オリンピック予選を兼ねて8月に行われる世界選手権、そしてパリ2024オリンピックに向けたスポーツクライミング・ボルダー(ボルダリング)&リード日本代表争いは早くも混戦の様相を呈している。
どんな選手が勢いを増しているのか。現在の状況を見ていく前に、まずはパリオリンピック出場権獲得までの道を押さえておきたい。
ボルダー&リード、パリ2024オリンピック出場権を得るには?
東京2020オリンピックでは、ボルダー・リード・スピードの複合1種目が実施されたスポーツクライミングだが、パリ2024オリンピックではスピード種目が複合から独立し、ボルダー&リード複合種目、そしてスピード種目が実施される。
パリ2024のボルダー&リード種目に出場できるのは男女それぞれ20人で、そのうち開催国枠などを除く18枠が、各種予選大会を通じて割り当てられる。
まず最初の大会となるのが、8月にスイスで行われる世界選手権で、この大会のボルダー&リード種目の上位3選手にオリンピック出場権が与えられる。
各国がオリンピックのボルダー&リード種目に派遣できる選手の数は最大2人となっているので、もしも日本勢2人が表彰台に立つことになれば、この8月に日本代表争いが終了することも起こりうる。
世界選手権の後、11月にインドネシアで予定されているアジア予選、2024年3月〜6月には最後のチャンスとしてオリンピック予選シリーズが設けられているが、パリ2024を目指す日本選手としては、世界選手権で結果を残してパリ2024出場権を獲得することが最高のシナリオを言えるだろう。
そしてその世界選手権日本代表メンバー5枠のち、男子はすでに3枠が、女子は2枠が埋まっている。その座を掴んだのは…?
男子ボルダー&リード複合の注目選手
2022年のワールドカップの成績を見ると、スポーツクライミングの男子日本代表争いは、ボルダーの2022年ランキングでトップ3の緒方良行、楢崎智亜、藤井快(こころ)、リード日本勢上位の本間大晴、百合草碧皇(ゆりくさ・あお)、吉田智音(さとね)が先行することを多くの人が予想したのではないだろうか。
ところが、2023年2月から3月に代表選考を兼ねて行われたジャパンカップでボルダー&リードを制したのは、千葉県の高校2年生、安楽宙斗(あんらく・そらと)だった。
2006年生まれの安楽は、2022年の世界ユース選手権リードで2連覇を達成し、ボルダーでも2大会連続で表彰台に立ったクライミング界の期待の若手選手。昨年のジャパンカップでも優勝し、今年のボルダー&リードジャパンカップ2023決勝では、緒方や藤井といった実力者をおさえて優勝。2位となった20歳の百合草とともに世界選手権代表に決定した。
もうひとり世界選手権のメンバーとして選ばれているのが、兄・楢崎智亜とともにパリ2024を目指す楢崎明智(めいち)。昨シーズンを通して兄・智亜の背中を追うかたちの明智だったが、ジャパンカップのボルダー大会とリード大会の順位ポイントの合計で1位となり、世界選手権出場を決めた。
2023年世界選手権、男子日本代表メンバー(2023年4月17日現在)
- 安楽宙斗(2006年生まれ)
- 百合草碧皇(2002年生まれ)
- 楢崎明智(1999年生まれ)
ここに加わる2人は誰なのか?
日本山岳・クライミング協会の発表では、ワールドカップ・シリーズでの2023年7月10日時点の成績をもとに、世界選手権の代表が決定する。ワールドカップ・シリーズは4月21日〜23日のボルダーワールドカップ2023八王子でシーズンが幕を開け、それらの大会で選手たちは好成績を残して世界選手権日本代表の座を掴みとることになる。
ジャパンカップの結果を基準に決定されたパリオリンピック日本強化選手には、安楽、楢崎明智、百合草のほか、ランクAに東京2020代表の楢﨑智亜、ランクBにはボルダー&リードの世界ランキング1位の緒方良行、リードジャパンカップで優勝した16歳の小俣史温(おまた・しおん)が選出されている。
これらの選手が中心となってワールドカップ・シリーズで好成績を残し、世界選手権そしてパリ2024オリンピックを目指すことになるだろう。
一方、2021年世界選手権のボルダーで優勝した藤井快はジャパンカップでの成績がふるわず、2023年の国際大会派遣選手として選ばれているのはボルダーのみ。つまり、リードのワールドカップ大会には派遣されず、成績を残すことができないことになる。藤井は自身のソーシャルメディアで「僕のパリオリンピックへの挑戦は終わってしまいました」とつづり、悔しさをにじませた。
女子ボルダー&リード複合の注目選手
ボルダー&リードで世界選手権の出場権を勝ち取ったのは、これまでのところ、森秋彩(あい)と松藤藍夢(あのん)。ともに19歳のふたりは、ボルダー&リードジャパンカップでそれぞれ1位、2位となり世界選手権の切符を手にした。
ユース時代から国際大会で成績を残してきた森は、新型コロナや進学の影響で昨年のワールドカップ大会には途中から参戦。3年ぶりのワールドカップの舞台を2022年9月にスロベニア・コペル大会(リード)で迎えた彼女は、地元が誇るオリンピック金メダリスト、ヤンヤ・ガンブレットをおさえて優勝。続く英エジンバラの大会でも同じことを成し遂げると、シーズン最後の大会となった盛岡でのボルダー&リードワールドカップでも優勝するなど圧倒的な力を見せつけている。
一方の松藤は、昨年ワールドカップのステージに初参戦し、表彰台の経験はまだないものの2022年11月のアジアカップで優勝。今年4月のジャパンカップで初めて表彰台に立った。これからの飛躍が注目される選手のひとりにあげられる。
2023年世界選手権、女子日本代表メンバー(2023年4月17日現在)
- 森秋彩(2003年生まれ)
- 松藤藍夢(2003年生まれ)
では、残りの3人は誰になるのか?
ボルダー&リード強化選手は、森と松藤のほか3人が選出されている。Aランクに伊藤ふたば、Bにオリンピック銀メダリストの野中生萌(みほう)、そして同じくBランクに小池はな。その中でも伊藤と野中は昨年のボルダーワールドカップ年間ランキングで上位に立ち、今年は昨年以上の成績を残すべく練習に励んでいることだろう。17歳の小池はなは、伊藤、野中とは反対にリードでの好成績が目立つ選手。昨年からワールドカップに出場するようになった小池は、経験を積み上げ大会での上位入賞を目指す。
最終的にオリンピックの舞台に日本代表として立てる選手は最大2人。そのステージに向けて、選手たちはボルダー、リードでの技を磨いていく。