次世代スポーツとして注目されている『BMXフリースタイル・パーク』。2020年東京オリンピックでは開催国枠が確保されている中、日本の女子部門にライバル不在のため、出場がほぼ確実視されているだけでなく、メダル獲得の最右翼としても注目されているのが、大池水杜(おおいけ・みなと)だ。
恵まれた体格から繰り出すトリック(技)の数々と、その完成度の高さは世界でも抜きん出ており、2018年ワールドカップで優勝するなど、実績も十分。2020年東京五輪本番での活躍に期待が高まっている。
2018年W杯で日本人初の優勝
2018年5月、フランスのモンペリエで開催されたアーバンスポーツの世界大会『FISE World Series2018 Montpellier』(UCI・BMXフリースタイルワールドカップ第2戦)で行われた、BMXフリースタイル・パーク女子の決勝。大池はジャンプ中にシート(サドル)をつかむ「トボガン」や、ハンドルを持ったまま車体を回転させる「テールウィップ」、後ろ一回転ジャンプの「バックフリップ」など、次々と得意技を繰り出し、並みいる世界の強豪選手を抑えて優勝した。
この種目で日本人選手が優勝することは大きな番狂わせで、日本人初の快挙となった。大池自身も「東京五輪に向けて本格的な一歩を踏み出せた」と語り、確かな手応えを実感したようだ。
父の影響でのめり込んだBMX
1996年12月1日生まれの大池は、父の影響で小学校に上がるころからオートバイのモトクロスを2年経験。その後、自転車のバイクトライアル(※1)を始めたが、オートバイとの違いになじめず、いったん二輪競技そのものから離れたという。中学では女子サッカー部に所属していたが、2年のときに父にスケートパーク(※2)に連れて行ってもらい、楽しそうにパフォーマンスするBMX選手たちの姿に引かれ、二輪熱が再燃。自分でBMXを購入し、朝から晩まで練習に没頭した。
サッカーとBMXと両立させていたが、ほどなくBMXに傾倒していく。やがて日本国内ではライバルがいなくなるほど上達し、2013年に初めて世界大会(Simple Session Sister Session)に出場し、いきなり5位を飾った。その後も世界のトップライダーのトリックを目の当たりにし、その刺激を糧に自身の技術を磨いていった。
※1:BMXレースとは違い、タイムを競うのではなく、いかにミスなく走破できるかを主眼に置く自転車競技。
※2:スケートパークは、スケートボードだけでなく、同種のトリックを行うBMXのコースとしても使用されることが多い。
国内ではライバル不在
現在、日本自転車競技連盟が東京五輪に向けて強化選手に指定しているのは、男子の6選手に対し、女子は大池ただ1人だけだ。2019年4月時点で、日本には大池と同世代で、世界で戦える女性BMXフリースタイルライダーはおらず、大池の一強状態となっている。そのため、国内大会では男子クラスに混ざってコンテストに出場しているという状況だ。
ただ、BMXレースがメインではあるが、丹野夏波(神奈川・白鵬女子高校)が、フリースタイル・パークでも活躍している。2018年10月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されたユースオリンピック競技大会で、フリースタイル・パーク混合に大霜優馬とのペアで出場し、銅メダルを獲得しており、当面の国内のライバルは、この丹野となりそうだ。
バックフリップが得意技
大池の最大の武器は、169センチという長身を生かした大技だ。しかも確実性が高い。パフォーマンスの序盤で両手を広げてジャンプする「ノーハンド」は雄大で、見る人に強烈なインパクトを与える。両手やヒジだけでなく、指先まで伸ばすと美しくなるため、大きく見えるように、着地のギリギリまで手を離すことを心掛けているという。
同じ種目で大池選手に並んで注目されている中村輪夢の父で、元BMX選手の中村辰司氏から「男子選手にも負けていない」と太鼓判をもらったという。このほか、女子選手では世界でも数人しかできないとされる、後ろ一回転ジャンプの「バックフリップ」が得意で、大事な場面で完璧に決めてくるところが強みだろう。
世界選手権の僅差での4位がW杯優勝の原動力に
大池の戦歴は華々しい。2017年に中国の成都で開かれたフリースタイルの世界選手権『UCI BMX Freestyle World Cup』で5位入賞、続く『UCI Urban Cycling World Championships』で4位に入賞した。いずれもメダルは逃したが、ポイントは僅差で、日本の女子ライダーとして存在感を示す結果となった。
同年、BMXフリースタイル・パーク種目として国内初開催となる全日本選手権が、岡山県で行われ、大池はノーハンドなどの得意技を華麗に決めて見事に優勝を果たした。2018年の同大会でも優勝し、2連覇している。
実は2017年までは、ぶっつけ本番で大会に臨むことが多かったという大池。ひとつの技で崩れると、焦ってプレーが堅くなってしまうことが理由だった。しかし、さらに上を目指すには、アドリブでは限界がある。パフォーマンスの構成を、あらかじめ組んでおくことが求められる。それを実践したのが中国の成都での大会だった。
僅差の4位に終わったことで、大池は悔しさを感じていたという。それをバネに構成に磨きをかけ、力を出し切って結果を出したのが、2018年5月のワールドカップ・フランス大会優勝だった。まさに東京五輪への出場と、金メダル獲得への第一歩を踏み出した瞬間だっただろう。2019年4月10日現在、世界ランク5位にある大池は、体力を養い、高さのあるジャンプができるように、体幹を鍛えているという。こうした地道な努力の先に東京五輪のメダルがあるのだ。
メダルだけにとどまらない使命
東京五輪でメダル獲得が期待される大池。仕事を辞め、本気で世界に挑んで築き上げた活躍は、自身のためだけではない。自分に続くBMXの女子選手を増やすという使命も担っている。多くのマイナーな五輪種目同様、メディアで積極的に取り上げられることが、まだまだ少ないものの、大池がメダル獲得を果たせば、世間の注目度はさらに高まるだろう。