柔道界ではほかの競技よりも一足はやく、パリ2024オリンピックの日本代表内定選手が決まることが予想される。
全日本柔道連盟は最速で今年(2023年)6月に代表選手を内定できる選考基準を定めており、5月にドーハで開催される世界選手権の成績が大きな影響を及ぼすことになる。
パリオリンピックでは男女それぞれ7階級が実施される予定で、日本代表として出場できるのは各階級で最大1人まで。有力選手がひしめく日本はどの階級でも熾烈な代表争いが繰り広げられている。
2023年の世界選手権に派遣される女子選手として、48kg級、63kg級でそれぞれ2人が選出されているが、それ他の階級では各1人。選出された選手がパリオリンピックに向けた代表争いを1歩リードする形になるが、選出されなかった選手らは4月1日〜2日に行われる全日本選抜柔道体重別選手権などで実績を重ねることでパリへの可能性が見えてくる。
女子柔道ではどんな選手が代表争いを繰り広げ、誰がパリに近い位置にいるのだろうか。その現状を階級別に見ていきたい。
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柔道女子48kg級
東京2020オリンピックで日本勢メダル第1号となったのが、柔道女子48kg級の渡名喜風南(となき・ふうな)である。銀メダルに輝いた渡名喜は東京大会後も好調ぶりを感じさせる成績をおさめていたが、2022年の世界選手権で7位に沈み、同12月に東京で開催されたグランドスラム・東京を怪我のため辞退した。
こうしたことから2023月5月の世界選手権には、30歳の角田夏実(つのだ・なつみ)、21歳の古賀若菜が代表選手として戦いに挑む。
千葉県出身で世界ランキング2位の角田は東京2020を目標に階級を52kg級から48kg級に変更したが、リオ2016オリンピック銅メダルの近藤亜美や、古賀も参加しての代表争いに敗れ、大会出場はならなかった。
しかし、2022年の世界選手権では2021年大会からの2連覇を達成。しかも5試合すべてを一本勝ちで飾った。
同年2月のグランドスラム・パリでも優勝しており、国際柔道連盟は角田の動画に「現・世界チャンピオンである角田による巴投げのお手本」とのコメントを添えて同連盟のソーシャルメディアに投稿した。
一方、ランキングで角田を追いかけるのが世界ランク7位(日本勢2番手)の古賀。初出場となった2021年の世界選手権では決勝で角田に敗れて準優勝。ワールドマスターズでは決勝でフランスのシリヌ・ブクリに敗れたものの、世界の最高峰の舞台で堂々とした戦いぶりを見せている。
このほか、渡名喜に代わって2022年12月のグランドスラム・東京に出場した、宮木果乃(18)などもこの階級に控えている。東京出身の宮木は、角田や古賀も参加したこの大会でワールド柔道ツアー初出場初制覇。世界選手権のメンバーには選ばれていないが、4月1日〜2日に行われる全日本選抜柔道体重別選手権などで持てる力を発揮することだろう。
柔道女子52kg級
柔道女子52kg級の阿部詩(うた)が兄・阿部一二三(ひふみ)とともに兄妹で同日に金メダルを獲得したことは東京オリンピックのハイライトのひとつとなった。再びその偉業を成し遂げるため、兄妹そろってパリを目指している。
兵庫県出身で22歳の阿部詩は東京オリンピック後に両肩の手術をしたが、2022年7月のグランプリ・ザグレブで国際試合に復帰して優勝。同10月の世界選手権、12月のグランドスラム・東京で優勝を飾り、心身ともに強さを増している様子だ。
女子52kg級は「阿部詩・一強時代」とも言われるが、そんな阿部に挑む日本選手は誰なのか?
