アデム・アシル「オリンピックでチャンピオンになるまで体操を続けたい」

執筆者 Scott Bregman and Selen Sena Coskun
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Gold medalist Adem Asil of Turkey celebrates
写真: 2022 Getty Images

トルコのアデム・アシルは、東京2020オリンピックで、子どもの頃から描き続けた夢をあともう少しでかなえるところまで来た。
体操競技男子種目別跳馬の決勝で、1番目に登場したアシルは、前転とび前方屈身宙返り半分ひねりの大技を見せ、着地時の減点以外はほぼ完璧の演技だった。

アシルのこれまでの大きな努力が実り、15.266という高スコアを叩き出した。このスコアは決勝での最高点を記録した。

しかし、2回目の演技でアシルは着地時に手をマットにつけてしまい、減点を重ねることになった。

結果、2回目のスコアは13.633に終わり、平均得点が14.449となり6位に終わった。

アシルは、2回目の跳馬で14.301を得点しさえすれば金メダルを獲得できた。数日前の予選の2本目で14.433を得点していたことから、彼には十分に達成可能なスコアであるはずだった。

それから3年の年月が経過したが、アシルはその悔しさが彼の競技への思いをいっそう強く燃え上がらせてきたと言う。

「その失敗がなければ、私は1位になりオリンピック金メダリストになっていたでしょう。しかし、私はこれを幸せなことと思っています。私は、全てのことは何らかの理由があるから起こると信じているからです」と、アシルはOlympics.comの独占インタビューで話した。「その理由は、私がその後に獲得した多くのメダルのことだったのかもしれません。あの決勝後、(オリンピック)選手村に帰ると、みんなが『悲しむな、大丈夫だ、まだ若いんだから』と私に言っていたのを覚えています。私は本当に悲しく憤っていました。その日は何も食べることすらできませんでした。なぜなら私は大きなチャンスを逃してしまったたからです」

大きな失望にもかかわらず、25歳のアシルは前向きでいるためにその後も努力を続けた。

「乗り越えるために、私は自分自身に『これは自分にとって素晴らしい経験なのだ』と言いきかせました」と彼は話した。「私はこの経験を生かし、それを理解することがより多くの成功をもたらすことができると信じてきました」

彼は正しかった。

東京2020以降、アシルはヨーロッパ体操競技選手権で8個のメダルを獲得した。それらの中には、トルコ選手として初となる個人総合の金メダル(2023年)が含まれる。2022年の世界体操競技選手権(イギリス)では、種目別つり輪で金メダルを獲得している。

トルコへの移住

アシルは、エジプトに住んでいた5歳の時に体操を始めた。すでに体操を始めていた彼の兄が練習に連れて行ってくれた。そして、彼は夢中になった。

「練習場に行くと、宙返りができる、楽しいことができる、そんなことが私を魅了しました」とアシルは思い出を語った。

練習と学業のバランスを取るのは簡単ではなかったとアシルは言う。朝8時に家を出て、帰りは夜10時過ぎというのが当たり前だったと、当時を振り返った。

「両方を同時に行うのはとても大変でした。私の子ども時代は本当に忙しかったです」とアシルは話した。

2017年の世界選手権の後、アシルはトルコに移住し、後に市民となった。コロナ禍により短縮されたが2020年シーズンからトルコを代表して国際大会に出場した。

アシルは、トルコへ移住したことが彼の競技人生を変え成功に導くきっかけだったと信じてやまない。

「さもなければ、私の競技人生は今のようになっていなかったかもしれません」と、アシルは語った。

「なぜなら、ここではイブラヒム・チョラクフェルハト・アリカンアフメト・オンデルらトルコを代表する選手たちと一緒に練習することができます。全員が同じジムでトレーニングをしているのです」

「エジプトでの環境は少し違っていました」とアシルは話を続けた。「私はそこで最高の選手になりたかったのですが、私がそこにいた時はすでに最高の選手になっていたと感じていました。つまり、私より優れた選手がいなかったのです。そこでは、お手本になる選手がいませんでした」

パリ2024を待ち望む

アシルの2回目となるオリンピックが迫ってきているが、彼はすでに大きな意欲に満ちている。

「私は子どもの頃からオリンピックで金メダルを取ることをいつも夢見てきました。金メダルを取るまで体操をやめるつもりはありません。それこそが私の最大のモチベーションです」とアシルは語った。

「目標はとても大きいですが、私は毎日、目標を思い浮かべ、自分にはそれを達成することができると言い聞かせます。また、たとえ目標を達成したとしても、その後もモチベーションを持ち続けると思いますよ。『オリンピックで連覇する!』と言いながら」
近年のアシルの成功、そしてパリ2024への期待によって、彼の中では何か変化はあったのだろうか。

「私は、初めてトルコに来た時と同じアデム・アシルです。全く違いはありません」

しかし、少なくとも東京2020での男子跳馬決勝は、その後の彼を変えたのかもしれない。

「それ(東京2020跳馬決勝)は私の競技人生の転換点になりました。なぜなら、その後から私はメダルを取り始めることができたからです」とアシルは明かした。「あとはパリでのメダル獲得です。私はそれを本当に楽しみにしています」