「世界の頂点に立っている夢のような気分」陸上競技ゴールデンカップルの成功の秘密/パリ2024パラリンピック
ハンター・ウッドホール(アメリカ合衆国)が、パリ2024パラリンピックの陸上競技男子400m(T62)決勝で自身初の金メダルを獲得した瞬間は、会場となったスタッド・ド・フランスで涙ぐまなかった人はひとりもいなかったほど感動的なものだった。パラリンピアンのハンターは、その瞬間、彼の妻タラ・デイビス・ウッドホールがパリ2024オリンピックの女子走幅跳で金メダルを獲得した時と同じように、パートナーの腕の中に飛び込んだ。
ハンターは、今大会の混合4x100mユニバーサルリレーで獲得した銅メダルと、これまでの大会で獲得した銀メダル1個と銅メダル2個に、この輝かしい金メダルを新たに追加した。しかし、彼にとってこの勝利がなぜ特別だったのだろうか。
「ベイビー、君はオリンピックチャンピオンだ、君はオリンピックチャンピオンなんだ!」
これは、8月8日にタラが金メダルを獲得した時、ハンターがSNSに投稿し話題になった。そして9月6日の夜、今度はハンター自身が男子400m(T62)決勝を46秒36で駆け抜けて金メダルを獲得し、2人のコレクションに2個目となる金メダルを追加した。
25歳の2人は、高校時代の2017年、室内陸上競技トラック大会で出会った。陸上競技でキャリアを追求していた2人は、2022年10月に結婚した。そして、2人は一緒に夢を追いかけることを決意した。
「これは、夢の実現を目指し大きな目標をかなえるためのレッスンだと思っています。周りでは多くの人が、私たちはクレイジーだと言いました。しかし、毎日ひたすら練習に参加し、ベストを尽くし、そして今回、結果を出すことができました。大きな夢を持ち、無心で続けて、ベストを尽くすこと。どんなことが起こるか誰にもわからないのですから、今できることに全力を尽くすことが大切です」と、ハンターは話した。
パラ陸上競技に人生の大半を捧げてきたハンターにとって、勝利は珍しいことではない。しかし、今大会での金メダル獲得は特別なものだった。
「これは私にとって、初めての大きな選手権での初めての金メダルです。これ以上のものは望めません」と、ハンターは、彼のこれまでのパラリンピックへの献身と自己肯定の結果として振り返った。これらは、彼のキャリアにとって重要な要素であり、妻タラによってもたらされたものだ。
「私は、自分にはできると信じていました。タラは、私に多くのことを教えてくれましたが、その中でも大きなものは自己肯定と日記の力です。オリンピックの前に、彼女は日記に『私はオリンピックチャンピオンになる。私は強くて速い』と書いていました」
トップレベルのアスリートであることの精神面でのチャレンジは、ハンターとタラのインスタグラムでも強調されていた。最近の投稿では、2人は挫折や困難を乗り越えるために心に刻んだ数々の言葉を挙げていた。
ハンターにとって重要なことは、妻のポジティブな姿勢を学ぶことだった。
「私は日記を持ってきて、ここ数日間、『私はパラリンピックチャンピオンになる』と書いていました。そして今、それが現実になり、かなり驚いています」と彼は言った。
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タラは、約ひと月前にハンターとスタッド・ド・フランスのトラックで金メダル獲得を祝ったばかりだ。その次に、今度はハンターが注目された。2人にとって2個目となる金メダルを期待されるのはどんな心境だっただろうか。
「高いパフォーマンスを求められることには、いつもプレッシャーがあります。これは陸上競技の本質なのですが、何が起こるかわからない状況では、胸が押しつぶされそうになりますし、精神的にとてもタフです。でも、私は、応援してくれるみんなによいところを見せたかったのです。パラリンピックにどれだけ多くの人が注目しているかを知っていましたから」と、ハンターは明かした。
「これはパラリンピック自体の発展を示すものであり、今ではとても多くの人々が注目しています。私は、パラリンピックが何であるか、私たちに何ができるかを証明して見せたかったのです。そして、その反響は素晴らしく、観客も素晴らしかった。本当に感謝しています」
人生を捧げた競技で世界中の人々に見守られることは、最高の気持ちだろう。