最も近い位置にいるのが、宮崎県出身で29歳の志々目愛(ししめ・あい)だろう。志々目は2017年の世界選手権で優勝して以降、同大会で安定した成績を残しているが、東京2020の代表争いではその座を逃し、2022年12月のグランドスラム・東京でも阿部に敗れて準優勝。現在の世界ランキングは阿部が5位であるのに対し、志々目は13位となっている。
阿部が5月の世界選手権で好成績を残せば、志々目にとって厳しい戦い、あるいはパリへの道を閉ざされることも考えられる。しかし志々目がやるべきことは4月の全日本選抜柔道体重別選手権で成績を残すこと。気合十分で戦いに挑むことだろう。
柔道女子57kg級
東京オリンピックの代表の座を掴み、大会で銅メダルを獲得したのが芳田司(よしだ・つかさ)。京都市出身で27歳の芳田は、東京2020以降の国際大会で表彰台の頂点に立っておらず、2022年の体重別選手権でも舟久保遥香に敗れて2位。10月の講道館杯では玉置桃に敗れて2位、グランドスラム・東京では決勝で舟久保の前に散った。世界ランキングは現在19位となる。
現在、パリ2024オリンピックの代表争いをリードするのが、世界選手権の日本代表に選出されている舟久保だ。
山梨県出身で24歳の舟久保は、2022年4月の体重別で2度目の優勝を果たしたほか、同年のグランドスラム3大会で金メダルを獲得。世界選手権2022では決勝でラファエラ・シルバ(ブラジル)に敗れて2位に甘んじたものの、グランドスラム・東京でしっかりと成績を残して2023年世界選手権出場を決めた。
世界ランキングの舟久保に続くのが、世界ランク13位の玉置。北海道出身で28歳の玉置は、2022年4月の体重別の準決勝で舟久保に敗れて3位。8月のアジア選手権で優勝、10月の講道館杯では芳田との決勝を制して金メダルに輝いた。だが、12月のグランドスラム・東京では準決勝で芳田に敗れて3位となった。
柔道女子63kg級
リオ2016、東京2020の2大会でメダルに届かず悔しい経験をしたのが髙市未来(みく/旧姓:田代)だ。
東京出身の髙市未来は、東京オリンピック翌年の体重別選手権を左膝前十字靱帯の負傷のため欠場し、パリ代表争いを少し遅れてスタート。しかし、2022年末に元日本代表の髙市賢悟さんと結婚し、夫婦2人3脚でパリを目指している。
28歳の髙市未来は10月の講道館杯、12月のグランドスラム・東京を制して2023年の世界選手権代表の座を掴み取った。
だが、代表争いを1歩リードするのは、髙市とともに世界選手権代表メンバーに選出されている堀川恵である。長野県出身28歳の堀川は、17歳のときにグランドスラム・東京で優勝して注目を集めたものの、その後、思うような成績を残せず試練の時を迎える。
しかし、2020年に柔道家の男性と結婚すると、同年の講道館杯で初優勝。2022年2月のグランドスラム・テルアビブではおよそ10年ぶりにグランドスラムでの金メダルを獲得した。4月の体重別では2年ぶり3度目の優勝を飾った。
世界ランキングは2022年の世界選手権を制した堀川が3位で、髙市が14位となる。
このふたりの世界選手権代表メンバーのほか、女子63kg級には兵庫県出身25歳の鍋倉那美、福島県出身の23歳で、講道館杯やグランドスラム・東京で髙市に敗れ準優勝となった渡邉聖子もいる。ふたりが参加する4月の体重別選手権のパフォーマンスに注目したい。
柔道女子70kg級
東京2020で金メダルを獲得した新井千鶴が、東京で有終の美を飾って現役を引退した今、女子70kg級をリードするのが26歳の新添左季(にいぞえ・さき)である。
奈良県出身の新添は、2022年の世界選手権で銅メダルを獲得すると、12月のグランドスラム・東京では優勝。2023年世界選手権の日本代表に選出された。
現在世界ランキング4位の新添に続くのが、同30位の田中志歩である。山口県出身24歳の田中は、2022年12月の全日本選手権(無差別級)で、重量級の選手でないにもかかわらず見事優勝をおさめると、翌2月グランドスラム・テルアビブで優勝。4月の体重別も自分のものとした。
しかし、新添と共に出場した同年の世界選手権で右膝を負傷。手術の影響により、2023年の世界選手権代表選考の場となったグランドスラム・東京を欠場した。5月の世界選手権代表には選ばれていないが、4月の全日本体重別選手権で実戦復帰を予定している。
柔道女子78kg級
東京オリンピックの女子78kg級で圧倒的な強さを示して金メダルを獲得した32歳の濵田尚里(はまだ・しょうり)は、引き続きこの階級の日本勢をリードする存在だ。
鹿児島県出身の濵田は、2022年4月の体重別で優勝したものの、同年の世界選手権では5位。グランドスラム・東京で2位となり2023年の世界選手権の代表に選出された。
女子78kg級で世界選手権に選ばれているのは濵田のみだが、この階級には28歳の髙山莉加、同じく28歳の梅木真美がいる。宮崎県出身の髙山は4月の体重別の決勝で濵田に敗れて2位となったが、12月のグランドスラム・東京で濵田を破って優勝するなどの実力を見せている。
一方、リオ2016に出場した大分県出身の梅木の直近の成績は、2022年のアジア選手権で優勝し、グランドスラム・東京では3位となった。
柔道女子78kg超級
東京2020では素根輝(そね・あきら)が延長戦の末に金メダルを獲得し、日本勢にとってアテネ2004ぶりの金メダルとなった女子78kg超級。福岡県出身22歳の素根は、東京大会後の2022年3月に左膝の手術を行い、復帰後、オリンピック以来の国際大会となった同8月のアジア選手権で優勝。グランドスラム・東京でも優勝して2023年世界選手権の日本代表に決まった。
素根が不在だった期間に国内・国際舞台で力を発揮したのが、冨田若春(わかば)である。東京出身で25歳の冨田は、素根が欠場した2022年4月の体重別で2連覇を達成。同年の世界選手権でも2大会連続で表彰台に立った。
そのほか、北海道出身で25歳の秋場麻優(あきば・まや)は2022年の講道館杯で優勝、グランドスラム・東京では素根に敗れて銀メダル、翌2月のグランドスラム・パリでも銀メダルを獲得しており、4月の全日本選抜体重別選手権での活躍が注目される。