ノバク・ジョコビッチ、人生最高の試合を制し悲願の金メダルを獲得/パリ2024オリンピック
セルビアのノバク・ジョコビッチはボックス席を振り返り、信じられないという表情をした。
彼は対戦相手のカルロス・アルカラス(スペイン)と主審のダミアン・デュモソワと握手を交わし、コートの反対側に渡り膝をついた。その膝は、彼に多くの怪我の苦しみを与え、今大会での勝利が疑問視されるほど万全のコンディションではなかった。
ジョコビッチは椅子の上に崩れ落ち、タオルに頭を埋めて涙を流した。ついに彼はやり遂げたのだ。
テニスシングルスグランドスラム歴代最多の24勝を誇るジョコビッチだったが、唯一欠けているものがあった。しかし、パリ2024オリンピックで彼はついにその輝かしいキャリアにただひとつ欠けていたもの、オリンピック金メダルを加えた。
オリンピック王者、ノバク・ジョコビッチ
オリンピックで金メダルを獲得することは、史上最高の選手のひとりであっても決して簡単なことではなかった。
3週間前のウィンブルドン選手権決勝でジョコビッチをストレートで破っていたアルカラスとの金メダルマッチは、キャリア最高と言えるほど厳しい試合になった。
ジョコビッチはオリンピック男子シングルスの決勝に進出した最年長の選手となり、アルカラスは最年少の選手となった。グランドスラム4勝の21歳、アルカラスにとって、たとえジョコビッチが37歳だとしても侮れる相手ではない。
センターコートであるコート・フィリップ・シャトリエは、パリの陽ざしの下で美しく輝き、2人の偉大な選手が金メダルをかけて激闘を繰り広げるための完璧な舞台となった。
怪我に悩まされた1年を経て、長いキャリアの中でずっと渇望していた悲願の金メダル獲得を目指すジョコビッチにはじゅうぶんな覚悟ができていた。彼は、5回目となるオリンピックで、誰よりも強く金メダルを求め、誰よりも大きなモチベーションと決意を持ってプレーした。今しかない、と彼は悟っていたのだ。
ジョコビッチ、本来の底力を発揮してついに金メダルを獲得
これこそ、ジョコビッチの本来の姿と言えるかもしれない。彼は過去の年月を巻き戻すかのように、怪我で苦しめられた2024年の困難な状況の中にあっても、これまでに見せたことのないほどの高いレベルで戦った。
一進一退の激闘を繰り広げ、ジョコビッチが勝利した2セットは、どちらもタイブレークに持ち込まれるほどだった。ほぼ3時間にわたる世界最高レベルの頂上決戦は、どちらも最後まで一切ひるむことなく互いにサービスゲームを落とさなかった。息をのむようなラリーと信じられないショットの連続。
しかし、その激闘を締めくくる瞬間が訪れた。過去16年間、オリンピックの壁に阻まれてきた全ての痛みと逆境を乗り越え、ジョコビッチはこの日のセンターコートで最も大きな声を上げて、アルカラスのコーナーにフォアハンドグラウンドストロークウィナー を決めたのだった。その瞬間、ジョコビッチは自分が何をしたのか信じられないような、これまでに見たことのない表情で感情をあらわにし、そして涙を流した。
ローラン・ギャロスでついにかなえたオリンピックの夢
これまでの16年間、ジョコビッチはオリンピックで金メダルを獲得することを夢見てきた。出場したこれまでのオリンピックでは、デビューとなった北京2008で銅メダルを獲得したが、それ以外の3回のオリンピックでは準決勝でことごとく敗れていた。
近くて遠い金メダル。これまでのオリンピックではすべて、最終的に金メダルを獲得するライバルたちにいつも敗れていた。
しかし、スポーツ界の偉大な選手のひとりが、今、スポーツの最高の栄誉である金メダルを自分のため母国のためについに勝ち取ることができた。そして、ジョコビッチは、男女通じて史上5人目となる「生涯ゴールデンスラム」を達成し、セリーナ・ウィリアムズ、アンドレ・アガシ、シュテフィ・グラフ、ラファエル・ナダルという名だたる選手たちへの仲間入りを果たした。彼は金メダルへの道の途中で、偉大なナダルと2回戦で対戦し破っている。
ジョコビッチにとって、パリ2024がオリンピックの栄光を手にする最後のチャンスになったかもしれない。次回のオリンピック、ロサンゼルス2028が開催される頃には彼は41歳になっている。ジョコビッチはすでに史上最高の選手のひとりだが、37歳でオリンピックの金メダルを獲得したこともその偉大な業績のひとつに含まれるだろう。そして、もし彼が2028年も目指すとしたら…