オリンピック選手が語る「メンタルヘルス」心の健康とは

オリンピックチャンピオンのミカエラ・シフリン、ケンダル・コインから、今回初めてオリンピックに出場する鍵山優真、ドミトリー・コズロフスキーまで、冬のエリートアスリートたちにメンタルヘルスとの関係について聞いた。

文: ZK Goh
写真: USA TODAY Sports / Olympic Channel / Getty Images (composite)

スポーツ界のメンタルヘルスに関する議論は、かつてないほど活発になっている。

2021年には、テニス大坂なおみ体操シモーン・バイルスが自らの苦悩を率直に語ったことで、この話題が世間に広く知られるようになった。

この話題は、パンデミックの間に注目を集めた。アスリートたちは、長い間、精神的な問題を隠したまま最高レベルのパフォーマンスをすることに慣れていたが、ようやくこの話題がオープンになったことを喜んでいる。

中華人民共和国の首都で開催される北京2022 冬季オリンピック大会を前に、世界最高のウィンターアスリートたちにとってメンタルヘルスの話題がどのような意味を持つのかを聞いてみた。

アスリート「私たちは機械ではない」

アルペンスキーミカエラ・シフリン(アメリカ)とペトラ・ブルホバ(スロバキア)は、冬季スポーツのアスリートだが、開催が昨年に延期された2021年の東京2020オリンピック前に、バイルズにかかるプレッシャーについて言及した。

空中で技をする時に、精神的な要因で、思っているように体を動かせなくなる “ツイスティ” に悩まされたバイルスは、5回の決勝戦のうち4回を棄権した。

シフリンは言う。「歴史上、世界のアスリートの中で、彼女ほど確実な勝利を期待された人はいないでしょう。周りは簡単に勝つと思っている」

「でも彼女にとっては、私も同じ立場を経験していますが、勝つことは決して簡単ではないのです。彼女がしていることは容易いものではありません。周りの想像を超える大変なことを成し遂げているのです。そして、それを期待されている立場にいるということは、さらに難しい」

「人は、たとえ自分が同じ立場、もしくは似たような立場を経験していたとしても、理解できないことについてはすぐに判断し、意見を述べるものです」

ブルホバは「みんな、彼女が一番で、勝つのが当たり前のように思っていました。でも、そんな風にはいかないんです。彼女は機械ではありませんからね。彼女は人間です。女性です。だから、時には失敗して当然なのです」と語る。

「私たちは、普通の人と同じです。私たちには才能があるかもしれません。ただ、勝ち方を知っているとはいえ、私たちだって人間で、機械ではありません」

カナダのアイスダンサーポール・ポワリエも、オリンピック選手やトップアスリートは常にベストでなければならないという考えが有害であると同意する。

「アスリートである以上、それは自分自身に課せられたものであり、私たちが背負っているものなのです」

「スポーツ界には、"自分だけは常にもっとできる"、"常に自分を追い込むことができる "と考えてしまう傾向のようなものがあります」

「特にスポーツの世界では、一歩下がって、大変な想いをしているとか、傷ついているとか、助けが必要だとかを周りに発言することは、難しい面があると思います。私たちはそういうことを考えないようにすることが身についているからです。」

「私たちは信じられないようなことを成し遂げようとしていますが、同時に人間でもあります。身体を使う仕事である性質上、心と身体を分けて考えるのは難しい時もあります」

心の健康も身体の健康の一部分

アスリートが競技で最高のパフォーマンスを発揮するには体調を万全に整えておく必要があるように、メンタルヘルスについても考えるアスリートが増えてきている。

アイスホッケーのオリンピック金メダリストで、アメリカ女子チームのキャプテンを務めるケンダル・コイン・スコフィールドは、この考え方をもっと多くの人に知ってもらいたいと言う。

「アスリートの身体的な健康は、目に見える形で語られることが多いと思います。ウェイトルームでウェイトリフティングをしている人を見たり、シュートを打っている人を見て、そのシュートがどれだけ難しいかは見ればわかる。そのため、アスリートの肉体的な強さの方が話題になることが多いと思います」

「しかし、アスリートの精神的な強さも同様に重要です。最高のレベルで戦いたいのであれば、肉体的な強さと同じくらい精神的な強さも必要なのです」

「我々選手たちは、試合での精神的な側面を真剣に考えています。そして、身体的な強さと同じくらい重要なのが、精神的な強さであることを知っています」

ROCのペアフィギュアスケーター、ドミトリー・コズロフスキーも同じ考えを持っている。

「それは、スポーツの重要な要素のひとつでしょう」と彼は言う。

「私たちは、ものすごく才能のあるアスリートや、本当に優れたアスリートが、精神的、心理的な障壁を克服できないケースを多く目にしてきました。行き詰ってしまうんです」

「アスリートは、肉体的なトレーニングに加えて、精神的なリハビリや回復にも取り組まなければなりません。私たちの精神は消耗しがちなのです」

北京2022で4回目のオリンピックに出場するスペインのスケルトン選手、アンデル・ミランベルも同様の意見を述べている。

メンタルヘルスがスポーツの世界ではタブー視されているのかという質問に対して、彼は「心は身体と同じくらい大切だということを、社会はまだ理解していないと思います」と答えた。

