「スポーツの秋」から冬にかけてますます盛り上がりを見せるのが、マラソン、そして駅伝だ。とりわけ大学駅伝では、チーム全員の思いを乗せた襷(たすき)をつなぎ、ゴールをめざす姿は多くの感動を呼び、毎年熱きドラマが生まれる。大学駅伝シーズンが本番を迎える前に、気になる情報をまとめてチェックしておこう。
「出雲駅伝」にはアメリカのチームも参戦
大学駅伝にはさまざまな大会が存在するが、なかでも「出雲駅伝」「全日本大学駅伝」「箱根駅伝」が「大学三大駅伝」として高い知名度を誇る。
駅伝シーズンの幕開けを告げるのは、原則として毎年体育の日に開催される「出雲駅伝」だ。正式名称は「出雲全日本大学選抜駅伝競走」で、2019年は10月14日に実施される。
スタート地点は歴史を感じさせる出雲大社の正面鳥居、ゴールは出雲ドーム前。6区間計45.1キロメートルで構成され、一番短い区間は5.8キロ、一番長くても10.2キロという距離だ。順位の変動が激しい「スピード駅伝」の別名を持つ。2019年大会に出場するのは下記の21チームで。国外からの招待枠としてアメリカのアイビーリーグ選抜チームが出場する。
第31回出雲全日本大学選抜駅伝競走 出場チーム
北海道学連選抜/東北学連選抜/東海大学/青山学院大学/東洋大学/駒澤大学/帝京大学/法政大学/國學院大學/順天堂大学/拓殖大学/中央学院大学/北信越学連選抜/皇學館大学/愛知工業大学/立命館大学/関西学院大学/京都産業大学/広島経済大学/第一工業大学/アイビーリーグ選抜
「出雲駅伝」に続いて11月の第一日曜日には「全日本大学駅伝」が行われる。正式名称は「秩父宮賜杯 全日本大学駅伝対校選手権大会」で、2019年は11月3日開催。名古屋市の熱田神宮を出発し、三重県の伊勢神宮までの8区間106.8キロを選手たちが駆け抜ける。コースは平坦な道ではあるが、短い区間と長い区間が混在している。そして最終第8区が最長区間となるため、持久力が勝負のカギを握る。全25校に加えオープン参加の2チームが出場し、そのうち8チームは前大会で8位以内となったチーム、それ以外は各地区で選ばれた17チームとオープン参加選抜の2チームが走る。
第51回秩父宮賜杯 全日本大学駅伝対校選手権大会 出場チーム
札幌学院大学/東北福祉大学/青山学院大学/東海大学/東洋大学/駒澤大学/帝京大学/國學院大學/法政大学/城西大学/順天堂大学/拓殖大学/東京国際大学/明治大学/早稲田大学/日本体育大学/中央学院大学/新潟大学/皇學館大学/愛知工業大学/立命館大学/関西学院大学/京都産業大学/環太平洋大学/第一工業大学/日本学生連選抜チーム/東海学連選抜チーム
大学駅伝シーズンを締めくくるのが、正月の風物詩「箱根駅伝」だ。毎年1月2、3日にテレビ放映では高視聴率を集め、日本中がエールを送る一大スポーツイベントと言える。千代田区大手町の読売新聞社前から、箱根町の芦ノ湖までの距離を2日かけて往復。往路は5区間107.5キロ、復路は5区間109.6キロのため、各区間が20キロ以上と長く、「山登り」「山下り」といった難所があるのも見どころとなっている。前大会の上位10位チーム(シード校)、2019年10月の予選会で10位以内となったチーム、そして関東学生連合チームと、合わせて21チームが出場する。
第96回箱根駅伝 出場確定チーム(2019年10月11日時点)
東海大学/青山学院大学/東洋大学/駒澤大学/帝京大学/法政大学/國學院大學/順天堂大学/拓殖大学/中央学院大学
209年のMGCには駅伝経験者が多数出場