しかし、ハンターにとって、よい時も悪い時も、彼を本当に理解してくれる人々と、これらの瞬間を共有することが最も重要だ。
「それが全てです。陸上競技は謙虚なスポーツであり、多くの時間は孤独なものです。トラックにいる時はひとりですが、素晴らしいコミュニティに支えられています。もちろんタラもいます。毎日一緒にトレーニングし、一緒に食事をし、一緒に休みも取りますが、それに加えて素晴らしいチームが支えです」と、ハンターは続けた。
医師、コーチ、チームメイト、家族、友人らからなるチームへの感謝を込めて、ハンターは彼らに勝利を捧げた。
「彼らが私の生活を支えてくれています。彼らこそがこの瞬間を価値あるものにし、夢を実現させてくれたのです。ひとりでは難しいものです。不可能なことかもしれません。私は、最高の人々にいつも地元で支えられています。そして、金メダルは私の人生の中に存在するすべての人のためのものです」と彼は言った。
ハンターが「素晴らしいチーム」と呼ぶ重要な要素は、チームメイトのノアとトラビスの存在だ。コーチとともに、彼らが成功をもたらした重要な部分であるとハンターは強調した。
「彼らは今大会を通して、いつも私に話しかけてくれました。何度も何度も繰り返し話ました。私は、自分のレースにどうやって勝つのか日記に記し、それがまさにその通りになったのです」
もちろん、高いレベルで競技する際には、計画的、戦略的な要素も考慮する必要がある。
「今大会で私たちが実行した戦略は、『気軽に行く』ということでした。スタート後はできるだけ楽に走ることに徹するのです。なぜなら、勝負は最後の100mにかかってくることがわかっていたからです。バックストレッチでヨハネス(世界記録保持者のドイツ、ヨハネス・フロールス)に少し離されるのを感じましたが、事前にコーチとそのことについて話していました。彼は『計画に従って、300mラインに到達したら、そこからの100mでは君が誰よりも速い』と言ってくれました。それが私たちの計画でした。そして最後の100m、ホームストレッチで、誰がいちばん金メダルを欲しているかを試す瞬間がやってきました。私はこの勝利を渇望していました。300mで全員が横並びになった時、私は最後の力を振り絞り、勝利を確信しました」
ハンターはこれまでのキャリアの中で最も困難だった時を振り返り、特に妻タラに感謝の意を込めた。
東京大会での敗北について、「接戦にもならなかった」と3位に終わったレースを教訓にこれまで取り組んできたと彼は明かした。
「大きな目標を持ち、それを期待している時に、失敗してしまうことほどきついものはありません。東京での結果は多くのことを教えてくれました。その夜は辛くて悲しかったですが、私たちはそれを乗り越えました。タラは私にたくさんのポジティブな言葉をかけてくれ、その教訓を今大会に役立てました。負けても人生は続きます。だから大丈夫だと」
偶然にも、ハンターの最近の敗北は、その1年後に金メダルを獲得することになる同じ町で起こっていた。
「1年前のパリでの世界選手権で、私は脚を故障で走ることができませんでした。その瞬間から、タラは私を見て『変化を起こし、これを変えていかないといけない』と言いました。私たちはそれを実行しました。犠牲を払い、変化を起こし、毎日集中して取り組んできました。そして、二度と同じことが起こらないように」
タラは、ハンターの最大のサポーターであり、彼らの成功において不可欠なポジティブな思考をもたらした「儀式」について絶賛した。
「私たちは2人で、今年の目標に『パラリンピックの金メダルとオリンピックの金メダル』と書き、それ以来ずっと努力を続けてきました。正直言って、私たちの人生にとって最もクレイジーな道のりでした。今では毎日それを見て楽しむことができますよ」と、タラは微笑んだ。
「彼女は本当に謙虚でした。彼女はオリンピックで金メダルを獲得しましたが、それを本当に喜ぶのを今日まで待っていてくれました。タラに感謝しています」と、金メダルを獲得したハンターはつけ加えた。
ゴールデンカップルにとって、次の数週間こそ間違いなく祝福の時となるだろう。そして、生活が日常に戻った時、彼らが最初に行うことは、2人でそろって獲得した勝利のメダルを家に飾ることになるに違いない。
「私たちは、間違いなく、私たちのメインテーマを『ゴールド』に変更しなければなりません」