フランスのヒーロー、テディ・リネール「完璧な1日だった」/パリ2024柔道100kg超級
テディ・リネール(フランス)は、叫び声を上げながら畳に膝をついた。金メダルをかけた戦いが終わった。
8月2日、地元の観客が大声援を送り熱狂する中、35歳のリネールは、柔道男子100kg超級の決勝で第1シードのキム・ミンジョンを破り、4個のオリンピック金メダルを獲得した史上初の柔道家となった。
11度の世界柔道選手権優勝、5度のヨーロッパ王者、そして10年間の連勝記録は、フランス女子陸上競技短距離のレジェンド、マリー・ジョゼ・ペレクと共に、開会式でオリンピック聖火台を点火するのにふさわしい選手であることを意味する。この日、リネールたちが開会式のフィナーレでパリの夜空を照らした黄金に輝く聖火台の熱気球のように、彼はその歴史的な快挙でシャン・ド・マルス・アリーナの会場を照らした。
リネールが歴史的な勝利を収めた会場は、古代ローマの戦いの神、マルスにちなんで名付けられたパリのシャン・ド・マルス・アリーナ。その名称の由来のように、リネールは勇敢に戦った。
初戦は、アラブ首長国連邦のマゴメドマル・マゴメドマロフと対戦した。リネールにとっては、少しぎこちない一戦となった。観客の応援の声は、試合がゴールデンスコアに入るとほとんど懇願に変わった。
「頑張れ、テディ!みんなが応援している!」とフランスのファンは叫んだ。結果、リネールは反則勝ちで準々決勝に進んだ。
準々決勝では、東京2020銀メダリストのジョージアのグラム・ツシシビリと対戦し、谷落で一本を取った。その直後の両者の騒動もあり、結果、リネールの反則勝ちとなった。
雷鳴のような拍手の鳴る準決勝では、タジキスタンのテムール・ラヒモフと対戦するが、時計が3分を過ぎたところで大外刈りを決めて一本勝ちした。そして迎えた決勝では、斉藤立(たつる)を準決勝で破ったキム・ミンジョン(大韓民国)と金メダルをかけて対戦し、払腰で一本勝ちし3度目の個人種目でのオリンピック王者となった。最後の技が決まった瞬間、リネールは両腕を広げ、観衆の声援に応えた。
金メダルを獲得した歓喜に浸りながら、満員のメディアルームで話すリネールは、その瞬間をどう表現するか慎重に考えていた。
「わからない」とリネールは率直に言った。「完璧な1日になったことをとても誇りを思います。ただ、それを実感するには少し時間が必要です。まだ信じられません」
「もしかしたら今夜、あるいは明日ならもっと実感が湧くと思います」と彼は笑顔で話した。
「興奮して眠れるとは思いませんが…夢のようです」
リネールが「完璧な1日」と言うのは、彼がこれまで払ってきた多くの犠牲への代償としての価値を示唆しているのかもしれない。
2020年、リネールの約10年にわたる連勝記録は、グランドスラム・パリで影浦心に敗れて途絶えた。翌年、東京2020の準々決勝で敗北を喫した。敗者復活戦で勝ち上がり銅メダルを獲得することはできた。
「東京の後、トレーニングを変えました。海外で経験を積みました。家族を置いていくのは辛いですが、今日のような美しいメダルを獲得することで気持ちが救われます」
リネールにとってこれが集大成となるのだろうか?
とはいえリネールには、まだ8月3日の混合団体戦での戦いが残っている。彼とフランス代表チームは、東京2020で金メダルを獲得しており、母国パリでの連覇に挑む。
その後、リネールを待っているものが何なのかはわからない。
100kg超級決勝での勝利から30分も経たない中、ロサンゼルス2028オリンピックへの挑戦について尋ねられたリネールは、笑顔で答えた。
「もちろんですが、順番があります。今はまだ2024年で、まずはこの金メダルの感触を楽しみたいと思います」そう答えるリネールは、次回のオリンピックが開催される時には39歳になっている。
「私にとっての目標は、自分の記録と共に墓に入ることです」と、彼はパリ大会の1か月前にOlympics.comのインタビューで話した。「世代や年齢を超えて、挑戦しても誰も成功できないような記録をできるだけ多く長く打ち立てたいと思います」
それがリネールならできると信じる人は少なくないだろう。
リネールにとっての将来がどうなるにせよ、少なくともこの日の歴史的な快挙は、彼が多くのアスリートが夢見るスポーツの頂点に達したことを示してる事実であることに間違いはない。