見延和靖が突き詰める「エペの極意」 いまだかつて存在しない絶対王者に

Budapest,  8/10  March 2019
Gran Prix epee men 
 In photo: MINOBE Kazuyasu                                                
Photo: Augusto Bizzi
Budapest, 8/10 March 2019 Gran Prix epee men In photo: MINOBE Kazuyasu Photo: Augusto Bizzi
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日本人として初の世界ランキング1位に輝く

フェンシング男子エペ個人と同団体で、東京2020オリンピック出場が内定した見延和靖は、競技の奥深さを日々実感している。

「毎日壁にぶつかっています、その難しさに。フェンシングは相手がいる競技なので、いくら自分が考えながらやっても、相手を分かっていないと、フェイントが生きてこないこともある。相手との間合いや心理面での読み合いなど、掘れば掘るほど奥が深いなと感じます」

初出場だったリオデジャネイロ2016大会は6位入賞。その後はワールドカップ(W杯)など国際大会で実績を残し、2018-19シーズンには日本人初の世界ランキング1位に輝いた。その道のりを、見延はこう振り返る。

「個人の努力だけではたどり着けなかったと思います。東京2020大会を見据え、強化をしてきたことで、今は若手も育ってきていますし、そういう選手たちと切磋琢磨(せっさたくま)してきました。また昨年まで日本代表のコーチを務めていた西田祥吾さんにも、先人たちが積み上げてきた歴史をじかに教わりました。僕が何かしたというより、フェンシングも含めた日本のスポーツ界全体の後押しがあって、一歩踏み出せただけだと思っています」

世界のトップランカーになっても謙虚に、自らが信じる道を突き詰める。そこにあるのはフェンシングの騎士道精神、はたまた日本の大和魂か。見延はそうした心に重きを置いて、戦いの舞台に立っている。

初出場だったリオ2016大会では6位入賞
初出場だったリオ2016大会では6位入賞
2016 Getty Images

エペの極意にたどり着かないと絶対王者は出てこない

そんな見延が目指しているのは、「誰も到達していないエペの極み」だ。フェンシングにはエペのほかに、フルーレ、サーブルと計3種目があり、得点となる有効面がそれぞれ違う。背中を含む胴体のフルーレ、頭や両腕を含む上半身のサーブルと異なり、エペは全身が有効面となる。またフルーレとサーブルには、先に腕を伸ばし、剣先を相手に向けた方に攻撃の「優先権」が生じるが、エペにはそうしたルールがない。相手を先に突けば得点になり、両者が同時に突いた場合は、双方にポイントが入るというわけだ。

そうした種目の特性上からか、「いまだかつてエペには絶対王者が存在してこなかった」と見延は言う。

「年間に10大会ほどあるW杯を、1年間で全部制覇した選手は出ていないですし、2大会連続で優勝するという選手もあまりいない。もちろんシーズン通して2、3勝する選手はいます。でも、それをずっとキープできる選手もいないんです。偶発的な要素も多いエペだからという意見もあるんですけど、僕はまだまだエペを極められていないからじゃないかと思っていて。『エペの極意』というものがあり、そこにたどり着かないと絶対王者は出てこない。だから僕がエペを極め、それになってやるという思いで選手を続けています」

どうすればその極意を体得できるのか。そう聞くと、見延は「難しい質問ですね」と笑いながら、こう答えた。

「やはり突くという動作のスピードは、人間の反射スピードを超えていると思うんです。間合いに入ったら、突きにくる剣を見て、よけるのは難しい。そう考えるとスピードや身体能力を上げていく方向性が正しいと思っていて。突きに入る距離とタイミングを、ミリ単位で極めていくことが、ゴールに近づいていくのかなと今は感じています」

目指しているのは「誰も到達していないエペの極み」。絶対王者となるため、見延は日々精進を続ける
目指しているのは「誰も到達していないエペの極み」。絶対王者となるため、見延は日々精進を続ける
(C)公益社団法人 日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE

アグレッシブなスタイルから、ミスを誘う戦い方に

いかなる分野においても「極める」ことは、道なき道を行くようなものだ。たとえ自分が目指してきた場所にたどり着いたとしても、その道はまだ先につながっているかもしれない。

「確かにそうですね。極めたところで、さらに次もあるはずですし。でも自分の体をもって、エペの技術を向上させたいと思います。世界的なレベルを引き上げていきたいです」

東京2020大会が開幕する今年7月、見延は34歳になる。経験を積むにつれて、戦い方も変えてきた。リオ2016大会前後は、離れたところから一気に距離を詰めて、相手の胸元へ飛び込むように走りながら突く「フレッシュ」という技を得意としていたが、最近では以前よりも間合いを縮めて隙をうかがい、短いアタックでポイントを取るスタイルにシフトした。

「ランカー(世界ランキング16位以内の選手)になったことで、相手もしっかりと対策をしてきます。これまでは自分から仕掛けるアグレッシブなスタイルで、今も時にはリスクを冒して攻めるんですけど、相手にプレッシャーを与えて、ミスを誘う戦い方も大事になると気づいて、少しずつスタイルを変えていっています」

エペを極める道は果てしなく続く。そこを進んでいくことに迷いはない。その先に待っている絶対王者という頂に向けて、見延は試行錯誤をしながら、力強く歩みを刻んでいく。

エペを極める道は果てしなく長い。試行錯誤しながら一歩ずつ進んでいく
エペを極める道は果てしなく長い。試行錯誤しながら一歩ずつ進んでいく
(C)公益社団法人 日本フェンシング協会:Augusto Bizzi/FIE
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