ハンドボール女子パリ2024への道:最終決戦、注目選手と対戦相手
パリ2024オリンピック出場をかけた最後の熱戦が、いよいよ幕を開ける。
4月11日~14日に開催される、IHFオリンピック女子世界最終予選では、12チームが3つの開催地に分かれ、それぞれ4チームの総当たり戦を展開。各トーナメントから上位2チーム、計6チームがパリへの切符を手に入れるチャンスを掴む。
ハンドボール日本代表「おりひめジャパン」が挑むのは、ハンガリーで開催される「トーナメント1」。ここでは、東京2020大会4位の強豪スウェーデン、アフリカ大陸予選2位のカメルーン、そしてホスト国、東京大会7位ハンガリーとの対戦が待ち受けていた。
しかしながら、カメルーン代表がハンガリーへの渡航に必要なビザ取得手続きを期限内に完了することができず、欠場が決定。国際ハンドボール連盟(IHF)は4月9日、ワイルドカードとしてイギリスチームに出場権を与えることを発表した。
この決定は、全チームが平等に同数の試合をできるようにするため、IHF競技規則に沿って行われたもので、当初はアフリカからのチーム選出を目指したが、準備と移動時間の不足が問題となり、最終的にIHF新市場プロジェクトに入るイギリスが、短期間での参加準備ができることことから選ばれた。試合日程に変更はない。
オリンピック出場枠12チームのうち、すでに出場枠を獲得しているのは、東京2020大会女王で開催国のフランス、ノルウェー、ブラジル、デンマーク、アンゴラ、アジア大陸チャンピオン韓国の6チームだ。
一方で日本男子代表「彗星JAPAN」は、2023年10月のパリオリンピックアジア予選で、バーレーンを32対29で破り、1988年のソウル大会以来36年ぶりに自力でオリンピック出場を決めている。(前回大会の東京2020では、開催国枠で出場)
※オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。
日本女子も予選突破なるか?
1976年モントリオールオリンピックで女子ハンドボールが初めて公式競技に加わった第1回以来、日本は自力でオリンピック出場枠を掴んだことがない。その後の長い歴史の中で、唯一の出場は東京2020大会の開催国枠によるものだったが、結果は12カ国中12位という厳しいものだった。
2023年広島で開催されたパリ出場の1枠をかけたアジア予選では、日本は大韓民国に24対25で逆転負けを喫し、大きな挫折を味わった。しかし、この敗北を糧に、約1か月後のアジア競技大会では見事な逆転劇を演じ、アジアの強豪韓国を抑えて初優勝を飾るという快挙を成し遂げている。
また、同年12月に行われた世界選手権では、スウェーデンが3位決定戦で猛者デンマークと当たり27‐28で敗北したのに対し、日本がメインラウンド初戦でそのデンマークを相手に27-26と歴史的な白星を収め、世界から注目を浴びた。
開催国枠として貴重な経験を積んだ東京大会を無駄にせず、着実に成長を続けてきたおりひめジャパンが、パリ2024への道、最後の門となる最終予選を通過し、48年ぶりに新たな歴史を刻むことができるのか。
4月1日に記者会見で発表された最終予選日本代表20選手を、会見に応えた監督・選手コメントとあわせて、注目選手とともに紹介しよう。
新体制「おりひめジャパン」若さと経験の融合でいざ出陣
東京2020大会後に楠本繁生氏が監督に就任し、世界選手権2回、アジア競技大会、アジア選手権などを経験。全国を巡る合宿と国内外での試合を通じて、チームは結束を深め、役割分担を明確にしながら、最強の布陣を模索してきた。
「若い力がチームの勢いになり、大きな力を最後に発揮できるのでは」
楠本監督は最終予選の突破口となる新たな活力をチームにもたらすべく、現役大学生2名のほか、新顔、復帰組を招集。東京2020メンバーから18名が入れ替わり、パリを目指す。
#47 吉野珊珠(ライトサイド)
相澤菜月キャプテンも推しのチームの〝ムードメーカー〟21歳吉野が、ここ半年間で右肩上がりの力をつけてきていると監督からポテンシャルを評価され、代表初招集。「自分らしく全力でチームに貢献したい」と笑顔で意気込んだ。トップアスリートを発掘する「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」をきっかけに中学まで打ち込んでいたソフトボールからハンドボールに転向し、高校1年生からの約6年でその才能を開花させ、代表入りを果たした、まさに期待の新星だ。ジャンプ力を活かしたシュートと、持ち前のキャラクターがチームに新しい風を吹かせるか。
