スキージャンプとクロスカントリースキーの2種目を同日に行う「ノルディック複合」。ふたつのまったく異なる運動能力が必要とされる競技の魅力と見どころが満載のレース展開となった、ラージヒル/10km。
渡部暁斗のコメントと共に、選手たちの激闘を振り返る。
2月9日に行われたノーマルヒル/10kmで7位だった渡部は、ヒルサイズ140mのジャンプ台に舞台を移し、ソチ2014、平昌2018の2大会連続銀メダルに続き、悲願の金メダルを目指してグンダーセン方式個人ラージヒル/10kmクロスカントリースキーに挑んだ。
スキージャンプ・ラージヒルで5位につけ、レースに勢いをつけられた前半戦。トップから54秒差で後半戦となる10kmクロスカントリースキーをスタートすると、渡部は前半から前に追いつく力強い走りを見せ、集団を引っ張った。「積極的に自分でいくしかないなと思って、自分をプッシュして良いペースを作れたかなと思います」
戦略、体力、精神力
前半の大飛躍でトップに立ち、2位から44秒のアドバンテージを持って10kmをスタートさせたノルウェーのヤールマグヌス・リーベルが、序盤でコースミスをしたことでメダル圏外となるなか、同じくノルウェーのヨルゲン・グローバクとイエンスルラース・オフテブロは、12位(2分7秒後)と10位(1分47秒後)でクロスカントリースキーをスタートすると、猛烈な追い上げを見せて、最終周回で渡部を含む先頭集団に追いつく。最終コーナーまでトップを走っていた渡部を交わし、バックストレートを並走してスプリント勝負に持ち込みと、勢いそのままにワン・ツーフィニッシュを飾った。最後の最後で交わされてしまったそのタイム差は、2位がトップから+0.4秒、3位渡部が0.6秒の僅差だった。
「正直、なんであそこで(最後の数100m)もうちょっと頑張れなかったんだろうなと思うんですけれど、走っている最中は本当に精一杯でした」
「また金メダルまですごく近いところまでは来たと思うんですけど、やっぱり最後はもうちょっと…(力が)残ってなかったです」と、最後のラストスパートについては「力不足ですかね」と、悔しさを表した。
トップに居続けるということの厳しさ
今季11月末の開幕戦からワールドカップ個人レースに15試合出場する中で、TOP10入りが9試合あったものの、表彰台には一度も立つことができていなかった渡部。「自分自身を信じ切れてない部分もあった」と正直な気持ちを口にするも、ジャンプで良いスタートが切れた今日は、「すごく寒い中ハードなレースだったんですけど、ベストを尽くした」と、今回のメダル獲得に繋がった自分のパフォーマンスを振り返った。
「僕が金メダルを取るっていう風にずっと自分のことを鼓舞してきた中で、本当にたくさんの人に応援してもらえて、背中を押してもらってここまで来れたんで、応援してくださった皆さんにありがとうっていうことを伝えたいですし、そんな中で金というメダルは見せられませんでしたけど、コンバインドのレースって面白いんだなっていうところを見ていただけたかなと思うんで、そこはすごく嬉しいです」
4年に一度をカタチにする
5大会連続でオリンピック出場を果たす中、平昌2018から金メダルを追いかけてきた4年間の歩みについては、「正直きつかったですね。どんどんどんどん自分のパフォーマンスが出せなくなることが多くなってきて、本当に(金メダルを)取れるかなって。メダルすら厳しいかもしれないっていう気持ちもあって、ソチとか平昌に向かうときのような自身もなく、今までの中で一番厳しい4年間だったと思います」と、思いを噛み締めた。
「色は自分が求めていたものではありませんでしたけど、ひとつ形が残るものをまた残すことができて、良かったなと思います」うなずきながら、今回達成できた3大会連続のメダル獲得について振り返った。
渡部が獲得したこの銅メダルで、北京2022で日本が獲得したメダルが合計14個となり、冬季オリンピックで過去最多だった前回の平昌2018の13個を更新した。
いざ、最終戦へ
2月17日(木)に渡部は最終種目となるノルディック複合団体戦(グンダーセン方式 団体ラージヒル/4x5km クロスカントリー)に挑む。
「日本チームみんないいジャンプはしているので、まずは良い位置につけて折り返せば今日みたいにチャンスもめぐってくると思うので、まずは良いジャンプしてチーム一丸となって団体戦でもメダルが取りに行けるように頑張りたいと思います」
メダルのチャンスを掴みに、渡部と兄の善斗、山本涼太、永井秀昭は、チームの総合力で世界に挑む。