張本智和の強さの理由、本人の言葉と3つの視点で紐解く「パリでは3種目でメダルを」

日本卓球界を率いる張本智和の世界ランキング最高位は、日本男子最高位でもある2022年11月の2位。国際卓球連盟(ITTF)を通じたOlympics.comのインタビューで、張本は自身の悔しい試合経験や、パリ2024オリンピックへの思いを語った。その強さの背景にあるものとは?

1 執筆者 Chiaki Nishimura
Harimoto Tomokazu
(2022 Getty Images)

2003年生まれの19歳。卓球張本智和が強さを増している。

2019年1月に発表された世界ランキングにおいて、世界最年少でトップ3入りを果たした張本は、その後、4位〜8位に定着。2022年11月には日本男子、そして自己最高を更新して2位に上り詰めた。

パリ2024オリンピックで目指すのは「シングルス・団体・混合ダブルス、すべてでのメダル獲得」。まだ誰も成し遂げたことのないその目標を掲げる張本は、躍進の1年をこう振り返る。

「去年の4月に大学に進学して卓球の環境が大きく変わりました。監督やコーチの方々、そして家族、たくさんの方に支えてもらって1年間、卓球を頑張ることができ、世界ランク2位という、自己最高、そして日本最高のランキングを更新することができました。自分の力ではなく、去年からずっと支えてくださった皆さんのおかげです」

14歳目前だった2017年のシニア世界選手権に日本最年少として出場し、史上最年少で8強入りを果たして以降、張本は世界のトップレベルの卓球選手として活躍し続けてきた。しかし、謙虚な姿勢がぶれることはない。

「中学校の頃から国際大会で活躍できるようになって、そこから6年ぐらい経ちましたけど、第一線で活躍し続けられるのは当たり前ではありません。とても苦しい毎日は続いていますが、プレッシャーだったり、期待に応えながら、目標であるオリンピックで金メダルを取れるまでは全力で駆け抜けていきたいと思います」と前を見据える。

2022年はWTTチャンピオン・ヨーロッパ夏季シリーズ・ブダペスト大会やアジアカップで優勝し、WTTカップファイナルズで準優勝、世界卓球団体戦では銅メダルを獲得。2023年5月には2年1度の世界卓球選手権・個人戦が控えている。

張本が躍進する背景には何があるのか。インタビューでの彼の言葉から浮かび上がった3つの視点から紐解いてみたい。

張本智和を強くする「敗北の経験」

そのひとつは「敗北の経験」だろう。張本はかつてある試合の後、「負けることがどれだけ苦しいか思い出しながら諦めずにプレーすることができ、それが勝ちにつながった」と語ったことがある。

その悔しい経験を張本に尋ねてみると、彼は2019年4月の世界選手権をあげた。

ハンガリーで行われたこの世界選手権のベスト16の試合で、当時15歳だった張本は大韓民国のアン・ジェヒョンと対戦した。

同年1月に世界ランキングで史上最年少選手として世界ランキングのトップ3にランクインしていた張本は、史上最年少での世界選手権メダル獲得や、その先の東京オリンピックに向けての期待値が高まる中、同157位(当時)のアンにゲームカウント2-4で敗北を喫したのである。

「ハンガリーの世界選手権のベスト16で負けてしまった試合は、僕の中で今でも悔しいです」

「あの試合を思い出すとどんな困難にも立ち向かえます」

東京2020オリンピックももうひとつの悔しい経験だ。

団体では銅メダル獲得に貢献したが、男子シングルスでは4回戦敗退。その試合でスロベニアのダルコ・ヨルギッチと対戦した張本は、先に3ゲームを取って勝利に王手をかけたものの、ゲームカウント3-2で迎えた第6ゲーム、続く第7ゲームを奪われ、格下の相手に黒星をつけた。

「ハンガリーの世界選手権と東京オリンピック、このふたつは結果を出したくて出せなかった大会です。そのリベンジを次の大舞台でできたらいいなと思います」

張本智和を強くする「中華人民共和国の強者たち」

そんな張本にはオリンピック金メダルを目指す上で越えなければならない壁がある。

卓球界では中華人民共和国の選手が圧倒的な強さを示しており、世界ランキング1位のファン・ジェンドン(樊振東)を筆頭に、東京オリンピック金メダリストのマ・ロン(馬龍)、ワン・チューチン(王楚欽)は世界の上位に君臨する。

「(彼らは)世界のトップ3ですし、1回勝つのもとても難しい強い選手たちです。特にファン・ジェンドン選手はランキングポイントでも大きく離されていますし、ライバルですけれど、格上の存在です」

冷静にライバルたちとの差を分析する張本だが、それは自身をより強くするためのモチベーションにもなる。

「世界卓球(団体)のときは(ファンに)1度勝てましたけど、連続して勝てるように、もっともっと頑張らなきゃいけないと思います。オリンピックという大きい舞台で勝てるようにしっかり準備していきたいです」

「世界ランキング1位になれるかは、まだ自信はないですけど、目の前の1試合1試合に全力で取り組んで、その先に世界ランク1位があればいいなと思います」

張本智和を強くする「エースの自覚」

張本の言葉から見えてきた彼を強くする理由の3つめとして考えられるのが、エースとしての自覚だ。日本男子卓球界では長年日本代表を率いてきた水谷隼さんが2022年に引退した。

「やっぱり水谷さんの存在が日本を支えていたところは大きかったと思います。オリンピックの混合ダブルスで金メダルを取られて、偉大な方です」

大先輩が担ってきた役割を、張本は自分が受け継ぐことを受け入れ、すでにその道を歩んでいる。

2022年10月の世界卓球団体戦・成都大会で、日本男子代表チームは準決勝で中華人民共和国代表チームと対戦。第2試合に登場した張本はワン・チューチンから勝利を奪うと、第4試合でもファン・ジェンドンを相手に勝利。最終的に日本代表チームは2-3で敗れたものの、強豪チームから2勝をあげて彼らを追い詰め、日本チームに希望をもたらしたのである。

「自分は年は下ですけど、日本全体を引っ張っていかないといけないので、(2022年の)世界卓球のように、日本を引っ張るプレーというのをこれからも続けていきたいと思います」

パリ2024オリンピックに向けては、「まずは出場することが最低限の目標」。

「出場して、3種目、シングルス・団体・混合ダブルスのすべてでメダルを取りたいです。ひとつでも金メダルをとれればすごくいい大会になると思うので、そこに向かって全力で頑張っていきたいと思います」

オリンピックの卓球競技では、東京2020オリンピックから混合ダブルスが種目に追加された。水谷&伊藤美誠が初代金メダリストとなり、シュ・シン&リウ・シーウェン(中華人民共和国)が銀メダル、リン・ユンル&チェン・イーチン(チャイニーズ・タイペイ)が銅メダルを獲得した。だが、3種目すべてでメダルを首にかけた選手はまだいない。

卓球界では、5月20日~28日の日程で南アフリカのダーバンで世界卓球選手権が実施される。2年に1度の世界卓球・個人戦で張本がどのようなパフォーマンスを見せるのか、楽しみにしたい。

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