陸上強豪国アメリカの聖地で開催される世界陸上競技選手権大会|新たなスタートを切る「チームジャパン」に注目

世界陸上競技選手権大会が、アメリカ合衆国オレゴン州にて現地時間7月15日に開幕する。Tokyo 2020でも活躍した、男子走幅跳の橋岡優輝と女子やり投の北口榛花が主将を務める「チームジャパン」は、総勢68名で構成。オリンピックメダリストの池田向希と山西利和、成長著しい田中希実や一山麻緒など、パリ2024に向けて重要な大会となるオレゴン2022の注目選手を一気に紹介しよう!

文: 児玉育美
写真: 2022 Getty Images

自国開催となったTokyo 2020を終え、陸上競技では最初の世界大会となる「オレゴン2022世界陸上競技選手権大会(オレゴン2022)」が、7月15日~24日、アメリカ合衆国オレゴン州において開催される。

日本代表選手は今回、男子41名・女子27名の計68名。2007年の大阪大会(81名)に次いで2番目、国外派遣では最大規模の代表選手団となった。このうち半数を超える46名が初出場と、がらりと顔ぶれが変わったように見える一方で、4回目や5回目の出場者、メダル獲得経験者も顔を揃える多様な布陣であることが特徴だ。

パリ2024に向け、新たなオリンピックサイクルをスタートさせる「チームジャパン」は、陸上強豪国アメリカにおいて「聖地」と称される「ヘイワード・フィールド」で、どんな戦いを見せてくれるのか。ここでは、日本代表選手に焦点を絞って、見どころや注目選手を紹介していこう。

◆日本のメダル最有力は競歩

前回のドーハ大会(2019年)で2つの金メダル(男子20km、50km)獲得と3つの入賞(男子20km5位、女子20km6・7位)を果たした男女競歩は、今大会においても日本選手団で最も活躍が期待される種目といえるだろう。まず、大会初日の7月15日に実施される男女20kmから、大きな打ち上げ花火が上がる可能性は非常に高い。

男子20kmには、山西利和が前回優勝によるワイルドカードで出場するほか、前回世界陸上では6位ながら、昨年のTokyo 2020陸上競技で日本人最高成績となる銀メダルを獲得した池田向希、今回が4回目の出場となる高橋英輝、躍進著しい学生の住所大翔の4選手がエントリー。Tokyo 2020(池田が銀、山西が銅)、3月の世界チーム競歩選手権(山西が金、池田が銀)と同様に、日本勢がリードして、メダル争いを繰り広げる展開が予測されるのだ。

同日に行われる女子20kmにも、ドーハ大会でダブル入賞を果たしている岡田久美子(6位)と藤井菜々子(7位)が出場。順位をさらに引き上げての2大会連続入賞を虎視眈々と狙っている。とくに藤井は、3月の世界競歩チーム選手権で日本人女子過去最高順位の5位入賞を果たすなど、上り調子にある。

また、男子は従来の50kmから種目が変更されて、今大会から実施される35kmでも、大旋風を巻き起こすことのできる実力者が揃った。出場者によるトップリストでは、昨年のTokyo 2020の50kmで6位、3月の世界チーム競歩選手権35kmで4位の成績を残している川野将虎、リオ2016の20kmで7位入賞の実績を持つ松永大介、前回のドーハ大会50kmに次ぐ出場となる野田明宏の日本代表3選手が、1~3位を占めているのだ。

男子35kmは大会最終日の7月24日の早朝にスタート。そう簡単にはいかないものであることは承知しているものの、オレゴン2022代表選考会となった日本選手権35km競歩で、それぞれの持ち味が引き出されたなかで、火花を散らし合った3選手の戦いぶりを思い起こすと、つい「表彰台独占」を期待してしまう。大会8日目の7月22日に行われる女子35kmには、今シーズン躍進著しい園田世玲奈が初めての代表入り。エントリーリストでは4番手に位置しており、入賞を狙える位置にいる。

◆800m、1500m、5000m…田中希実が3種目に「チャレンジ」

今大会、日本選手団は「Challenge」をテーマに掲げているが、その言葉をすでに体現し続けているのが田中希実だ。昨年のTokyo 2020では1500mと5000mに出場し、1500mで日本人女子初の4分切りを果たすとともに、8位入賞を達成している。さらに今季は400mから10000mまでの種目レースに出場するなかで、地力をさらにアップ。1500mと5000mに加えて、なんと800mでも世界選手権の出場権を獲得したのだ。