#89 石川空(ライトバック)
吉野と同級生で同大学に通う最年少の石川は、貴重なレフティー(左利き)だ。小学3年からハンドボールを始め、中学時代にキャプテンとして2度の全国制覇、U16、U18、U20で代表チームに選出されるなど、若くして確固たる実績を築いてきた。2023年11月には大阪体育大学メンバーとして、インカレ10連覇にも貢献。ものおじしない性格と実戦での勝負強さ、得意のシュート技術には楠本監督も太鼓判を押す。一見順調満帆に見える彼女のキャリアだが、実は未だ治療法が確立されていない難病「潰瘍性大腸炎」と闘いながら競技を続けている。選手生活は毎日の体調に合わせて工夫を凝らし、管理を万全にして乗り越えられるようになってきた。私を見て〝できるんだ〟ということを「同じ病気で悩んでいる人に知ってもらいたい」とテレビ大阪インタビューで語っている。
難病に向き合いながら自分自身に限界を作らず、出場枠の獲得とパリでの活躍を目指す。
#56 菊池杏菜(レフトバック)
今回新戦力として代表初招集された菊池は、身長が156㎝と日本チームで一番小柄だ。「小さいながらも大きいディフェンスの間を突破できるスピードで、個人で打破できる選手をさがしていた」と楠本監督が見つけてきた逸材。ヨーロッパ代表選手の多くは身長が180cm以上あるなか、あえてその身長差を武器にできる「ずば抜けた瞬発力を持っている」と語る。今回対戦するヨーロッパには日本チームが徹底的に分析されていると見込まれる中、データが少ない菊池を起用し、予測不能な要素を加える戦略だ。持ち味である俊敏なフットワークとフィジカルの強さで勝利に大きな影響を与えることを期待したい。
#23 キャプテン・相澤菜月 (センターバック)
「最後は厳しい戦いになると思う。このラストチャンス、チーム全員で掴みに行く」と意気込む相澤。
おりひめジャパン主将として挑んだアジア予選・日韓戦の涙の敗北から、今回の最終予選に気持ちを切り替え、楠本監督とチームとともに、対ヨーロッパ勢をイメージした戦術の徹底と対策強化を主眼に置いた準備を行ってきた。それぞれの選手が所属チームと折り合いをつけながら、代表メンバーを入れ替えて長期合宿を行なってきた中で、技術面の向上とともに、日常生活を送るにつれて「絆がより一層深まった」と語る。抜群の判断力とパスセンス、変化に富んだシュートを持つ相澤には、司令塔として、日本の得意とする〝走るハンドボール〟を効果的にリードし、ゲームを展開してもらいたい。
#2 永田美香(ピヴォット)
ハンドボール界の名門、大阪の四天王寺高等学校卒業後、2013年に日本ハンドボールリーグの北國銀行に加入し、日本リーグプレーオフ史上初の9連覇をキャンプテンとして牽引し勝利に導いた。今回の代表チーム20名の内8名が、2022-2023シーズンに四冠(社会人選手権・国体・日本選手権・日本リーグ)を共に達成した同ハンドボール部Honey Beeの所属だ。永田はアジア競技大会を体調不良で不参加としたものの、復調したいま、チームの得点力を高める攻撃の要として大いに期待できる。
#5 金城ありさ(ライトバック)
2022‐23日本ハンドボールリーグ最優秀新人賞受賞後、4月から怪我などのコンディショニング不良のため、自チームのトレーニングに専念していたが、約2年ぶりに代表メンバー入り。「最終戦に向けて日本リーグを観戦したところ、得点ランキング1位、1試合10得点を挙げるなど、十分な活躍が見込まれる」と楠本監督の目に留まり、招集がかかった。シュートチャンスを見極めて打つ、クイックシュートを強みとしていて、今回の予選ではその得点力復活が期待される。
海外組の招集
4月2日からのデンマーク遠征、国際親善試合からチームに合流する海外組3選手。代表全選手が揃って4月8日に決選の地ハンガリーに入り、11日からの3試合に挑む。
#1 亀谷さくら(ゴールキーパー)
ノルウェー人の父と日本人の母をもち、ノルウェーで生まれ育ったの亀谷は、6歳からハンドボールをはじめ、ノルウェー女子1部リーグのヴァイパークリスチャンセンでプレー経験を持つ。2015年から日本代表に加わり、現在はフランス・ブサンソンのクラブチームに所属しながら、日本代表合宿や大会で招集されている、ヨーロッパチームとの戦い方をよく知る選手だ。東京2020でのモンテネグロ戦では、シュートセーブ率46.6%という驚異の数字を記録。ダイナミックな詰めの守りで今回の決戦も日本チームを勝利へと導く重要な鍵となることが期待される。
