男子ボクシング:拳と拳だけの戦い…日本からも元プロ選手参戦へ

例年ヘッドギア装着が規定されていたが、リオ大会はヘッドギアなしで実施された

2012年ロンドン大会で村田諒太が48年ぶりの金メダルを獲得したことで注目を浴びた男子ボクシング。前回のリオデジャネイロ大会ではメダルを獲得できなかったが、地元開催となった東京2020大会に向けて、プロボクサーも絶賛するメダル候補選手も出現するなど、期待が高まっている。日本ボクシング史上初めて、世界ユース選手権を制したニューフェイスが日本に2大会ぶりのメダル獲得をもたらすのか?

◆競技の概要

ボクシングと言えば、WBC(世界ボクシング評議会)などの世界主要4団体(WBA・WBC・IBF・WBO)を中心としたプロボクシングのイメージが強い。スポーツとしての歴史は古代ギリシャまで遡り、近代ボクシングは19世紀末にイギリスを発祥とし、アメリカ大陸を経て世界へと拡がっていった。

オリンピックにおいては、日本国内では便宜上「アマチュアボクシング」と呼ばれ、1904年セントルイス大会から競技種目としてスタートした。2016年リオデジャネイロ大会では、10階級で実施したが、2020東京大会では、2階級減の8階級で行われる予定。各国の代表争いにおいても影響もあるだろう。

◆ボクシング競技のみどころ

ボクシングは他の格闘技と違って、左右の拳のみで闘う。攻撃できる部分も上半身と限定。拳だけで相手の隙をどう突いていくか、そして如何に相手を倒すことができるのか。格闘技の中でも最もわかりやすい競技種目だ。

リングの大きさは、6.1メートル×6.1メートル。オリンピック種目に採用されている格闘技の中で唯一ロープ付きのリングが設けられる。そして、リングの外で闘うことはない。リングの中で、拳を合わせながら相手と闘う姿にファンは酔いしれることになる。

◆五輪ボクシング競技のルール

プロボクシングであれば、3分最大12ラウンドで行われるが、オリンピックでは3分3ラウンド。作戦や持久力が求められるプロに対し、身体能力や技術(ポイントを取ること)に長けている選手が優位になる。そしてトーナメント形式であることから、実力以上に流れに乗った勢いも勝敗を左右する要素として挙げられる。

五輪でのボクシング試合は以下の形で勝敗を決める。まずはノックアウト(KO)勝ち。ダウンして10秒以内に競技を続けられない時、またはレフリーがカウントを省略した時が対象になる。

ノックアウトで決まらない場合は、ジャッジの判定に持ち越される。5人の審判が、勝利したと思われる選手にポイントを与え、ポイントが多い選手が勝利者として判決される。

その他、ラウンド終了後にセコンドがタオルを投げ入れた場合、レフリーが競技者の安全を考慮して試合を止めた時はレフリー・ストップコンテストが適用。相手選手が負傷で競技続行不可能な時や、ルール違反で当該選手が失格と判定された時も、レフリーの判断で決めることができる。

プロの試合とは違い、選手にはランニングシャツやトランクス、ガムシールド、カッププロテクターの装着が義務付けられている。グローブについては、男子69㎏以上の競技者は片手12オンス、その他の競技者は片手10オンスとし、AIBA(国際ボクシング協会)公認のものとする。

◆過去のメダル獲得成績、過去記録、五輪レジェンド

ボクシング主な国別メダル獲得数は以下の通り

  • 1位 アメリカ 金:50 銀:24 銅:40 計114
  • 2位 キューバ 金:37 銀:19 銅:17 計73
  • 3位 イギリス 金:18 銀:13 銅:25 計56
    (省略)
  • 28位 日本 金:2 銀:0 銅:3 計5