「結果」だけを求めるのであれば、1500mに可能性があると思われるが、自身のキャリアを長い視点で捉えているのが田中のすごいところ。日本では前例のない取り組みに挑み続けている彼女が、オレゴン2022でどんな戦略を選び、どこまで実現することができるのか、その挑戦を見守りたい。ちなみに、3種目の日程は、15日に1500m予選、16日に同準決勝、18日に同決勝、20日に5000m予選、21日に800m予選、22日に同準決勝、23日に5000m決勝、24日に800m決勝という、“超絶”ハードスケジュールだ。

中・長距離では、男子3000m障害物に出場する三浦龍司の走りにも注目したい。Tokyo 2020予選では、8分09秒92という日本新記録タイムをマークして決勝進出を果たし、アフリカ勢が圧倒的な強さをみせるこの種目で7位入賞を達成した。今季は1500mや5000mでも好記録や好走を連発している。オレゴン2022でも、見る者をワクワクさせる走りを見せてくれそうだ。このほか、Tokyo 2020に続いて5000mと10000mの2種目に出場する廣中璃梨佳にも注目だ。廣中は、東京オリンピック5000m決勝で日本新を樹立(9位)し、10000mで7位入賞を果たしている。これらの記録を超える活躍に期待がかかる。

男女マラソンにも注目だ。男子では2時間04分56秒の日本記録を持っている鈴木健吾が世界陸上へ初出場。エントリー選手のシーズンベストによるリストでは、8番手(2時間05分28秒)につけており、2013年モスクワ大会の中本健太郎(5位)以来となる入賞が可能な位置にいる。

女子マラソンもTokyo 2020 で8位入賞の一山麻緒のほか、10000m日本記録保持者で世界選手権には長距離種目で3回の出場歴を持つ新谷仁美、10000mで世界選手権(2017年ロンドン大会)出場経験をもち、マラソンでも実績のある松田瑞生という、スピードのある3選手がエントリー。全員揃って入賞争いを繰り広げるような走りを見せてくれそうだ。なお、鈴木と一山(競技は旧姓で登録)は昨秋に結婚したばかり。今回は夫婦揃っての世界陸上となることでも注目を集めている。

◆新たな選手が加わり、層の厚みが増す男子短距離陣

男子短距離は桐生祥秀や山縣亮太といった、長くトップシーンを牽引してきた選手がオレゴン2022に出場しないことで、がらりとメンバーが変わったような印象を受ける。実際に新しい顔ぶれも加わっているのだが、エースとして活躍してきた者、世界リレーなどで結果を残してきている者も多く、フレッシュさはありながらも、実力のあるチーム構成となっている。

男子100mでは、世界選手権と相性のいいサニブラウン アブデルハキームが出場。腰部のヘルニアにより昨年のTokyo 2020での活躍はならなかったが、今季は100mできっちりと出場権を獲得した。世界選手権では2017年ロンドン大会の200mで史上最年少ファイナリストとなり7位入賞を達成。今大会では、100mで日本記録の奪還(2019年に9秒97の日本記録を樹立したが、昨年、山縣亮太が9秒95をマークしてこれを塗り替えた)も見据えつつ、日本人初の決勝進出を目指す。

サニブラウンをエースとして2走に据える計画を立てている男子4×100mリレーも、決勝で上位争いできる力を十分に備えている。今季、10秒02まで記録を伸ばし、100mでの出場も果たした坂井隆一郎は、昨年のシレジア世界リレー(3位)でも1走を務めている選手。200m代表となった新鋭の上山紘輝が3走に入った場合は、100mで9秒98の自己記録をもち、今回は200mで出場する小池祐貴がアンカーを務めることになりそうだ。さらに、躍進著しい栁田大輝も控えており、これらのメンバーが好走すれば、日本は一段と層に厚みを増した状態で、パリ2024を迎えることが可能となる。

