ラファエル・ナダル、現役最後の戦いへ テニス・デビスカップ「彼のキャリアは素晴らしい」

初めてデビスカップで母国に優勝をもたらしてから20年。長年第一線で活躍してきたラファエル・ナダルは、現役最後となるこの大会で再びスペインに勝利をもたらすべくコートに立つ。

1 執筆者 Nick McCarvel
Rafael Nadal won singles gold at Beijing 2008
(2008 Getty Images)

2022年のウィンブルドンの直前、テニスプレーヤーのラファエル・ナダル(スペイン)はそのシーズンの四大大会の最初の2つを制覇し、グランドスラムの優勝数を22に伸ばした。

テニス界のスーパースターであるナダルは、彼のキャリアにおいてさらなる高みに上り詰めていたが、ウィンブルドンの名高いセンターコートのすぐ隣の建物にある小さなインタビュー・スタジオに入ると、彼はビデオ制作クルーのメンバー全員に挨拶し、握手を交わした。

「ハロー」「お元気ですか?」「僕もまた会えて嬉しいです」

これは、スペインの国民的英雄であり、国際的なスポーツ選手の人柄が滲み出ている舞台裏のシーンだ。彼はインタビューやスポンサーとの打ち合わせ、あるいは少人数のファンとのやりとりなどにおいて、その場にいる全員に挨拶することを常に心がけている。

それは彼がテニス人生の初めの頃から行ってきたことだ。

デビスカップ・ファイナルズが行われる11月後半、この「ハロー」には「グッバイ」が伴うことになるだろう。オリンピックで2度金メダルを手にしたナダルは、テニスの大会に別れを告げる。その感動的な舞台となるのが、スペイン・マラガで開催されるテニスの国別対抗戦「デビスカップ・ファイナルズ」だ。ナダルは再びスペイン・カラーを身にまとい、現役最後の戦いに挑む。

「人生において、すべてのことには始まりがあり、終わりがある」。ナダルは10月、自身のソーシャルメディア・チャンネルにビデオを投稿し、引退について語った。「(自分のキャリアは)想像したよりもずっと長くて、はるかに成功したものとなりました」。

「1周したように思います」

この 「1周」というコメントは、ナダルが母国のためにプレーしたいという情熱にちなんだものだ。それは、ナダルがまだ四大大会で1勝をあげていなかった頃、まだ無名の18歳だった彼が、セビージャで開催されたデビスカップでスペインチームを率いてアメリカチームを倒し、テニス界のスーパースターとなったときに遡る。

「(あれは)プロテニスプレーヤーとして最初の大きな喜びのひとつだった」と彼は言う。

そして今、それは彼の最後の喜びのひとつとなる。

ラファエル・ナダル、カルロス・アルカラス、最後のダブルスへ

ナダルの偉大さを簡単にまとめるのが難しければ、彼のスペインのチームメイトであるカルロス・アルカラスを見るといいだろう。彼は、2004年にナダルが初めてデビスカップに出場したとき、まだ幼児だった。

「僕がテニスを始めたときから、彼は僕のアイドルでした」。ナダルが引退を発表した日にアルカラスはこう語り、「彼を尊敬しています。彼のおかげで、僕はプロテニスプレーヤーになりたいと思うようになりました。彼を失うことは、ある意味、僕らにとって難しいことです。だから、彼がプレーするときは、できるだけ楽しみたいと思います」。

ナダルとアルカラス(2人のことを追っている人にとっては「ナダルカラス=Nadalcaraz」の名前の方が馴染みがあるだろう)は、夢のような形でそれぞれのキャリアのひとときを共有した。ナダルが2022年に全仏オープンを制し、ローランギャロスでの通算14度目の(そして最終的には最後の)勝利を掴んだ3ヵ月後、19歳のアルカラスは全米オープンで初優勝を果たし、テニス界に衝撃を与えた。

2024年の夏、2人はパリオリンピックのダブルスでペアを組んでコートに立った。2勝を挙げたものの、準々決勝で敗れメダルには届かなかった。

過去3年間、ナダルは体を追い込んできた。この期間は本人も「困難な」時期だったことを認める。手術を要した股関節の怪我により、2023年の大半を長期休養にあてた。

今シーズン復帰して、トップレベルには届いていないものの、5月にマドリードで開催されたATPマスターズ1000では、世界ランキング11位(当時)のアレックス・デミノーを破るなど3勝を挙げ、ラウンド16まで勝ち進んだ。

それは、ナダルが常にスポーツ界に示してきたことを思い起こさせるものだった。気持ちを込めてプレーすることが、悪い決断であるはずがない。

ナダル、2つのオリンピック金メダルとテニス界での栄光

彼のキャリアの最終章では「ひょっとすると…」と期待させるシーンが何度かテニスファンを興奮させてきた。特に、ナダルが過去20年間、圧倒的な強さを示してきたローランギャロスでの瞬間だ。

今年の全仏オープンの1回戦で、ナダルが2020年東京オリンピック金メダリストのアレクサンダー・ズベレフと対戦することになったときには、どよめきが起こった。また、ナダルが同じくローランギャロスで実施されたパリオリンピックの2回戦で、長年のライバルであるノバク・ジョコビッチと対戦することになったときにも、同じような思いがあった。

マドリードで見せたような勢いのある走りをパリでも見せられたのではだろうか? しかし、ナダルは決して過去を振り返るような選手ではない。

「起こったことは起こったこと」。今となってはバイラルとなった2019年の映像がそれを示してくれる。彼がキャリアを通じて見てきたのは後ろではなく常に前なのである。

ともあれ、デビスカップが行われる期間はノスタルジアに包まれることだろう。今から20年ほど前の、あのセビージャでの勝利。2008年北京オリンピック男子シングルスでの金メダル。そして初めて世界ランキングの頂点に。さらにカルロス・モヤや マルク・ロペスとのパートナーシップ。かつてはチームメイト、ダブルスパートナーであり、現在はコーチ、そして親しい友人である。

(ナダルとロペスは2016年リオオリンピックのダブルスで金メダルを獲得している。ナダルはこの大会のシングルスで4位に入った)

「僕たちがまだ12歳か13歳だった頃から、彼のことを知っている」。引退したばかりのもうひとりのテニスプレーヤーで、オリンピックチャンピオンに2度輝いたアンディ・マレーは、ナダルについてOlympics.comにこう続ける。「彼が成し遂げたことは驚くべきことだ。そして、彼は(周囲の反応が変わろうとも)人間として昔からまったく変わっていない。彼の次にどこに向かうのかはわからないけど、彼のキャリアは素晴らしいよ」と称えた。

その言葉通り、ナダルは素晴らしいキャリアを築き上げてきたのだ。

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