空手 西村拳 偉大な父と並ぶ「世界王者」の称号をオリンピックで

2019年PL東京大会_優勝_男子組手-75西村拳優勝USD01482
[広告]

空手がオリンピック競技に採用され、夢が現実に

「空手がオリンピック競技ではなかったので、悔しい思いはずっとありました」

組手75kg級のエース、25歳の西村拳は、心の内をそう明かした。2016年8月に東京2020大会の競技に採用されるまで3度の落選があり、歯がゆい思いをしてきた。長く待っていたからこそ、嬉しさが募った。

「オリンピックで活躍することはかなえられない夢だったけど、自分の努力次第でかなえられる現実になった。素直に嬉しくて、オリンピックの舞台で金メダルを取るんだという気持ちになったのを覚えています」

その東京2020大会がすぐ目の前まで来ている。「初めてのオリンピックが母国開催、選手としていい年齢。こんなにいいタイミングで経験できるのは、人生をやり直してもないこと。チャンスを逃さずしっかりつかんで、必ず金メダルを取ります」と、闘志をのぞかせる。

父から学んだ、ダイナミックな蹴りが西村の持ち味
父から学んだ、ダイナミックな蹴りが西村の持ち味
公益財団法人 全日本空手道連盟

元世界王者の父のもとで

空手は物心ついたとき、気づいたらやっていた。それもそのはずだ。西村の父、誠司さんは組手70kg級の元世界王者、母も空手選手で国体に出場。兄たちも空手をしていた。しかしやってはいたものの、西村は空手が嫌いだった。

「その頃は本当に泣き虫で、内気な性格、格闘技や武道が怖かったんです」

中学に上がる頃、父から勉強するか空手を取るかの2択を迫られ、「どっちも嫌だけど、どっちかと言われたら空手」を選んだ。「不純な動機ですけど、(空手に)スイッチを入れたのはそのときです」。そうして空手に真剣に向き合い始めた西村に、父は稽古をつけ、蹴りを伝授。蹴りはのちに西村の得意技となった。

「厳しかったですが、いわゆるスパルタ教育ではなく、僕の気持ちを考えて、弱虫な性格で嫌がり、天邪鬼だった自分をやる気が出るように持っていってくれました。父がスパルタだったら、空手を続けていなかったと思います。そういう教育方針はありがたかったと今になって思います」

空手を楽しめるようにと、土台を作ってくれたのだ。

憧れだったアガイエフが今やよきライバルに
憧れだったアガイエフが今やよきライバルに

「空手界の生きる伝説」アガイエフに憧れて

さらに12歳の西村少年をかき立てる出会いがあった。日本武道館で行われる世界空手道選手権大会を見に福岡から上京した西村は、ある選手の勇敢さに目を奪われた。のちに75kg級のよきライバルとなるラファエル・アガイエフ。アゼルバイジャンの勇者はそのとき23歳の若さで70kg級と無差別級を制し、その後も5度世界王者に。

「まだ子どもだったので、本当にすごいと思って。アガイエフ選手は、当時あった無差別級で、2mを超える選手に(168cmの)小さい体で立ち向かっていた。空手の概念を変えるような動きをしていて、一瞬でファンになりました」

その後、西村は全国高校総体(インターハイ)を制すまでに成長。180cmの長身、突きや蹴りの鋭さが目を引き、空手界の新星として期待され日本代表に選ばれると、国際大会にも出場するようになる。そうなったとき、改めてアガイエフの偉大さに気づかされた。

「ずっと世界の第一線で戦っている。モチベーションの維持の仕方、安定した成績を出し続けることの難しさを、自分自身がナショナルチームに入ってから痛感したので、それをやってのけているアガイエフ選手は、本当にすごいなと思います」

アガイエフとの初対戦がかなったのは、2016年のプレミアリーグ・ハンブルク大会。嬉しさに胸が高まった。結果は西村が勝利し、プレミアリーグ初優勝。その後も顔を合わせ、今や対戦成績は西村が勝ち越しているが、尊敬は変わることはない。昨年のプレミアリーグ・パリ大会で、初戦に敗れると、何かを得たいとアガイエフのもとを訪ねた。

「彼は練習場に誰よりも早く来て、ストレッチから汗だくになってやっている。若手選手がだらだらしていたら叱咤激励して、一番声を出して練習している。すごいなと。膝にはすごくテーピングを巻いて、体にムチを打ちながら必死にやっている。空手に人生を懸けているという思いが伝わってきました。僕はそこまでプロフェッショナルになれていなかったので、衝撃でした」

アガイエフからは、「東京では、ケンと決勝を戦いたい」と言ってもらっている。「ライバルとして認めてもらえたのかな。そういう位置付けにしてくれているのは本当に嬉しいです」と、笑みをこぼした。

空手道と両親に感謝しながら、金メダルを目指す
空手道と両親に感謝しながら、金メダルを目指す
公益財団法人 全日本空手道連盟
[広告]

空手界そして両親への感謝を金メダルで

東京2020大会は1年延期となり、オリンピック経験がない故の焦りが生まれた。そのときは、柔道の金メダリスト大野将平にアドバイスを求めた。「別に関係ない、やるべきことやるだけ」。そう言われてハッとした。「まあ、そんなふうに好奇心が強く、誰にでも意見を聞きにいけるのが僕の強みかな」。旺盛な探求心で、海外勢に負けないための新技の研究も惜しまない。

東京2020大会では、先取のルール(同点の場合、最初のポイントを獲得したほうが勝者となる)が、金メダルへのカギになると西村はいう。

「先取点を取ることを目標にいきたい。現代空手、特に組手は、スピーディーかつダイナミックで、突き技だけでなく、投げ技、回転して蹴るといった蹴り技、選手によって技の出し方も違うので、豪快なところや駆け引きも見てもらえたら、空手のイメージが変わると思います」

決戦の舞台はアガイエフを初めて見た日本武道館。今度は自分が子どもたちに感動を与える番だ。

「競技としてだけでなく、礼儀作法など人間性の向上のために空手道がある。西村拳という人間を作り上げてくれた空手道に感謝しています。だから現役を退いた後も、恩返しのために空手界に携わりたい」と、思いを語る西村は、空手に打ち込める環境を作ってくれた両親への感謝も忘れない。

「泥臭くてもいいから、勝ちにこだわる組手をしたい。感謝の気持ちを結果で表したいから、金メダルを取って、表彰台の一番高いところに上った姿を見せたいです」

「空手界のプリンス」。そう呼ばれることに少し照れながら、活躍を誓った。

空手を盛り上げるために、一丸となって挑む
空手を盛り上げるために、一丸となって挑む