パリ2024オリンピックで正式種目に初めて採用されるブレイキン。その初代チャンピオンを目指すために、総勢80人のブレイカーが出場枠をかけた最後の戦いとなる「オリンピック予選シリーズ」(OQS)第2戦ブダペストに参戦。大会最終日となる6月23日、予選~決勝までの熱いダンスバトルが繰り広げられた。
世界ランキングで上位に位置する日本勢は、パリ大会男子最大1枠、女子最大2枠をかけ、BボーイにISSIN(菱川一心)とHiro10(大能寛飛・ひろと)、BガールにAyumi(福島あゆみ)、Ami(湯浅亜実)、Riko(津波古梨心)が出場。上海大会同様予選ラウンドロビンからステージで圧倒したTEAM JAPANは全員が準々決勝に駒を進めた。
Bガールは、5月のOQS上海大会に続き2大会連続で表彰台を独占。1対1のダンスバトルでそれぞれの独創的なムーブを存分に発揮し、Ami(湯浅亜実)が1位、Ayumi(福島あゆみ)が2位、Riko(津波古梨心)が3位を獲得。ジャッジと観客を魅了し会場を沸かせた。各国最大2枠となるパリの切符は、2大会で1‐2位に入ったAyumiとAmiが獲得。日本人初となるブレイキンのオリンピック代表の座を手に入れた(※)。17歳のRikoは3位に食い込んだが、上位2名の強力な壁を打ち破ることはできなかった。
Bボーイでは、上海大会を3位で終え、アドバンテージを作ってブダペストに挑んだHiro10が、上海大会を制したLee(オランダ)に準々決勝で1-2で敗れ、一足先にステージを降りる展開に。ISSINはGravity(アメリカ合衆国)とのバトルを3-0で制し準決勝へ進出するも、Amir(カザフスタン)に1‐2で敗れ、3位決定戦へ。上海大会の3位決定戦でHiro10と対決したHongten(大韓民国)と、今度はISSINがブダペストで対決し、接戦の末2‐1で敗れ4位となった。
「どっちが行っても恨みっこなし」と互いに話し、OQS2戦目に挑んだ親友でありライバルのHiro10とISSINのパリ出場をかけた熱いバトルは、Hiro10に軍配が上がり幕を閉じた(※)。
個性あふれるブレイカーたちのオリンピックバトルは、8月9日にBガール、8月10日にBボーイの競技がパリのコンコルド広場を舞台に開催される。
※オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。各競技の出場資格に関する公式資料はこちら。
Amiパリ2024への選考を終えて「ほっとして嬉しい」
「運だなって思っていました」。前回のOQS上海大会と同じく、準決勝でRikoとの日本人対決を制し、決勝へ進出。今回はそこで優勝を勝ち取ったAmiは、Olympics.comのインタビューにこう答えた。
「自分はやるべきことを全部出し切って、たぶんRikoちゃんもそれは同じ。ただ、ここで勝てるか負けるかは音楽と会場の雰囲気と、そのとき自分がベストを出せるかと運次第だなっと思ってたので、自分を信じて頑張ろうと思いました」と振り返った。準決勝の後涙した理由について尋ねると、「ほっとして嬉しいプラス、やっぱりここまで頑張ってきてRikoちゃんも今回表彰台乗ってるし、なんかむなしい気持ちもあって…。他の国だったらRikoちゃんも(パリに)行ける位置にいるし、日本人じゃなかったら3人全員行けるのに…。日本人でBガールであることを誇りに思う一方、なんかすごい不平等だなと思ってしまう、いろんな思いがあって、セミファイナルのあとは泣いてしまいました」と複雑な想いを口にした。
それでも「今回は最後のオリンピック予選になるし、勝ちたいという気持ちが強かった」と語るAmiは、オリンピック本番を前にブダペスト大会を優勝で締めくくり、良い弾みをつけることができたことに、喜びをかみしめた。
Ayumi「自分をほめてあげたいなと思います」
6月22日に41歳の誕生日を迎え、パリ2024の切符という最高のプレゼントを自分に贈ることができたAyumiは、「ダメなところもいっぱいあったんですけど、最後決勝の舞台に立てて、ここまで来れて良かったなって思います」と今大会を振り返った。「すごい長かった。オリンピック予選大会に出て数年やってきて、今日(OQS最終戦)があったので、一区切りというか。ここまで来れて、とりあえず今日は自分をほめてあげたいなと思います」と続けた。長年にわたり日本のブレイキンシーンをリードしてきたAyumiとAmi。「いつもあげ合って(高め合いながら)一緒にできている環境が本当にありがたい」。決勝バトルの結果が発表された後、互いを称え合ってハグを交わし笑顔で喜び合った二人の間には、募る想いがあったに違いない。
上海大会で右首を負傷し、ヘルニアの症状が出てしまったことで、今大会出発2週間前まで練習ができなかったというAyumiだが、「また帰ったらちゃんとケアして練習に臨もうと思います」とパリに向けて意気込みを語った。
Hiro10「僕のパリの金メダルの道はまだ終わりじゃない」
Hiro10とISSINのパリ出場1枠をかけた肉薄した戦いは、最後まで予想できないシナリオとなった。上海で3位のHiro10がISSINに8点をリードして挑んだブダペスト。勢いに乗ったHiro10の準々決勝敗退に、誰もが驚きを隠せなかった。「負けたとき本当に泣いたし、めちゃくちゃ悲しくて。今までやってきたこととか、応援してくれてる人とかの気持ちとか考えてめちゃくちゃ泣いて、でもその悲し泣きが20分後くらいに嬉し泣きに代わって」と、ジェットコースターのように変動した心の内を明かした。ISSINが決勝に進み2位に入れば大逆転となる中、準決勝で敗れたことで、Hiro10のパリ出場枠が決まったのだ。
