一緒にいると力が出る。
ライバル同士が熾烈な戦いを繰り広げるスケートボード競技の世界とは、少し矛盾したことかもしれない。しかし、男子ストリートのスター、根附海龍(ねつけ・かいり)にとって、友情こそが彼の活躍の原動力となっている。
20歳のスケーター、根附はOlympics.comとのインタビューに応じ、オリンピック予選シリーズ上海での日本男子の戦いぶりを振り返った。パリ2024オリンピックの出場枠をかけた日本チーム内の争いは、6月20日からブダペストで開催されるオリンピック予選シリーズにおける注目の話題のひとつになっている。
各国内オリンピック委員会(NOC)は、スケートボード各種目で最大3枠までオリンピック出場枠を獲得できるが、現在、オリンピック予選ランキングのトップ15に6人の選手がランクされている日本はその層の厚さが群を抜いている。
その6人の中で5番目につけているのは、オリンピック王者の堀米雄斗(11位)。堀米の注目度は、東京2020オリンピックで金メダルを獲得した後に急上昇し、同時に日本選手間の激しい争いに関心が寄せられた。
6人の日本人スケーターの質がこれほど高いと、ライバルとの熾烈な戦いが話題になりやすいかもしれないが、実際にはその中心いる根附が感じていることとは異なるようだ。
「個人競技ですけど、日本のみんなが仲いいのは安心感があります。みんなで(一緒に)戦っている感があります」と根附はOlympics.comに語った。
「けっこういろいろ話したりします」とスケーター同士の交流について話を続けた。「1人だと絶対自分は決勝まで戦えていないと思います」と、根附は日本チームの一体感がもたらす力について明かした。
「みんな落ち着きがあって、とても集中力が高い」
根附にとってチームとのつながりは大きい。
現在オリンピック予選ランキング15位、日本選手の中で6位にランクされている東京2020代表の青木勇貴斗(ゆきと)は、静岡の小学校で根附と出会ってから10年来の友達である。
幼なじみの2人はスケートボードでつながった。最初、根附は青木がボードをフリップするのを見て驚いた。「自分が板を回せない時に勇貴斗が回しているのを見てすごいなと思った」と彼は懐かしく振り返った。
青木が東京2020で初登場となるスケートボードの男子代表に選ばれた時、根附は自宅から友達を応援していた。そして、自分自身がそこにいて戦うというはどういう感じかなのかと想像してみたという。
東京2020で日本は、スケートボード競技で男女合わせて5個のメダルを獲得し、その数は他のどの国よりも多かった。それ以来、日本の快進撃は止まらなくなった。
現在14歳の小野寺吟雲(ぎんう)は、13歳の時に2023年ストリート世界選手権で銅メダルに輝いた。小野寺は現在、オリンピック世界ランキングの1位にランクされている。
なぜこれほど日本がスケートボード界で圧倒的な力を発揮しているのかについて、根附はその冷静さに強みがあると話した。
「落ち着きがあるというか、みんなとても集中力が高く、冷静に点数を見て技を決められる。これは大きな強みだと思います」
スケートボードは「家族か彼女みたいな感じ」
根附と日本のスケーター仲間との深い絆が彼の成功の大きな要因のひとつであるように、彼とボードとの絆も大切な要素だ。
「人生の半分をスケボーと一緒に生きてきているので、ほぼ家族というか彼女みたいな 感じです」
ボードとの時間、学び、成長の産物が、世界のトップストリートスケーターのひとりとして根附が活躍する源泉にあることは明らかである。
2022年夏にローマから始まったスケートボード・ストリートのパリ2024オリンピック予選で、根附は初戦の23位から、わずか15か月後の第5戦、昨年12月の世界選手権で銀メダルを獲得するまでに飛躍を遂げた。そして、今年3月の第6戦、ワールドスケートボードツアー・ストリートドバイ大会では初優勝を飾った。
「意識は特にしてないです。自分の決めたことをがんばって、ミスしないようにできればと思っていつも滑っています」と、根附はいつもの心がけを説明した。
「スケボーは表現するものだと思うので、自分の得意な技とか、自分しかやらないような技を好きな場所でやるというのを意識しています」
「いつも通り、深く考え過ぎずやってます」と彼は話した。
ブダペストの最終予選を前にして、現在、根附はオリンピック予選ランキングで235,113ポイントを挙げ5位にランクしている。小野寺は彼より上位にいる唯一の日本選手で、男子ストリート世界王者の白井空良(そら)は根附のすぐ下の6位にいる。
OQSでは獲得できるポイントが大きいため、6月23日(日)に競技が終了するまで誰がパリの出場枠を獲得するのか現時点では明言できないが、ブダペストでの戦いがどのスケーターにとってもオリンピックをかけた大一番であることは間違いない。
根附のボードは、彼の未来に向けて共に滑走する。そして、根附はチームメイトとの絆を原動力に愛するボードを駆ってパリの舞台を目指す。