スポーツクライミング・野中生萌、ふたたび『最高の景色のために』パリ2024オリンピックへ
東京2020オリンピックで初めて実施されたスポーツクライミングで、野中生萌(みほう)が銀メダル、野口啓代(大会後に引退)が銅メダルを獲得し、自国開催のオリンピックで日本女子クライマーが表彰台を飾った複合種目(リード、ボルダー、スピード)。
東京2020からルールと種目が変更され、ボルダー&リードの複合種目で実施される初めてのオリンピックとなるパリ2024で、野中の2度目のオリンピックの挑戦が、8月6日からはじまる。
ここでは、5月16日〜19日に上海、6月20日〜23日にブダペストで開催されたオリンピック予選シリーズ(OQS)で残り1枠となった女子日本代表枠を勝ち取り、2大会連続のメダル獲得を狙う野中のこれまでの歩み、プロフィール、大会日程などを紹介する。
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「クライミングに出会った瞬間から楽しくて」夢中で登った壁の先に掴んだオリンピックメダル
3姉妹の末っ子として東京で生まれた野中のスポーツクライミングとの出会いは、小学3年の8歳の時、登山を趣味としている父親のトレーニングの一環で、家族みんなでクライミングジムに行ったことがきっかけだった。負けず嫌いの性格も相まって、二人の姉に負けたくないという気持ちに火が点き、ひたすら練習に励んだという。友達に誘われて出場した初めてのキッズの大会で優勝すると、そこからクライミングの面白さにどっぷりとはまった。
2010年にリードのJOCジュニアオリンピックカップを制し、2013年に16歳でリードのワールドカップに初参戦すると、翌年から出場したボルダーのワールドカップ5大会で入賞、アジア選手権で優勝を果たし、一気に注目の高校生クライマーとしてその名を轟かせた。クラシックバレエで培った柔軟性や体幹を活かした、しなやかな動きとダイナミックなパワームーブを武器とする野中は、得意とするボルダーでめきめきと力をつけると、翌年のワールドカップで年間ランキング3位に飛躍。2016年はワールドカップ初優勝を含む5大会で表彰台に上り、フランス・パリで開催された世界選手権で野口(3位)を抑え、銀メダルを獲得。2018年には初のワールドカップ年間チャンピオンに輝いた。
2019年はジャパンカップで3冠を達成し、世界選手権コンバインドで日本人2位の5位に入ったことで、オリンピック出場枠を獲得。代表選考やパンデミックで翻弄される時期を乗り越え、自身の生まれ故郷である東京でのオリンピックで、スポーツクライミング界初のオリンピックメダリストに輝き、その強さを世界に示した。
東京からパリへ「全てがとても厳しい道のりだった」
各国最大2枠となるパリ2024出場枠のうち、2023年世界選手権で19歳(当時)の大学生、森秋彩(あい)が銅メダルを獲得したことで、残り1枠をかけてオリンピック最終選考レース(OQS)で伊藤ふたばと争うこととなった野中は、オリンピックメダリストとして今まで以上に大きな期待とプレッシャー、注目を浴びてOQSの舞台に立った。
OQS上海大会とブダペスト大会の合計ポイントでパリ出場枠が決まる予選レースでは、第1戦、野中が総合4位(38ポイント)、伊藤が5位(36ポイント)と2ポイント差の白熱した戦いが繰り広げられた。第2戦では、伊藤がプレッシャーと高温の環境下で本来の力を発揮できず準決勝で敗退する一方、野中は得意のボルダーで決勝に進出。8名の中で唯一全4課題を完登し、リードでも粘って準優勝を果たし、パリへの切符を掴んだ。
過酷な代表枠争いにピリオドを打ち、晴れて2度目のオリンピック出場を決めた野中は、「本当に最高の気持ちです。このために本当にたくさんの練習をしてきたので、すごく嬉しいですし、自分を誇りに思います」とOlympics.comのインタビューに英語で応えた。東京2020のあと、苦手意識の克服に非常に苦労したことを明かした野中は、パリを目指してきた3年間について、「全てがとても厳しい道のりでした。簡単なことではなかったですね…」と振り返りつつも、「(オリンピック出場の目標を)達成することができて良かったです」と感慨深げに語った。ずっと抱えてきた息苦しさから解放されて挑んだ第2戦ブダペストの決勝では、「すごく楽しむことができました。ボルダー4課題ですべて完登出来たのは、最高の気分でしたね。観客の皆さんも喜んでくれて、わたしも嬉しかったです」と喜びの表情を浮かべた。
「オリンピックに出るからには、もちろん金メダルを目指します」
パリでは、「東京オリンピックよりも難しい戦いになると思います」と予想するも、「東京とはまったく違ったオリンピックになると思うので、どんなものになるか楽しみです」と期待を込める、野中。
パリでもOQS同様に気温が高く、ホールドが汗で滑りやすいクライマー泣かせのコンディションになることが想定されるが、OQS2戦の経験と代表争いを戦い抜いたことは、野中に大きな自信を与え、大舞台での精神面を支えることになるだろう。自身のインスタグラムで「どんなときも最後まで奮闘して同じ目標を持って頑張ってきた友達・選手のためにも、私は全力で頑張りたい」とパリへの意気込みを熱く語った野中のクライミングが、パリでどのような感動を生み出すのか、期待したい。
スポーツクライミング日本代表、野中生萌の主な戦績
2024年