「(ISSINとは)ブレイキンで一番仲良い友達で。Shigekixくん(半井重幸)がもう決まってるから、僕かISSINしか行けないんですけど…」。これまで切磋琢磨してきた仲間の勝負の行方を会場で見ていたHiro10は、複雑な思いを抱きながらも「ずっと今までチャレンジャーとしてやってきて、努力が報われたなって思ってすごい嬉しかったです」と、語った。
オリンピック出場を目指し挑んできたこの1年を「一瞬でした。5月からはじめて、ここまで這い上がってきて、最終的にパリまで決めれて」と振り返り、「でもまだ僕のパリの金メダルの道は終わりじゃないんで。一カ月しかないんですけど、一カ月もあるんです。まだまだいけると思います。思いっきりやりたいですね、ISSINの気持ちも(背負って)。パリの舞台で全力で踊って金メダル絶対取ります」と力強く口にした。
ISSIN「自分のベストは出し切ったので、気持ちはすっきりしてます」
「自分を追い込みすぎた」という上海大会での8位の結果が響き、パリへあと一歩及ばなかったISSINは、「このプロセス、昨日今日がめちゃくちゃ楽しかったです。結局勝ちたいっていう気持ちはあるんですけど、僕の今回の目当てっていうか、誰よりもぶちかまして爆発する。そういう部分はできた。オリンピックの舞台でそれを出したかったっていうのはあるんですけど、自分のベストは出し切ったので、気持ちはすっきりしてます」と、OQSを振り返った。
オリンピックには「できるなら出たかった」と語りつつも、「ここで終わりじゃなくて、この後の自分の行動が大事だと思うんで。どうやったらブレイキンを盛り上げていくか。オリンピックに出ている人たちよりもぶちかましてやろうかなと思います。オリンピックに出てる人たちに負けない、出てるBボーイよりも目立って、いろんなバトルだったりいろんなチャレンジだったりどんどんやっていきたい」と、彼はすでに次のステップを見据えていた。
パリの切符を掴んだShigekixとHiro10には「行くからには、表彰台上ってくれよー!って。応援してるぞ!って感じです」とエールを送った。
オリンピック予選シリーズ・ブダペスト大会結果
Bガール準々決勝
- Ying Zi(中華人民共和国)vs Ayumi(日本)0-3
- Syssy(フランス)vs Logistx(アメリカ合衆国)2-1
- Anti(イタリア)vs Ami(日本)0-3
- Kate(ウクライナ)vs Riko(日本)0-3
Bガール準決勝
- Ayumi(日本)vs Syssy(フランス)2-1
- Ami(日本)vs Riko(日本)3-0
Bガール3位決定戦
- Syssy(フランス)vs Riko(日本)1-2
Bガール決勝
- Ayumi(日本)vs Ami(日本)1-2
Bボーイ準々決勝
- Amir(カザフスタン)vs Jeffro(アメリカ合衆国)2-1
- Gravity(アメリカ合衆国)vs ISSIN(日本)0-3
- Lee(オランダ)vs Hiro10(日本)2-1
- Menno(オランダ)vs Hongten(大韓民国)1‐2
Bボーイ準決勝
- Amir(カザフスタン)vs ISSIN(日本)2-1
- Lee(オランダ)vs Hongten(大韓民国)3-0
Bボーイ3位決定戦
- ISSIN(日本)vs Hongten(大韓民国)1-2
Bボーイ決勝
- Amir(カザフスタン)vs Lee(オランダ)1-2
オリンピック予選シリーズ・ブダペストのライブ配信情報
オリンピック予選シリーズ(OQS)第2戦ブダペストの戦いの模様はOlympics.comのオリンピックチャンネル、公式アプリでライブ配信だけでなく、リプレイやハイライトを楽しむことができる。詳しくはこちら。
オリンピック予選シリーズのブレイキン競技
オリンピック予選シリーズ(OQS)とは、ブレイキン、スケートボード(ストリート、パーク)、BMXフリースタイル(パーク)、スポーツクライミングのオリンピック最終予選となる大会シリーズで、4競技のアスリートたちが一堂に会し、パリ2024オリンピック出場を目指して5月16日〜19日に上海、6月20日〜23日にブダペストで戦いを繰り広げる。
パリ2024のブレイキン競技において1ヶ国が得られるオリンピック出場枠は男女各最大2枠で、日本勢はBボーイのShigekix(半井重幸=なからい・しげゆき)がすでに出場枠を獲得(※)。TEAM JAPANは、2部構成で開催されるオリンピック予選シリーズを通じて、日本男子最大1枠、女子最大2枠を狙っている。前回の上海大会と、今回のブダペスト大会のポイント結果を加えた得点が最終結果となり、男女上位各7選手がパリ2024への切符を掴む。
オリンピック予選シリーズ上海大会、ブダペスト大会のブレイキン競技では、それぞれの大会の結果に応じてポイントが与えられ、その合計点の上位7人がオリンピック出場枠を確保できる(※)。各大会で得られるポイントは1位が50ポイント、2位が45ポイント、3位が41ポイント、4位が38ポイント、5位が36ポイントで、6位以降は1ポイントずつ減っていき、最下位の40位は1ポイントを得る。