#32 佐々木春乃(レフトバック)
2021年7月、北國銀行からボルシア・ドルトムントに移籍。1年目のシーズンは椎間板ヘルニアの影響で長期にわたる欠場を余儀なくされたが、見事復帰を果たし、2022年のアジア選手権では日本代表の右サイドエースとして輝かしい活躍をみせた。知的なプレースタイルで、攻撃も守備もこなすオールラウンダー。今回代表に選出された20人のうち、唯一亀谷と佐々木が東京2020大会でオリンピックを経験している。
#20 秋山なつみ(ライトウィング)
北國銀行から2022年にハンガリー1部チームに移籍。初の海外チームで2年間揉まれながら精神的にも体力的にも成長してきた秋山。予選突破の鍵を握るハンガリー戦で、その経験値を強みとして活かせるかが注目される。クスヴァルダの公式インスタグラムでは、秋山とチームメイトのオフショットが掲載されていたり、ハンガリー語でブダウルシュとの試合を振り返りコメントするなど、すっかりチームの一員として溶け込んでいる様子か伺える。馴染みのあるハンガリー勢と〝第2のホーム〟での決戦が見どころとなりそうだ。
女子日本代表おりひめジャパンが対戦する各国代表チーム
スウェーデン:試合日時 4月11日(木)18:00(日本時間 翌1:00)
1戦目はトーナメント1でランキング最上位4位(東京2020大会4位)の強豪国スウェーデン。強力なライトウィングプレーヤーとして数々の大会で得点王の名を馳せるナタリー・ハグマンと、攻守両面でピヴォットとしてチームの主軸となって活躍するリン・ブロームを擁する。チーム最年長34歳のベテラン、ヤミーナ・ロバーツもその技術とリーダーシップで重要な役割を担うだろう。東京2020では3位決定戦でノルウェーに36-19で敗北を喫し、オリンピック初のメダルを逃した雪辱を果たすため、今回の最終予選は確実に突破し、メダル獲得への道を切り開く覚悟で挑んでくるに違いない。日本にとって、初戦が最も厳しい一戦になると見込まれる。
イギリス:試合日時 4月12日(金) 20:30(日本時間 翌3:30)
2戦目は、当初対戦する予定であったカメルーン代表に代わり本来出場予定ではなかったイギリスがワイルドカードで参戦。イギリスのオリンピック出場は、開催国枠で参加したロンドンオリンピックのみ。(12位、最下位)大会開催2日前の予想外の選出に驚きの声が上がる中、16名の代表が選ばれた。ノーマークであったイギリス代表の番狂わせがあるか?要注意だ。
ハンガリー:試合日時 4月14日(日)19:15(日本時間 翌2:15)
3戦目で対戦するハンガリー代表は、今トーナメント4チームの中で唯一オリンピックメダル獲得の実績を誇る。日本での野球人気に匹敵するほど、ハンガリー国内ではハンドボールが広く支持され、多くの熱狂的なファン持つ。予選最終日に控えるホームゲームでは、ハンガリーチームが地元の熱いサポートを背に、パリ出場権をかけて勝利を目指すことから、日本チームにとっては手ごわい一戦となることが予想される。しかし、世界ランキング17位の日本がアウェーの圧力を跳ね返し、勝利を掴むことができれば、パリへの道のりに大きな自信となるだろう。日本がこの挑戦をプラスの転機に変えることができるのか。歴史を塗り替える試合に期待したい。
おりひめジャパン日本代表選手一覧
- # 1 亀谷さくら(ゴールキーパー)
- # 2 永田美香(ピヴォット)
- # 3 佐原奈生(ピヴォット)
- # 4 初見実椰(ピヴォット)
- # 5 金城ありさ(ライトバック)
- # 6 北原佑美(レフトバック)
- # 7 服部沙紀(ライトウィング)
- # 9 笠井千香(ピヴォット)
- #12 馬場敦子(ゴールキーパー)
- #13 中山佳穂(ライトバック)
- #18 松本ひかる(レフトウィング)
- #20 秋山なつみ(ライトウィング)
- #22 犀藤菜穂(ゴールキーパー)
- #23 相澤菜月(センターバック)
- #24 岡田彩愛(センターバック)
- #32 佐々木春乃(レフトバック)
- #47 吉野珊珠(ライトバック)
- #51 吉留有紀(レフトウィング)
- #56 菊池杏菜(レフトバック)
- #89 石川空(ライトバック)
IHFオリンピック女子世界最終予選の視聴方法
トーナメント1、日本戦はBS松竹東急(BS260ch)にて全国無料生中継。