◆注目の男子4×400mリレーとスプリントハードル

このところ、ショートスプリントばかりに焦点が集まっていたが、オレゴン2022ではロングスプリントにも注目したい。佐藤風雅、川端魁人、ウォルシュジュリアンと、3選手が400mでの出場権を獲得。1国(地域)で3名が上限の個人種目でフルエントリーを果たすのは、世界選手権では2001年のエドモントン大会以来、オリンピックを含めてもアテネ2004以来となる。

個人のレベルが上がってきたことで、昨年のTokyo 2020で日本タイ記録(3分00秒76)をマークしながら予選突破が叶わなかった4×400mリレーでの活躍も見えてきた。目標はずばり、「2分台に突入しての日本新記録」と「決勝で戦うこと」。男子4×400mリレーは、最終日(7月24日)の最後から2番目の決勝種目となっている。実現すれば、私たちは大会の最後まで、チームジャパンの活躍を堪能することができるだろう。

高いレベルでの競り合いが続いている男女スプリントハードルも見逃せない。エースといえるのは、昨年、13秒06の日本記録を叩き出した男子110mハードルの泉谷駿介。準決勝でこの日本記録を更新してくるようだと、この種目で日本人初となるファイナル進出がより現実味を帯びてくる。パリ2024を見据え、今後、ダイヤモンドリーグなどで戦っていくことを考えるのなら、社会人1年目の今シーズンに、その快挙を果たしておきたいところだろう。

また、この泉谷に追いつき追い越せと急成長を遂げてきているのが、泉谷の順天堂大学での後輩に当たる村竹ラシッドだ。初めてとなる世界選手権で、あっと驚かせる走りをみせてくれるかもしれない。

女子100mハードルには今季12秒86をマークして、寺田明日香と2人で保持ししていた日本記録(12秒87)を単独のものにした青木益未と、6月末に12秒台突入を果たした福部真子(12秒93)の2名がワールドランキングにより出場を果たした。パリ2024での活躍に繋げるためにも、予選から日本記録あるいは自己記録を更新していくような活躍を見せたい。

◆フィールド種目は走幅跳の橋岡優輝、やり投の北口榛花、2人の主将に注目

今大会の日本選手団の主将には、男子は走幅跳の橋岡優輝が、女子はやり投の北口榛花が任命された。ともにサニブラウンらと同様に日本陸上競技連盟が行っているエリート教育の対象である「ダイヤモンドアスリート」の修了生。北口は2014年世界ユース選手権で、橋岡は2018年U20世界選手権で、それぞれ金メダルを獲得するなど、早い段階から年代別の世界大会で活躍してきたが、すっかり日本のエースといえる存在に成長した。

橋岡は2019年ドーハ大会で決勝進出を果たして8位、Tokyo 2020は6位入賞の実績を残した。今大会に関して、「最大限の力を発揮して、これまで以上の成績を」とコメントしているが、自己記録(8m36)を更新するようなジャンプを決勝でマークすることができれば、その言葉通りの結果が、ぐんと近づいてくるだろう。走幅跳は大会1日目(7月15日)に予選、2日目(7月16日)に決勝というタイムテーブル。好成績をあげて、チームジャパンを一気に上昇機運に乗せていきたい。

北口も前回のドーハ大会、そして昨年のTokyo 2020に続く日本代表となるが、ドーハ大会では、わずか6cm差で決勝進出を逃した。また、Tokyo 2020では全体6番手で予選突破を果たしたものの、その予選で左脇腹を痛め、決勝進出者の中で無念の最下位という結果に終わっている。

しかし、ケガを完治した今季は、自己記録(66m00=日本記録)の更新はまだだが、春先から高いレベルで安定した力を発揮。6月18日には、ダイヤモンドリーグのパリ大会に初参戦して、63m13をマークし、並みいるオリンピックメダリストらを押さえ、日本人初の優勝という快挙を成し遂げた。今季のシーズンベスト(63m93)は出場選手中5番手に位置する記録だ。

前回のドーハ大会、そして東京オリンピックの悔しさを、一気に晴らすような快投が飛び出すか。北口といえば、高い集中力で試技に臨む一方で、その合間に見せる天真爛漫な仕草や笑顔が素晴らしく、見ている者を幸せな気持ちにしてくれる選手。ヘイワード・フィールドでも朗らかな笑い声を轟かせて、世界中のファンを魅了してほしい。

オレゴン2022世界陸上競技選手権大会は、アメリカ現地時間7月15日に開幕する。

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