山本聖途:オリンピックを運命づけられた男にとっての「三度目の正直」

ロンドン、リオデジャネイロと2大会連続五輪出場も記録なしという屈辱を味わう

ロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪に連続で出場しながら記録なし。2度の五輪で失意のどん底を経験した男は、日本選手権を2連覇し、2018年アジア大会では新記録で金メダル獲得して復活を果たした。日本棒高跳びのエース山本聖途が2020年東京五輪でのリベンジを誓う。

13歳で出会った棒高跳び

山本聖途は1992年3月11日、愛知県岡崎市の生まれ。現在はトヨタ自動車に所属する。元短距離選手の父親と元跳躍選手の母親というスポーツ一家の三男に生まれた山本の“聖途”という名前は、「聖火台に一途に進んでほしい」との願いを込め付けられたそうだ。

サッカー少年だった山本が棒高跳びを初めて経験したのは、岡崎市立岩津中学校2年次の夏休み。陸上部員としてある大会に参加した山本は、のちに進学することになる岡崎城西高等学校の陸上競技部の顧問に誘われ、翌日から同校の練習に参加した。中学時代のベストは2メートル80と、全日本中学陸上競技選手権の参加標準記録に1メートル以上も足りず、県大会にすら出場できなかったが、岡崎城西高校進学で急成長を遂げる。

2年生で5メートルを跳び、3年生でインターハイ6位という好成績を収め、高校卒業後は東海地区の強豪、中京大学に進学。2012年4月の第46回織田幹雄記念国際陸上競技大会では、3位ながらも5メートル60の学生記録を打ち立てた。

また、同年6月に行われた第96回日本選手権では、日本記録保持者の澤野大地を破って優勝に輝いた。優勝記録は5メートル42と物足りない数字だったものの、風雨に見舞われる最悪のコンディションの中、澤野、荻田大樹、そして山本が三つ巴の激闘を繰り広げ、3番手だった山本が気力で試合を制した。これで念願のロンドン五輪日本代表の座を勝ち取った。

過去2回の五輪はともに記録なし

親から授かった名前の由来を自らの手でかなえた山本。しかし、ロンドン五輪の競技中のことは何も覚えていないという。ロンドン五輪直前、日本学生陸上競技個人選手権、続く7月の秩父宮賜杯第65回西日本学生陸上競技対校選手権大会でも優勝。5メートル62で日本学生記録を更新し、破竹の勢いでロンドンに乗り込んだはずだった。

ところが本番では、最初に挑んだ5メートル35を3回立て続けに失敗。初の五輪、初の世界遠征という経験不足の上に、8万人の大観衆を目の前にして極度の緊張も手伝い、いつの間にか競技が終わっていた。日が暮れるころに選手村に戻った山本は、ユニフォーム姿のまま、深夜2時近くまでベッドで大の字になっていたという。

帰国後、中京大学の先輩で、五輪メダリストの室伏広治のトレーナー務める人物から体幹トレーニングを教わり、腹筋、背筋、腰回りを強化。その甲斐もあり、2013年5月の第79回東海学生陸上競技対校選手権大会で、日本歴代2位、日本学生新記録の5メートル74で優勝するとともに、世界選手権の派遣設定記録を突破。6月の日本選手権も2年連続で制している。

そして、世界選手権モスクワ大会で6位に入賞し、日本人最高順位を達成した。慢性的な腰痛から結果が出ない時期を経るも、五輪イヤーの2016年1月、ネバダでの国際室内大会で自己ベストの5メートル77を跳び、室内日本新記録を樹立。2度目の五輪出場権を得ると、リオデジャネイロ五輪では勝つことを強く意識して万全の準備で臨んだ。

……にもかかわらず、山本はリオの舞台でも自己最高記録に遠く及ばない5メートル45をすべてミス。試合後「原因はわからない。まだまだ僕自身が弱い」とメディアに語り、自らを責めたが、2012年ロンドン五輪、2016年リオ五輪と過去2回の大会のすべての跳躍でバーを落とした。つまり、五輪での「記録なし」ということになる。

失意の五輪からアジア王者、そして東京2020へ

リオ五輪で再び失敗した山本だったが、復活は早かった。2017年、2018年の日本選手権を連覇し、日本棒高跳びのエースの座を確固たるものにした。そして、2018年8月のアジア競技大会で5メートル70を跳び、大会新記録で金メダルを獲得、アジア王者になった。

世界の棒高跳びの選手の中で、身長181cm、70kgという山本は小柄な部類に入る。棒高跳びでは、体が大きいとその分ポールがしなるため、反発力が得られる。その体格というウィークポイントを補うために、山本は助走のスピードをアップし、ポールに強いしなりを与えるため、筋力トレーニングを行ってきた。2018年以降は、空中動作の安定化に取り組み、そうした努力が結果として現れるようになっている。

東京五輪の棒高跳び日本代表選考レースでは、経験豊かな日本記録保持者の澤野大地、リオ五輪日本代表の荻野大樹、そして、成長著しい日本大学の江島雅紀らが虎視眈々とその座を狙っている。しかし、五輪の舞台で誰よりも苦い経験をし、屈辱を味わい、その悔しさをバネに這い上がってきたのが山本だ。目指すは「3度目の正直」。東京の地で山本が見せる会心の跳躍に期待したい。

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