7月26日から8月11日にかけて開催されるパリ2024オリンピックのスポーツクライミングにおいて、金メダルを含む複数メダルを獲得することを目標に掲げている日本代表チーム。
ボルダー&リードの複合種目と、スピードの単独種目、男女それぞれ2種目が実施されるパリ大会に、現時点でボルダー&リードで3名、女子の森秋彩(もり・あい)と男子の楢崎智亜と安楽宙斗(そらと)が内定している(※)。残る国内オリンピック委員会(NOC)の出場枠最大男女各2枠獲得を目指し、上海(5月16日~19日)とブダペスト(6月20日~23日)で行われるオリンピック予選シリーズ(OQS)で、パリ出場を巡る最後の決戦に日本勢が挑む。
ここでは、出場する日本注目選手と日程を紹介する。
※オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。
ボルダー&リード注目選手
日本代表最有力候補、野中生萌
女子48選手が出場するOQSで世界から注目を集める野中生萌(みほう)は、オリンピック銀メダリストとしてパリへの最終ステップを迎える。東京大会で新競技としてデビューしたスポーツクライミングを一気に注目スポーツとして日本に広めた立役者が見据えるのは、パリでのメダルだ。
2023年は、ワールドカップで5年ぶりとなる優勝を含む2つのメダル獲得、課題として取り組んでいたリードでは世界選手権で決勝進出も果たし、複合種目で挑むパリへ向けて仕上げてきた。東京大会の後は2種目に集中してトライ&エラーを繰り返しながら、162cmから繰り出すダイナミックな動に磨きをかけ、壁の中で耐えていられる時間の長さ、持久力も鍛えてきた。
優勝で一発内定を狙ったアジア大陸予選では、悔しくも2位。高温多湿の厳しいコンディションで、「自身のキャリアの中でも一番タフな試合だった」と自身のInstagramで振り返ると、ひとつのムーブのミスでパリへの切符を逃す結果となったことに「思い描くパフォーマンスを出したかった。もっと自分の力を見せたかった」と悔しさをにじませた。
2度目のオリンピック出場を目指し、OQSを前に出場した今季ワールドカップ開幕戦(中国・柯橋)では、準決勝で肩を痛めてしまい、その後全力で試合に挑むことを許されない状態でシーズンスタートを切った野中。「調子は悪くなかっただけに、出鼻を挫かれてしまいウージャン(呉江)含め2戦とも思うように登れなかった事がなによりも悔しい」とコメントし、現在は回復に努めてOQSで返り咲きを目指す。
伊藤ふたば
アジア大陸予選でボルダーの全4課題を完登して1位で決勝に突破し、野中と共に2‐3位表彰台を飾った伊藤ふたばも、念願のオリンピック出場へ向けて意欲を見せる。14歳の時に史上最年少でボルダリングジャパンカップを制した後、ユースでは全日本、アジア、世界タイトルを獲得してきた伊藤は、2019年12月の東京2020コンバインド(複合)予選会で優勝しながらも、母国開催のオリンピック出場を逃し、苦汁をなめた。今回のOQSではリベンジを果たす強い気持ちで、出場枠を掴み取りに行くだろう。
また、リードを得意とし、2年連続ユース世界女王に君臨した戦績をもつ20歳の久米乃ノ華と、同じ歳で171cmの長身の中川瑠も最終予選に挑む。
スピード日本注目選手
スピード、ボルダー、リードの3種目複合として実施された東京大会とは異なり、スピード種目が単独で実施されるパリ2024では、男女各14名が出場し、単種目で初代王者を狙う。
OQSでは男子32選手がパリへの切符残り5枠(各国最大2枠)を勝ち取るために激闘する。日本はまだ出場枠を獲得できていないが、日本代表候補筆頭となる注目選手は、安川潤と大政涼の大学生コンビだ。
大政涼
高さ15mの垂直の壁を登る速さを競うスピード種目で、5秒の壁を打ち破り、パリの切符獲得を目指す21歳の現日本記録保持者、大政涼。練習では今年2月に4秒96をマークしたことを自身のInstagramで動画付きで公表し、「夢の4秒台!」とその喜びを表した。
2023年7月のワールドカップで日本男子史上初となる3位に入り注目を浴びると、9月のワールドカップでは日本新記録となる5秒07をマークして2度目の3位表彰台を飾る快挙を達成。一気にランキングを上げてワールドカップ年間ランキングでTOP10入りを果たした。
大政と安川は、2022年からふたりで日本歴代記録を10回以上塗り替え続けてきた良きライバルであり親友で、日本のスピード種目の目覚ましい成長を牽引してきた。
このふたりが日本の競技力を世界レベルに押し上げてきたように、世界でも2021年から、インドネシアのレオナルド・べドリックとキロマル・カティビンにより9回に渡り世界記録が更新され、今年4月のワールドカップ初戦(中国・呉江大会)では、18歳のサミュエル・ワトソン(アメリカ合衆国)が4秒79の新記録を塗り替え、世界はいよいよ4秒台の新時代の幕開けとなる。
