女性には似つかわしくないイメージのあるウエイトリフティング。だが、三宅宏実がロンドン五輪で銀、リオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得し、日本勢が世界に食い込めることを証明している。東京五輪では、メダルラッシュが期待できるかもしれない。
緊張感と喜びを共有できる女子ウエイトリフティング
ウエイトリフティング(重量挙げ)は、バーベルを頭上まで挙げることを競い合う競技だ。古代ギリシアやエジプトなどでの石を持ち上げての力比べが起源とされる競技で、それはまさに男たちが己の強さを競い合うためのものだった。
そんなウエイトリフティングが女子競技のひとつとして公認されるようになったのは、1983年。4年後、女子世界選手権が開催されたのを機に国際大会でも採用され、2000年シドニー五輪で正式採用となった。
持ち上げるバーベルの重量は自己申告制だが、そのバーベルの持ち上げはルール化されている。
バーベルを一気に頭上まで抱え上げながら同時に立ち上がる動きを「スナッチ」。肩の位置までバーベルを抱え上げ(クリーン)、続けて頭上に上げる(ジャーク)動きが「クリーン&ジャーク」という。それぞれ3回行い、持ち上げたベスト重量の合計で順位が決まる。
五輪の場合、スナッチに3回成功しなければ、クリーン&ジャークの試技に進めない。バーベルの落下、床に尻をつけてしまっても失格となる。スナッチやジャークの際の腕の角度が曲がっていれば失格だ。
ひとつバランスを間違えれば転倒や骨折も有りうる。これを制限時間内(五輪では1~2分)に達成しなくてはならず、精神的にも強くなければ記録は出せない。
規定体重アップの7階級で実施
2020年の東京五輪での女子ウエイトリフティングは、49kg/55kg/59kg/64kg/76kg/87kg/+87kg級の7階級で実施される。引き上げたバーベルの合計重量が同じ場合、選手本人の体重が軽い方が勝利となる。
東京五輪では、各階級の規定体重が変更され、特に重量級は大幅に増えた。
東京五輪代表選考はポイント制、日本女子は開催国枠3枠確保
東京五輪代表選考は、国際ウエイトリフティング連盟(IWF)が定めたポイントの総合得点を軸に決まる。各国内大会、国際大会それぞれ3つのグレードが定められ、グレードごとに獲得ポイントが変動する。
2019年11月の世界選手権などの国際大会はポイントが高いため、出場枠を狙う有力選手も多く集うことになるだろう。各国最大4枠(男女で計8枠)を得ることができる。日本の開催国枠は、男女各3枠計6枠が確保されている(3月17日時点で階級は未定)。
なお、IWFは昨今増加傾向にあるドーピング違反に対する対策として、2008年から2020年までの違反が10~19件に達した国は、男女各2枠のみに、20件以上の違反なら男女各1枠のみに制限されるとした。さらに予選期間中、新たに3件以上の違反があれば出場資格の剥奪もあるとしている。
中国、タイなどアジア勢が上位を独占、カザフスタンも切り込む
2000年シドニー五輪から採用された当時から現在まで、女子ウエイトリフティングの主導権を握っているのは中国だ。リオ五輪までの全5大会で金メダルを欠かしたことがない。選手層は厚い上、重量級が特に強く、長らく北朝鮮や東欧勢を抑え込んできている。
タイもリオ五輪の48kg級で金メダルを獲得するなど、男女ともに強豪国のひとつだったが、ドーピング違反が疑われるケースが多発。2019年3月、タイ側も国際大会、東京五輪への男女すべての選手派遣を自粛すると発表した。
タイの不出場により東京五輪では、世界の勢力図が大きく変わる可能性がある。
五輪経験者の三宅、八木、安藤らの成長がそのままメダルに直結?
2012年のロンドン五輪で三宅宏実が、48kg級で日本人女子初の銀メダルを獲得。4年後のリオ五輪でも銅メダルを手に入れ、日本の女子ウエイトリフティングの可能性を広げた。2020年8月には34歳の三宅は、5度目の五輪出場を狙うことを公言しており、女子リフターのパイオニアとして、3つ目のメダルが期待される。
今の日本女子ウエイトリフティング界の有力選手は三宅だけではない。53kg級の八木かなえは、初出場のロンドン五輪で12位だったものの、リオ五輪では6位に入賞した。全本選手権も4連覇中となっており、東京五輪の55kg級の有力候補だ。
リオ五輪で58kg級に出場した安藤美希子も注目のひとりだろう。三宅ファミリーと袂を分かつ形で強豪国でもある韓国に拠点を移し、環境を一新。2018年のアジア大会で銅メダルを獲得するなど、着実に結果を出している。59kg級でのメダルを狙う。
地力を着実につけている日本女子ウエイトリフティング勢がメダルに近い位置にいることは間違いない。