鈴木愛は2017年に賞金女王に輝くなど、現在の日本人女子ゴルファーのなかで屈指の実力を持つ。徳島県出身だが、鳥取県の高校に進学した際には家族もそろって移住し、プロをめざす彼女を必死に支えた。誰よりも練習し、誰よりも喜怒哀楽を表現する彼女に期待を寄せるファンは多い。
徳島から鳥取へ。家族が成長を支える
近年、女子ゴルフの日本ツアーはアン・ソンジュや申ジエ、イ・ボミ、ユン・チェヨンら韓国勢が席巻している。過去5年の賞金ランキングを見ても、2014年と2018年はアン・ソンジュが、2015年と2016年はイ・ボミが賞金女王に輝いている。そのなかで、2017年に日本人として賞金女王に輝いたのが鈴木愛だ。
1994年5月9日生まれ。鈴木がゴルフを始めたのは2004年、彼女が小学5年生の時だ。この年、高校を卒業したばかりの宮里藍がサントリーレディスオープンゴルフトーナメントで優勝する姿をテレビで見て、プロゴルファーを志すようになった。当時、実際に対面してサインをもらったこともあるそうで、その時の「神対応」に感銘を受け、今は彼女自身も可能な限りファン対応をするようにしているという。
徳島県出身だが、高校は鳥取県の倉吉北高校に進学した。ゴルフ部が新設されたばかりで、鈴木は男子部員1人と「ゴルフ部1期生」として入学し、当初は寮生活を送った。
しかし半年後、両親と3人のきょうだいも鳥取に移り住み、鈴木を支えることになる。父親は徳島で3代にわたって営んでいた製材店をたたみ、鳥取ではゴルフ場でアルバイトをしながら娘のゴルフ部のコーチも務めた。母親は娘が通う高校の食堂に勤務。鈴木がゴルフに打ち込めるよう、家族が必死に支えた。
「練習嫌い」から「練習の虫」へ。正確なパットを習得
高校卒業後の2013年には日本女子プロゴルフ協会プロテストに一発合格し、念願のプロゴルファーになった。翌2014年には日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯で初のメジャータイトルを獲得している。20歳128日での優勝は大会最年少優勝記録を更新するもので、鈴木の前に記録を持っていたのは、彼女の憧れの存在である宮里藍(21歳83日)だった。
アマチュア時代から「練習嫌い」。その姿勢はプロになってからもしばらく変わらなかった。だが、用具契約を結んだメーカーの担当者から「甘すぎる。もっと練習しないとダメだ」と苦言を呈されたことがきっかけとなり、誰よりも練習に取り組むようになった。ゴルフへの愛をさらに強めた。
その練習で磨き上げた正確なパットが鈴木にとって最大の武器だ。オーバースピン(順回転)をかけることでボールの軌道が安定し、芝目に負けないパットを打つことができる。大会中、ラウンド後に黙々とパット練習を続ける姿はおなじみの光景となっており、2016年、2018年には平均パット数でランキング1位を獲得している。
喜怒哀楽をストレートに表現する部分も鈴木の魅力の一つ。バーディーパットを決めればガッツポーズをし、ショットやパットの調子が悪いとあからさまに不機嫌な表情になる。それが批判の対象になることもあり、2017年に賞金女王となって注目度が高まってからは感情のコントロールにも心を砕いているようだが、ストレートな感情表現が熱心なファンを引きつけているのも事実だ。
2017年賞金女王。東京五輪でもメダルをめざす
プロ1年目となった2013年の賞金はわずか38万円程度。遠征費を節約するため、28万円で購入した中古車に用具一式を詰め、母親の運転で日本全国を巡る日々を送った。2014年は6000万円超、2015年は5600万円超と少しずつ実績を積み重ねていき、2016年には1億2400万円超と初めて1億円を突破。2017年は1億4000万円超を稼ぎ、23歳にして賞金女王となった。
2018年は前半戦だけで4勝を挙げたものの、右手首痛などを抱えて夏場に約2カ月間の欠場を余儀なくされるなど、後半戦は失速。1億4000万円超を稼いだが、賞金ランキングでは3位に終わった。
巻き返しを図りたい2019年は、シーズン初戦となった開幕戦のダイキンオーキッドレディスで29試合ぶりの予選落ち。「開幕からゴルフが嫌になった」と語ったが、これを引きずらないのが鈴木の強みでもある。続くヨコハマタイヤRGRレディスでは通算9アンダーで優勝し、通算10勝目を挙げた。
2020年東京五輪は26歳で迎えることになる。「東京でオリンピックをやることは、自分が生きているうちはもうないと思う。時期と自分の年齢を考えると、出ておきたいし、メダルも取りたい」。鈴木はオリンピック出場に意欲を燃やす。東京五輪出場の目安となるロレックスランキングは2019年3月8日時点で31位で、日本人では6位の畑岡奈紗(なさ)に次いで2番目。出場の可能性はかなり高い。
韓国勢と互角に渡り合い、ファンの期待を集める鈴木愛。2020年東京五輪で世界に挑む勇姿を見せるべく、ゴルフ愛を貫き続ける。