- 6月 オリンピック予選シリーズ第2戦ブダペスト(C)2位
- 5月 オリンピック予選シリーズ第1戦上海(C)4位
- 2月 ボルダージャパンカップ・多久 2位
2023年
- 11月 アジアオリンピック予選・ジャカルタ(C)2位
- IFSCクライミング・ワールドカップ(B)6月インスブルック 3位、4月ソウル 優勝
- 4月 ボルダー&リードジャパンカップ・倉吉 3位
- 2月 リードジャパンカップ・印西 3位
- 2月 ボルダージャパンカップ・世田谷 2位
2022年
- 11月 コンバインドジャパンカップ・印西 3位
- 7月 ワールドゲームズ・バーミングハム(B)優勝
- IFSCクライミング・ワールドカップ(B)6月インスブルック 3位、5月ソルトレークシティ 2位、5月ソルトレークシティ 2位
- 2月 ボルダリングジャパンカップ・四日市 2位
2021年
- 8月 東京2020オリンピック(C)銀メダル
- 6月 コンバインドジャパンカップ・盛岡 2位
- 5月 IFSCクライミング・ワールドカップ(S)ソルトレークシティ 3位
- 3月 スピードジャパンカップ・亀岡 2位
- 2月 ボルダリングジャパンカップ・世田谷 2位
2020年
- 12月 コンバインドジャパンカップ・西条 優勝
- 2月 スピードジャパンカップ・昭島 3位
- 2月 ボルダリングジャパンカップ・世田谷 3位
2019年
- 11月 インターナショナルクライミングシリーズ・チャイナオープン(C)優勝
- 10月 ANOCワールドビーチゲームズ(B)優勝
- 5月 コンバインドジャパンカップ・西条 優勝
- 2月 スピードジャパンカップ・昭島 優勝
- 1月 ボルダリングジャパンカップ・世田谷 優勝
2018年
- 11月 アジア選手権・倉吉(C)2位
- IFSCクライミング・ワールドカップ(B)8月ミュンヘン 2位、6月ベイル 2位、6月八王子 2位、5月泰安 2位、5月重慶 2位、4月モスクワ 2位、4月メイリンゲン 優勝
2017年
- 11月 チャイナオープン・広州(B)優勝
- 7月 ワールドゲームズ・ヴロツワフ(B)2位
- IFSCクライミング・ワールドカップ(B)6月ナビムンバイ 2位、6月ベイル 3位、5月八王子 3位、4月南京 3位、4月メイリンゲン 3位
- 1月 ボルダリングジャパンカップ・渋谷 3位
2016年
- 9月 IFSCクライミング世界選手権・パリ(B)2位
- IFSCクライミング・ワールドカップ(B)8月ミュンヘン優勝、5月インスブルック 3位、5月ナビムンバイ 優勝、5月重慶 3位、4月加須 3位
- 3月 全日本クライミングユース選手権リード競技大会 優勝
- 1月 ボルダリングジャパンカップ・加須 3位
2015年
- 12月 アジアユース選手権・プトラジャヤ(B)優勝(S)2位
- 11月 アジア選手権・寧波(B)優勝
- 9月 IFS世界ユース選手権・アルコ(B)2位
- 6月 IFSCクライミング・ワールドカップ(B)重慶2位
- 5月 全日本クライミングユース選手権ボルダリング競技大会 優勝
- 3月 クライミング日本ユース選手権(L)優勝
2014年以前
- 2014年10月 アジア選手権・ロンボク(B)優勝
- 2014年8月 JOCジュニアオリンピックカップ大会(L)3位
- 2014年6月 IFSCクライミング・ワールドカップ・ラヴァル(B)2位
- 2010年8月 JOCジュニアオリンピックカップ大会(L)優勝
- 2010年3月 JFAユース選手権(L)2位
- 2008年8月 JOCジュニアオリンピック大会(L)2位
※B=ボルダー、L=リード、S=スピード、C=複合
パリ2024オリンピック、スポーツクライミングの試合日程
以下、現地時間。スケジュールは変更になる可能性もある。
8月5日(月)
- 10:00 男子ボルダー&リード複合、ボルダー準決勝
- 13:00 女子スピード予選シード
- 13:40 女子スピード予選
8月6日(火)
- 10:00 女子ボルダー&リード複合、ボルダー準決勝
- 13:00 男子スピード予選シード
- 13:40 男子スピード予選
8月7日(水)
- 10:00 男子ボルダー&リード複合、リード準決勝
- 12:28 女子スピード準々決勝
- 12:46 女子スピード準決勝
- 12:55 女子スピード決勝戦
8月8日(木)
- 10:00 女子ボルダー&リード複合、リード準決勝
- 12:28 男子スピード準々決勝
- 12:46 男子スピード準決勝
- 12:55 男子スピード決勝戦
8月9日(金)
- 10:15 男子ボルダー&リード複合、ボルダー決勝戦
- 12:28 男子ボルダー&リード複合、リード決勝戦
8月10日(土)
- 10:15 女子ボルダー&リード複合、ボルダー決勝戦
- 12:28 女子ボルダー&リード複合、リード決勝戦
スポーツクライミング・野中生萌プロフィール
- 名前:野中生萌(のなか・みほう)
- 生年月日:1997年5月21日(27歳)
- 出身地:東京都豊島区
- オリンピック歴:東京2020女子複合 銀メダル
- 出場種目:ボルダー&リード複合
- ソーシャルメディア:Instagram、Youtube
※年齢は2024年7月26日パリ2024オリンピック開会式当日を基準とした。