益々高速化するスピード種目の世界を肌で感じるためにも、今回のパリへの切符はどうしても勝ち取りたい。
安川潤
2021年にワールドカップに初参戦、当時17歳で日本男子初となる決勝進出6位入賞で華々しく国際大会デビューを果たした安川は、2023年世界ランキング12位と日本史上最高順位でシーズンを終え、今年2月のスピードジャパンカップでスピード種目男子初となる2連覇を達成し、名実ともに日本のトップ選手としてパリオリンピックイヤーを迎えている。
ワールドカップ初戦以降なかなか決勝に進出できなかった時期の苦しさをバネに、自己新記録を更新し続けながら着実に築いてきた3シーズン。昨年はワールドカップ・シャモニー大会で0.001秒の僅差でメダルを逃すというスピード種目の厳しさに直面することもあったが、自身最高順位となる4位に入賞。初出場の世界選手権を12位で終えた後は「もの凄く悔しいですが、それ以上に初めての世界選手権で決勝に進むことが出来た手応えと、今遠征を通して得られた収穫の方が大きい」と、自身のInstagramで振り返った。
出場したワールドカップ全8大会中5大会で決勝進出、TOP15 入りという記録を残しながらも、23位に終わった最終戦では、「これまで常に進化を求めて毎日やれる事を全てやって来たつもりでしたが、その中に甘えがあったり、努力の仕方が間違っていたからだと思います」と、その結果を厳しく振り返り「"負け"を受け入れられた自分はもっと前へ進めるはず」と綴った。安川が目指すのは、「最後で最大のチャンス」と意気込むOQSでのパリ出場権だ。
今後の躍進に期待がかかるスピード日本女子
2005年生まれの同級生、竹内亜衣と林かりんは2022年からワールドカップに参戦し、国内外のユース選手権で頭角を現してきたスピード種目の期待の星だ。
現時点でスピード世界ランキング日本人TOPの28位につけている竹内は、ユース世界選手権でスピード銅メダルのほか、ボルダーでも2年連続4位、リードでも6位入賞経験をもち、オールラウンダーとしてスポーツクライミングに取り組んできた。昨年はシニアの日本代表として年末のアジア選手権に出場し、ボルダーで優勝、リードで4位の成績も残している。パリを目指して競技を絞る葛藤もありながらも三刀流で挑戦し続け、今年2月のスピードジャパンカップでは4度目の出場にして初めて頂点へ立ち、その喜びを自身のSNSで綴っている。
同時期から竹内と共に国際大会に挑戦してきた林は、2023年が躍進の年となった。3月にスピードジャパンカップで初優勝を飾ると、1週間後の大会で、野中が東京2020で打ち立てた従来の日本記録7秒55を上回り、7秒43の新記録を誕生日1日前となる17歳で樹立。アジアユース選手権で5位入賞、日本女子初となる世界ユース選手権を制覇した。今年4月のワールドカップ初戦(中国・呉江)を31位でスタートした林は、5月の第2戦目ソルトレイクシティでの前哨戦を経て、OQS上海に乗り込む。
その他には、林と同じく鳥取県出身で、ジャパンカップでは2年連続ファイナルで対戦し、一勝一敗としている河上史佳と、10代の3選手に加わりOQS出場権を得た最年長32歳の林奈津美もパリ最終予選に出場する。
OQSスポーツクライミング全日程
OQS上海
以下、現地時間と括弧内が日本時間。日本は上海より1時間進んでいる。※日程は変更になる可能性もある。
5月16日(木)
- 10:30(11:30) ボルダー男女予選(ボルダー&リード複合)
5月17日(金)
- 10:00(11:00) リード男女予選(ボルダー&リード複合)
- 16:50(17:50) スピード男女予選
5月18日(土)
- 09:30(10:30) ボルダー男女準決勝(ボルダー&リード複合)
- 13:30(14:30) リード男女準決勝(ボルダー&リード複合)
- 17:00(18:00) スピード男女決勝
5月19日(日)
- 10:00(11:00) ボルダー男子決勝(ボルダー&リード複合)
- 12:05(13:05) リード男子決勝(ボルダー&リード複合)
- 15:25(16:25) ボルダー女子決勝(ボルダー&リード複合)
- 17:30(18:30) リード女子決勝(ボルダー&リード複合)
OQSブダペスト
6月20日~23日開催 ※日程詳細は後日発表
出場選手全リストはこちら。
オリンピック予選シリーズ(OQS)上海のライブ配信情報
オリンピック予選シリーズ(OQS)上海の戦いの模様はOlympics.comのオリンピックチャンネルで配信が予定されている。