空手 清水希容のAthlete Journey 美しく強く。世界女王に導いてくれた最高峰の形で勝つ

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戦いの場や敵が見えるような演武を

眼光人を射る。1点を虎視する鋭い眼、まるで今にも敵に襲い掛からんとする虎のようでもあり、繰り出す一連の技や攻防は、強く、そして美しい。

東京2020大会で初開催される空手競技の種目の一つ、「形」は仮想の敵との戦いを一人で演じる。

「目の前にも敵がいて遠くにも敵がいて、見る人にもいろんな敵が見えるような演武をしたい。その表現は難しいのですが、それができたとき、人が『すごい』って言ってくれると思って頑張っています」

女子「形」のエース、27歳の清水希容はそう話す。普段は穏やかで明るい関西人だ。しかしオリンピックの話になると、瞳を鋭く光らせる。

「何年もかけてオリンピックのためにやってきているので、(東京2020大会は)空手界にとっても特別だったと言えるような大会にしたいですし、空手界一丸になって空手をアピールしたい。自分自身も悔いなく演武して、日の丸を一番上に掲げるという目標を成し遂げたいです」

きれいでカッコいい「形」に惹かれ

空手を始めたのは小学3年生のとき。兄の影響で「糸東流」(柔術・棒術など空手以外の武術の要素も組み入れた空手道の四大流派の一つ)の道場に通い始めた。そこで初めて見た「形」の美しさに目を奪われた。

「『形』を見て、自分の中の空手のイメージが覆されました。きれいでカッコいいところに惹かれた。性格的にも地道にコツコツやっていく方が好きなので、『形』は自分に合っていたのかな」

形の魅力はその伝統と美しさ
形の魅力はその伝統と美しさ

中学生で初めて全国大会に出場し3位になると、空手の強豪校、東大阪大学敬愛高校に進み、3年生のインターハイで初めて日本一になった。その後、関西大学に進み、2013年、大学2年生で出場した全日本空手道選手権で初優勝。シニアでも日本の頂点に立つと、翌年、世界へと進出する。日本女子では一人だけしか出られない世界空手道選手権大会の代表を勝ち取り、世界チャンピオンになった。清水は2016年にも世界選手権を制し、全日本選手権大会は2013年から2019年まで7連覇を成し遂げている。

快進撃を続ける中、2016年8月に運命を変えるニュースが届く。空手が東京2020大会の新競技として正式に採用されたのだ。

「(採用が)決まった直後から、空手の注目のされ方が変わりましたし、今まで目指せなかった舞台を目指せる、それは私にとってすごく大きいことでした。画面越し、テレビで見る世界でしかなかったオリンピックが自分の近くに来るのかもと思ったら嬉しくて、絶対目指したいって思いました」

サンチェスは自分を成長させてくれるありがたい存在
サンチェスは自分を成長させてくれるありがたい存在
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最大のライバル、39歳のサンチェスの存在

しかし、オリンピックを目指し始めてから、すべてが順風満帆だったわけではない。つらい敗北も経験してきた。2018年の世界選手権でサンドラ・サンチェス(スペイン)に3連覇を阻まれると、悪夢にうなされた。

2019年からは「形」のルールが旗判定から採点方式(基礎や技や呼吸法の正確性を見る「技術点」7割、力強さやスピードなどを見る「競技点」3割)に変わったことへの対応に苦慮し、2019年12月のプレミアリーグ最終戦でもサンチェスに大差で敗れ(サンチェスが27点、清水が26.28点)、その時点の世界ランキングポイントで東京2020大会の代表に内定したものの、続く2020年1月のプレミアリーグ・パリ大会では約2年ぶりに決勝進出を逃してしまう。その後、新型コロナウイルス感染症の拡大で稽古や試合ができない日々が続き、東京2020大会は1年延期に。そして同年12月、11カ月ぶりに出場した全日本選手権で大野ひかるに完敗、8連覇を逃した。

「(2020年までは)オリンピックのために試合に出ないといけないと考えて、連戦で心身ともに削られて。他の競技の選手はそういうふうにやってきたんだな、オリンピックは出るだけでも大変な場所なんだな、と。負けていろんな悔しい思いをしましたが、全日本で負けて、今はすべて失ったような状態。オリンピックに向けてしっかりと這い上がりたいと思っています」

ここ数年は試合を前に「考えすぎたり、周りや相手のことを気にしすぎて、こうしないと、というしがらみの中で、自分をネガティブにしていた」という。しかし今は、東京の金メダル争いは「清水対サンチェス」などと周りがはやし立てても、「サンドラはありがたい存在で戦友。でも、サンドラと戦うためにオリンピックに出るわけじゃない。自分のいい演武をして勝つ。思うままの気持ちで舞台に立って楽しみたい。今まで積み重ねてきた技をぶつけるだけです」と、吹っ切れている。

技のスピード感が清水の持ち味
技のスピード感が清水の持ち味

得意なスピードある「勝負形」で金メダルを

清水を世界女王に導いた「チャタンヤラクーサンクー」は糸東流の中でも最高難度の形で、清水にとっては「思い入れも強く、大事な存在」。その形を、特別な武道の聖地、日本武道館で美しく決めると誓う。

「『チャタンヤラクーサンクー』は技数も多く難しいですが、決まったときは本当にすごい。糸東流の最高峰と言われる形で勝ちたいです。一番はスピード感。速い動作の中に上下運動や回転など複合的な動作が多く入っています。途中のジャンプする動作も見ていて面白いと思います」

「もっと頑張ろうと思った」と言ってもらえるような演武を
「もっと頑張ろうと思った」と言ってもらえるような演武を
公益財団法人 全日本空手道連盟

伝統があり礼儀がある。スポーツであり武道。そんな空手は、幅広い年齢層で誰もが楽しめる。清水も将来は指導者になり、空手を長く続けると決めている。「オリンピックを見て、空手っていいなって思ってくれる人が一人でも多くいたら。子どもたちが空手を始めて世界の舞台に出てくれたら嬉しい」。清水が金メダルを取れば、未来はおのずと拓く。

「オリンピックはたくさんの方が見てくれると期待しています。皆さんが応援したくなるようなプレーをしたい。『オリンピックを見て元気が出た』、自分の演武を見て『もっと頑張ろうと思った』と言ってもらえるように。少しでも多くの人に気持ちが届いたら嬉しいです」

希容という名には「希望の器を大きく、夢をかなえられる子に」との願いが込められている。清水は初めてのオリンピックの舞台で金メダルに挑む。空手界の希望を手に、その大きな夢をかなえるために。

次世代の空手選手のためにも金メダルを
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