滉、中山雄太らA代表経験者が多く、欧州のクラブに所属している選手も少なくない。

これだけでも過去の五輪代表より経験や個の能力は上回っているが、そうしたチームに3人だけ許されるオーバーエイジとしてDF吉田麻也、酒井宏樹、MF遠藤航とA代表の中心が加わった。日本の五輪代表史上、最強なのは間違いない。

オーバーエイジの選手は通常、本大会の直前にチームに合流するが、今回はひと月早い6月の招集に成功。6月5日のU-24ガーナ代表戦、12日のジャマイカ代表戦でさっそくオーバーエイジを組み込んで、連係面の確認に取りくんだ。

その効果は絶大で、ピッチ内のプレー面はもちろん、「オーバーエイジの選手たちのリーダーシップ、キャプテンシーからは学ぶものが多い」と堂安が語ったように、影響力はピッチ外にも及んでいる。

7月5日からは本大会に向けた直前合宿がスタート。12日のU-24ホンジュラス代表戦に3-1で勝利したチームは17日、本番前最後のテストマッチをスペインと行った。

A代表経験者がズラリと並び、6月から7月に開催されたUEFA EURO 2020(欧州選手権、欧州ナンバーワンの代表チームを決める大会)に出場した選手を6人も揃えるスペインは、今大会の金メダル候補筆頭と目されるチームだ。そんな強敵に対して日本は押し込まれたものの、久保のドリブル突破から堂安がゴール左上に叩き込んで先制ゴール。メンバーを大幅に入れ替えた後半に追いつかれたものの、ドローゲームを演じた。

もちろん、14日に来日したばかりと、相手のコンディションが万全でなかったことは確かだ。それでも、本番前にレベルの高い相手と対戦し、劣勢の展開を凌ぐ経験ができたこと、その相手からゴールを奪ったことなど、収穫は少なくない。

キャプテンの吉田も「この結果に一喜一憂してはいけない」と気を引き締めながら、「総じてうまく守れたと思う」と手応えをにじませた。

本大会を目前に控えて心強いのは、堂安が6月シリーズから4試合連続5ゴールと結果を残していることだ。ドイツ1部のアルミニア・ビーレフェルトでの好調ぶりを代表チームにも持ち込んでいる。今大会で背負う番号は10番。「この番号が僕にいい緊張感と責任感を与えてくれている」と語るレフティが本大会でも攻撃のカギを握る。

一方、ダブルエースのもうひとり、トップ下を務める久保建英はここ2試合ゴールから遠ざかっている。だが、スペイン戦で堂安のゴールをアシストしたように、2人の相性、コンビネーションは良好。堂安の好調さに引っ張られるように、本大会では久保も攻撃面で“違い”を生み出してくれるはずだ。

日本が一次ラウンドで対戦するのは、南アフリカ、メキシコ、フランスの3チーム。なかでもメキシコはスペインと並んで金メダル候補と評判だ。主力選手の多くがプレーする国内リーグは東京五輪出場に協力的で、ほぼベストメンバーで参加する。さらに、オーバーエイジとしてA代表の守護神のギジェルモ・オチョア、ボランチのルイス・ロモ、FWのエンリ・マルティンを招集し、万全の陣容を整えた。

この難敵が2戦目に控えている以上、一次ラウンド突破を確実なものとするために、南アフリカとの初戦は必ず勝点3を掴みたい。右ウイングのルーサー・シンのスピードは脅威だが、チーム全体の総合力は、日本のほうが明らかに上回っている。

3戦目のフランスはクラブの招集拒否に遭い、ベストメンバーから程遠い顔ぶれで来日した。ただし、オーバーエイジには実力者の招集に成功。なかでもフランス1部のオリンピック・マルセイユで5年間プレーした酒井が「FKも蹴れるし、潰せるし、パスをさばけるし、すごく厄介」と語ったMFテジ・サヴァニエは要注意人物だ。日本としては2連勝、もしくは1勝1分でこの試合を迎え、メンバーを入れ替えて戦うことが理想だろう。

一次ラウンドを勝ち抜けば、ベスト8はグループBのチームと当たる。グループBはニュージーランド、韓国、ホンジュラス、ルーマニアという顔ぶれだ。もし、永遠のライバル・韓国と顔を合わせることになれば……いや、日本が目指すのは金メダル。韓国も、ブラジルも、スペインも、いずれ必ず倒さなければならない相手。どのタイミングでぶつかっても関係ないだろう。

「いよいよだという気持ち。これまでいろいろな大会に出てきたが、ホームで、こんなにも良い環境、良い状況で準備期間を過ごせたのは初めて。ここまで非常に良い流れで来ている」

開幕を目前に控えて吉田は、程よい緊張と落ち着きのバランスがとれた表情で語った。53年ぶりのメダル獲得、そして初の金メダルを手にするための戦いは、22日の南アフリカ戦からスタートする。

もっと見る