「アスリートであれば、ジャンプやランニング、有酸素運動など、身体を鍛えることができます。しかし、精神的にも同じように鍛えなければなりません。つまり、心理学者やセラピストに相談するのです。頭の中が尋常ではないスピードで動いていますから、ハイパフォーマンスには欠かせないことだと思います」

「アスリートはスーパーヒーローではありません。私たちも多くの問題を抱えており、パフォーマンスを向上させるためだけでなく、頭をクリアにして(スポーツをするための)準備をするために、何度も専門家に相談するのです」

メンタルヘルス:アスリートを含むすべての人にとっての課題

メンタルヘルスの問題に対処することは、誰にとっても簡単なことではない。そして、アスリートたちも同じことを経験していることを知ってもらいたい。

「メンタル面、つまり感情に関わることは、自ら進んで避けることはできません」と、シフリンは指摘する。

「でも、どこに心を向けているか、何に注意を向けているか。自分にとって重要だと判断したことには対処できます」。

また、ポワリエのアイスダンスパートナーであるパイパー・ギレスは、「私にとってメンタルヘルスは継続的な課題です」と言う。

「悪いことや改善しなければならないことばかりに気を取られて、自分にできることを振り返らないことがあります。これは一生続く課題です」

「私は、自分が最高な時、それから最低な時こそ、自分を中庸の状態に戻す方法を学ぶことが最も重要だと思います」

メンタルヘルスの回復のために休息をとり、ポジティブに考える

ローザンヌ2020冬季ユースオリンピックの男子フィギュアスケートで優勝した日本の鍵山優真は、メンタルヘルスの回復のために、競技中の緊張や気分の落ち込みをコントロールする方法を学んだと言う。

彼からのアドバイスは、“自分の限界を知ること” だ。

鍵山は「休むということはすごく大切だと思います。自分でも経験したことがあるんですけど、調子が悪い時って、本当にもう何も考えずにただがむしゃらにやってしまうので、一回休んで冷静になったときに、どこが悪かったとか、もっとこう改善しておけばよかったっていうのが本当にびっくりするくらい頭の中に浮かんでくるので、そういう面では大事だと思っています」と語った。

「毎日100%出していたらいつか限界が来てしまうかもしれないので、そういう時に一回休養して、エネルギーを蓄えるっていうことはすごく大切だと思います」

同じく日本の女子スキージャンパーのトップ選手である高梨沙羅は、悩んでいる時も常に前向きに考えるようにしているという。

彼女は、メンタルヘルスを「とても大事な部分で、柱になってくるもの」と表現する。

「慌ててしまう気持ちもあると思うんですけど、自分がしっかり自信の持てるだけのトレーニングだとか、できる限りのことを尽くしてポジティブに考えることで、良い発見があると思います」

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幸せな人生の鍵となるメンタルヘルス

ギレスをはじめとするアスリートたちは、スポーツに関係するかどうかにかかわらず、人生に満足感を得るにはメンタルヘルスへの適切なアプローチを見つけることが重要と主張する。

「自分自身にもっと気を配らなければなりません。みんな決して完璧ではありません。完璧な人間なんていないのですから」とギレス。

「難しいのは、機能的で、幸せで、人生を楽しんでいると感じられるほどの完璧さとは何かを考え出すことです」

そう感じているのは彼女だけではない。

アメリカのスピードスケート選手であるブリタニー・ボウは、「メンタルヘルスは、あなたを人間として形作るものです」と語る。

平昌2018の銅メダリストである彼女は、パフォーマンスの良し悪しにあまりこだわらず、むしろメンタルヘルスに焦点を当てるようにしている。

「精神的に安定していなければ、スケートリンク上で何をしても意味がありません」

「リンクの上での勝利は一瞬のことです。しかし、幸せに、健康的なライフスタイルを送ることは人生のすべてなんです」

2018年に男子チームで銅メダルを獲得したスイスのカーリングスキップ、ぺーター・デクルスは、彼にとって精神的に健康であることは、自己愛に関係していると言う。

「僕にとってのメンタルヘルスは、幸せはまず愛によってもたらされ、自分を愛することを学び、自分の肌や身体に満足することです」

「自分自身を知り、何を持っていようと、何を考えていようと、何をしていようと、それに満足することが大切なのです」

エリートアスリートたちも、私たちと同じように幸せを感じている。

ROCのペアフィギュアスケーター、アレクサンドラ・ボイコワは「メンタルヘルスは、私にとって平和と安定そのものです」と話した。

「それを取り戻すために役立つものですか?」

「おそらくインターネット上の猫でしょう。毎日、インターネットで猫の動画を見ています」

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