熊谷紗希:欧州3連覇中のチームで奮闘...見据える先はバロンドール、W杯、そして金メダル

なでしこジャパンのキャプテンを務める熊谷紗希

2011年ワールドカップ優勝、翌年のロンドン五輪銀メダル、2015年W杯準優勝。輝かしい栄光が、これからも続くと思われていたサッカー日本女子代表、なでしこジャパンだったが、2016年リオデジャネイロ五輪のアジア最終予選で不覚にも敗退、その舞台に立つことさえも許されなかった。レジェンドの澤穂希はすでに現役を引退。その後、司令塔を務めた宮間あやも、もういない。これからの日本女子サッカー界をけん引する役割は、フランスで活躍するDF熊谷紗希に託された。

兄の影響でサッカーの道へ

北海道札幌市出身の熊谷紗希は、1990年10月17日に生まれた。本格的に競技を始めたのは小学3年生のときだ。真駒内南サッカースポーツ少年団に所属していた兄の試合を見たことがキッカケとなった。中学校時代はクラブフィールズ・リンダに所属。2006年、秋田県にある常盤木学園高等学校へと進学する。常盤木学園は熊谷の卒業後、2010年からプレナスなでしこリーグ(2部、3部)に所属していることでも知られるサッカーの名門校だ。熊谷は1年生のときからレギュラーを獲得、2年生のときに、佐々木則夫監督率いる日本代表(なでしこジャパン)に初選出された。また、U-19日本女子代表では、AFC U-19女子選手権に出場し、準優勝に貢献する。3年生になると主将を任され、全日本U-18選手権大会3連覇、そして、全日本高等学校選手権大会で優勝を果たす。

高校卒業後、熊谷はさらにサッカーへと打ち込む。2009年に筑波大学体育専門学群に進学するとともに、プレナスなでしこリーグ1部に所属する浦和レッドダイヤモンズ・レディースへと加入。新人ながらリーグ戦でフル出場を達成した。そのシーズンをリーグ最少失点で終えた浦和レッドダイヤモンズ・レディースは、リーグ制覇を成し遂げる。

2010年、日本代表の佐々木監督は、再び熊谷を招集。なでしこジャパンは東アジア女子サッカー選手権で優勝、AFC女子アジアカップ中国2010で3位、第16回アジア競技大会で優勝する。この間、センターバックでコンビを組む日テレ・ベレーザ所属のDF岩清水梓との連係を熊谷は深めていく。

2011年、熊谷はレギュラーメンバーのひとりとして、FIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会に臨む。なでしこジャパンはグループステージでイングランド代表に敗れたものの、準々決勝に進出。延長戦の末、地元ドイツ代表を1-0で破ると、準決勝のスウェーデン代表戦は3-1で勝利。決勝で強豪アメリカ代表と激突する。試合は延長戦も含めた120分では決着せず、2-2でPK戦へとなだれ込む。PK戦スコア2-1で迎えた4人目のキッカーは熊谷。フル出場を果たし、大会を通じて成長を遂げていた熊谷は冷静にPKを決め、日本代表は初優勝に輝いた。

ヨーロッパの厳しい環境で成長。新生なでしこの主将に!

世界一の栄光をつかんだ熊谷は、W杯終了後の7月、ドイツ1部の1.FFCフランクフルトへ移籍。高いレベルに身を置くことで、自分自身がさらに成長できるようにチャレンジする。日本代表としては2012年にロンドン五輪に出場。グループステージ初戦のカナダ代表戦を2-1で勝利するが、残りの2戦はスコアレスのドロー。2位で決勝トーナメントに進出すると、ブラジル代表、フランス代表を破った日本代表は、決勝で再びアメリカ代表と対戦。今度は1-2で敗れ、銀メダルに終わった。熊谷自身はロンドン五輪でフル出場を果たしている。

2013年、熊谷はフランス1部のオリンピック・リヨンへ移籍した。リヨンは2006-2007シーズンから国内リーグ連覇を続けており、UEFAチャンピオンズリーグの優勝候補に挙げられる強豪チームだ。熊谷は身長171センチ。日本人女性としては長身だが、ヨーロッパのチームに入れば、決して高いほうとはいえず、守備的MFとして起用される機会が増えることとなった。

2015年、熊谷はなでしこジャパンの一員としてカナダW杯に臨む。日本代表は3連勝でグループステージを突破。決勝トーナメントはオランダ代表、オーストラリア代表、イングランド代表を下し、決勝の相手は三度のアメリカ代表。ロンドン五輪の雪辱を果たす機会を得たものの、なでしこジャパンは2-5と完敗。グループステージ第3戦を除いて熊谷はフル出場していた。しかし、この敗北は、なでしこジャパンのひとつの時代が終わる象徴だったのかもしれない。長きにわたり、日本女子サッカー界をけん引してきた澤が、この年の12月に現役を引退した。

2016年、なでしこジャパンはリオデジャネイロ五輪出場権が懸かるアジア最終予選に臨んだ。熊谷は全5試合でフル出場を果たしたが、チームの戦績は2勝1分け2敗の3位。オリンピック出場を逃してしまった。その後、佐々木監督は退任。日本代表史上初の女性指導者として、高倉麻子新監督を招へいする。

世代交代を進める高倉監督は2017年、なでしこジャパンのキャプテンに熊谷を指名する。そして、2018年4月にヨルダンで開催されたAFCアジアカップは、主将としてフル出場。チームの優勝に貢献した。同年10月、優勝を収めたアジア大会に、熊谷は招集されなかったが、2019年2からアメリカで開かれた国際大会に出場。なでしこジャパン不動のセンターバックは、今年6月に開幕されるフランスW杯、そして、2020年東京五輪で活躍することが期待されている。

目指すは二度目の世界一、そして初の五輪金メダル

熊谷紗希が所属するリヨンは、昨季までにリーグ11連覇、そしてUEFAチャンピオンズリーグ3連覇を達成。今季も記録を更新する可能性を残している。熊谷の貢献度は大きく、サッカーの世界最高選手に贈られる「バロンドール」女子部門で、2018年の候補者15名に選ばれた。

なでしこジャパンは6月のW杯に向けて準備を進めている段階。おそらく今の熊谷には、その先にある東京五輪について、考える余裕はないだろう。2011年以来、二度目となる世界一に、どれだけなでしこジャパンは近づけるのか。キャプテンとして熊谷はどれくらい貢献できるのか、彼女の目指す先には、きっと東京五輪の表彰台が待っている。

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