日本の金メダル獲得者は、桜井孝雄(1964年東京大会バンダム級)と村田諒太(2012年ロンドン大会ミドル級)。銅メダル獲得者は、田辺清(1960年ローマ大会フライ級)、森岡栄治(1968年メキシコ大会バンダム級)、清水聡(2012年ロンドン大会バンダム級)。

2018年リオデジャネイロ大会の国別メダル獲得数は以下の通り

  • ウズベキスタン 金:3 銀:2 銅:2
  • キューバ 金:3 銀:0 銅:3
  • フランス 金:1 銀:1 銅:1

歴代の国別メダル獲得数はアメリカ合衆国がトップだが、前回のリオデジャネイロ大会でウズベキスタンが金メダル3個を含む7個を獲得。ロシア、カザフスタンも含めた旧ソ連勢が、近年のアマチュアボクシング界をけん引する。

五輪におけるレジェンドボクサーとして名前をあげるとすれば、モハメド・アリだろう。1960年ローマ大会ライトヘビー級で金メダルを獲得するとプロに転向。後にWBC・WBA統一世界ヘビー級王座を獲得し頂点に立った。

1976年には日本武道館でアントニオ猪木と「格闘技世界一決定戦」を行い、時間切れ引き分けに終わった一戦は、今でも「伝説の一戦」として語り継がれている。

アメリカ代表として1996年アトランタ大会フェザー級に出場したフロイド・メイウェザー・ジュニアは現代のレジェンドの1人だ。銅メダルを獲得後プロに転向し、WBC世界スーパーフェザー級で8度、世界ライト級で3度防衛するなどプロ通算50戦50勝無敗。引退後もボクシング界に名前を残している。

日本からは、2012年リオデジャネイロ大会ミドル級で、日本人48年ぶりの金メダルを獲得した村田諒太だろう。これまで日本人が弱いと言われてきた階級で結果を残す快挙だった。その後、プロに転向し14戦目でWBA世界ミドル級王者を獲得。日本人として22年ぶり2人目のミドル級世界王者となった。

◆ボクシング男子・東京五輪での注目日本人選手

2大会連続オリンピック出場を狙う、ライトウェルター級の成松大介、ライト級の森坂嵐に期待したい。昨年行われた「第88回全日本ボクシング選手権大会」では、2人とも優勝を飾り、国内ランキングも1位で日本のトップアマ選手として君臨し続ける。また、成松はジャカルタで行われたアジア競技大会でベスト8にも進出している。

若手からは堤駿斗を推したい。2016年に日本ボクシング史上初めて世界ユース選手権を制した期待のホープ。“モンスター”として名を馳せるWBA世界バンダム級王者の井上尚弥も「反応が早い」と絶賛する。「第88回全日本ボクシング選手権大会」では準決勝で敗れたが、国際大会では結果を残した。「メダル候補」と呼び声もあり、名前だけでも覚えて欲しい選手だ。

そして、アマチュアデビュー戦を経て、東京大会を目指している高山勝成。プロボクサー時代は世界4団体ミニマム級統一王者となったあと、次の目標として自国開催五輪出場に定めた。リオデジャネイロ大会からAIBAがプロ選手の出場を解禁したことで、五輪出場の道が見えた。

出場が叶えば37歳でオリンピックを迎える。プロボクサーとして大きな実績を残してきた選手が、オリンピックで活躍できるのか注目したい。

◆東京五輪で日本に立ちふさがるライバル国

2017年の世界選手権で5個の金メダルを獲得したキューバ、そしてウズベキスタン、カザフスタン、アゼルバイジャン、ロシアといった旧ソ連勢がメダル争いに加わる。日本としては、ここに挙げた国の選手たちに勝利を飾らないとメダルは厳しい。

リオデジャネイロ大会からプロ選手の出場を解禁した。プロ選手がどれだけ出場できるのかにも注目が集まる。今年は世界選手権も控えているが、ここで結果を残した選手が2020東京大会のメダル候補に躍り出ることは言うまでもない。

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