糸数陽一「悔しい気持ちを原動力に」追求する競技の奥深さ

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足りていなかったメダルを目指す覚悟

ウエイトリフティング男子61kg級で、東京2020オリンピック出場を目指す糸数陽一は、悔しさを原動力として、世界トップクラスにまで成長を遂げた選手だ。大学3年時には、1kgの差でロンドン2012大会出場を逃した。リオ2016大会では男子62kg級で代表の座をつかみ、スナッチ133kg、クリーン&ジャーク169kg、トータル302kgで自己ベストと日本記録を更新しながら4位。3位との差は3kgで、表彰台にあと一歩届かなかった。スナッチ、クリーン&ジャーク共に3回の試技を全て成功させ、内容には満足していたが、日に日に悔しい気持ちが強くなった。

「最初は自分自身でも納得していました。日本に帰国して、応援してくださっている方からも『よく頑張ったね』と言われたんですけど、メダルを取った方は、それが恩返しになっている。今も『あのときはなんで挑戦できなかったんだろう』と思うことがあります」

ロンドン2012大会の代表を逃していたこともあり、リオ2016大会までの糸数は「オリンピックに出場すること」「出場したら最低限、入賞すること」を目標に掲げていた。それは達成したが、さらにその上を目指すには足りないものがあった。

「メダルを取る人たちは、メダルを取るためのトレーニングをしている。リオの前はケガもほとんどなく、満足いく練習ができていたんですね。でもそれはメダルを想定したトレーニングではなかった。そういう意味では、そこを目指す覚悟が足りていなかったと感じます」

リオ2016大会では自己ベストを更新し4位。しかし本人は「メダルを目指す覚悟が足りなかった」と振り返る
リオ2016大会では自己ベストを更新し4位。しかし本人は「メダルを目指す覚悟が足りなかった」と振り返る

量より質を追求することで、競技の奥深さを知る

ロンドン2012大会に出場できなかった悔しさをリオ2016大会につなげ、メダルにあと一歩及ばなかった後悔を未来につなげていく。東京2020大会に向けては、「メダルを取るためのトレーニングをして、世界で戦える実力をつける必要がある」と感じた。そしてその成果が表れたのは2017年の世界選手権。糸数は、スナッチ134kg、クリーン&ジャーク165kg、トータル299kgで、日本男子としては全階級を通じて36年ぶりとなる銀メダルを獲得した。優勝者とは1kg差で、東京2020大会の金メダル候補にも浮上した。

ただ、その後は2年ほど腰や肩のケガが続いた。痛みを抱えながら試合に臨むという状態で、本来の力を発揮できない。大きなケガもなく、順調な競技生活を送ってきた糸数にとって、今までにない経験だった。

「練習の量は確実に減りました。『なんでケガをしてしまったのか』と悔しい気持ちもあったんですけど、そこで何も学ばずに終わるともったいない。コーチやトレーナーと話しながら、自分に合ったフォームや、練習メニューを考えて、より質を追求するようになりました」

そうすると今度は、競技の奥深さを感じることも多くなり、練習が楽しくなってきた。バーベルを上げるときの体の軸はどこにあるのか。その軸が崩れないように、バーベルをどういうコースで上げていくべきなのか。練習において、がむしゃらに量をこなしてきた20代前半と比べると、質を重視してきた20代後半は、糸数にとって本当の意味でウエイトリフティングと向き合う期間になったのだ。

20代後半はケガもあった分、ウエイトリフティングをより深く理解する時間にもなった
20代後半はケガもあった分、ウエイトリフティングをより深く理解する時間にもなった
(公社)日本ウエイトリフティング協会

1日でも長く競技を続けたい

今年5月で30歳になる。これまでの競技人生を思い返すと、悔しさから多くのことを学んできた。結果と内容の両方に満足した試合は1つもない。そして今後も満足することはないと、糸数は考えている。

「自分の性格的に満足してしまったら、競技はもういいかなと感じてしまうかもしれないので、あえて満足していない部分はあります。常に『悔しい』『上を目指したい』という気持ちがあるし、ウエイトリフティングの奥深さをもっと知りたい。もし東京でメダルを取っても、『もう少しできたんじゃないか』と思っているかもしれない。そういう気持ちがあるから『まだまだウエイトリフティングは難しいな、楽しいな』と感じるんだと思います」

1年、いや1日でも長く競技を続けたい。オリンピックでメダルを取ることと同時に、できる限り現役選手でいることが、糸数のアスリートとしての目標だ。

「(中学2年生で)この競技を始めたことが自分にとって大きなターニングポイントでした。大好きなウエイトリフティングを生涯スポーツにしたいと思っていますし、いつまでできるかは分からないですが、選手でいられるうちは選手でいたいと思います」

東京2020大会は、リオの雪辱を果たすとともに、これまで自分を支えてくれた人々に感謝の気持ちを示す舞台でもある。悔しさを糧に成長を遂げてきた糸数は、覚悟を持ってその地を目指していく。

東京2020大会は、リオで味わった悔しさを晴らす舞台にもなる
東京2020大会は、リオで味わった悔しさを晴らす舞台にもなる
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