平成最後の大会となった、2019年の第95回箱根駅伝では、東海大学が10区間合計10時間52分9秒の大会新記録を打ち立て、悲願の初優勝を成し遂げた。また、苦戦が続いていた青山学院大学を見事立て直し、2015年1月から箱根での4連覇に導いた原晋(はら・すすむ)監督は一躍時の人となった。駅伝はチームスポーツだけに、学校や会社など組織の中でのチームワーク向上をめざす人にとっても、ヒントをもらえる事例が数多くある。日々組織の中で揉まれ、もがく人たちの背中を押してくれるような力を持っていることも人気の秘訣だろう。
「箱根のヒーロー」となった選手たちにはその後も多くの関心が注がれる。オリンピックでの活躍を望む声が上がることも、決して少なくはない。ただし、1964年の東京五輪から2016年のリオデジャネイロ五輪までのマラソン競技において、入賞した9名のうち箱根駅伝で活躍したのは、バルセロナ五輪で8位に入った谷口浩美、アテネ五輪6位の諏訪利成、ロンドン五輪6位の中本健太郎といったところ。「箱根が人生のピークだった」という切ないシナリオを持つ選手が、実は多数存在する。
一方、今年9月15日に行われた2020年東京五輪男女マラソン代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」では新たな傾向が見えた。男子31名のうち大卒ランナーは28名、そのうち箱根の舞台で走った経験のある選手は25名。なかでも東洋大で優勝経験を持つ選手は5名もエントリーしていた。2位に入り五輪出場権を手にした服部勇馬もその一人だ。「選手個々の育成面での弊害」を指摘される箱根駅伝だが、「箱根から世界へ」のスローガンが実を結んで、間近に迫った東京の大舞台で大学駅伝出身者が大記録をもたらす可能性は十分にある。
「出雲駅伝」は東海大、青学、駒澤大による上位争いが濃厚
今シーズンを占う重要なレースとなる「出雲駅伝」では、やはり箱根優勝メンバーを数多く擁する東海大学が上位に食い込んでくるという声が強い。エースの鬼塚翔太(4年)は、マラソン日本記録保持者である大迫傑とともにアメリカでの高地トレーニングも経験し、さらに力をつけている。
大学の同窓会で出雲駅伝出場メンバーを発表するというサプライズを見せた青山学院大学は、吉田圭太(3年)に注目だ。昨シーズンは三大駅伝ですべて区間賞を獲得する大活躍を見せ、チームの中心的存在となった。メンバーの入れ替わりによりパワーダウンを囁く声もあるが、主将を務める鈴木塁人(4年)も前回の出雲駅伝では区間賞を獲得しており、良いイメージを持って大会に臨めると見られている。
2019年の箱根駅伝で4位と健闘した駒澤大学は、OBである中村匠吾がMGCで優勝を果たし東京五輪代表選手に内定した勢いに是非ともあやかりたいところ。同選手はいまだに駒澤大学を練習拠点としており、現役大学生にも大きな刺激を与えている。なかでも主将の中村大聖(4年)は2019年7月にイタリアで行われたユニバーシアードのハーフマラソンで銀メダルを獲得するなど、好調ぶりを見せつけている。
常に上位に食い込みながらも、なかなか頂点に届かない東洋大学も、前回大会では2位に終わった雪辱を果たしたいところだ。相澤晃(4年)は7月のユニバーシアードのハーフマラソンで金メダルに輝き、都道府県対抗駅伝や全日本選手権などでも「学生最強」と称される圧巻の走りを披露している。
國學院大學がダークホースとなる可能性もある。「平成最後の山の神」となった浦野雄平(4年)は平地でも強さを発揮。2019年5月の関東インカレ2部では5000メートル、10000メートルで必死に留学生に食らいつくメンタルの強さも発揮し、日本人トップの成績を収めた。同じく4年の土方英和(ひじかた・ひでかず)も関東インカレ2部のハーフマラソンで頂点に立っており、選手層という部分でも期待できる。「箱根の総合3位以内」と掲げる浦野を中心に、台風の目となりそうだ。