イリア・マリニンは吸血鬼ではないが、チャンピオンであることは間違いない。
12月7日に開催された2024年のISUグランプリ(GP)ファイナル・男子シングルのフリースケーティング(FS)。アメリカ合衆国のイリア・マリニンは、自身のプログラムに4回転ジャンプを7本組み込み、その超人的とも言える挑戦で292.12点を得て2連覇を達成した。
フォーリング・イン・リヴァースの 「I'm Not a Vampire」というFSの曲は、重力をものともしないマリニンのプログラムにふさわしい選曲だ。もともと4回転ジャンプを4本跳ぶ予定だった前回大会王者は、さらに3本の3回転ジャンプを4回転にアップグレードし、男子フィギュアスケート界に新たな金字塔を打ち立てた。
「GPファイナルに臨むにあたって、自分の技術的な能力を試すと同時に、芸術性を完璧なものにしたいと思いました。これはここ数シーズンで取り組んできたことです。ここに来て、1つのプログラムにすべてを注ぎ込んで、それがどうなるかを見てみたいというのは、僕にとって挑戦のようなものだったと思います」
彼のこの野望とも言える計画は、すべてがうまくいったわけではない。マリニンはいくつかのジャンプで回転不足となり、4回転ツッツでは転倒した。しかし、フランス・グルノーブルの観客たちは、彼の演技に釘付けとなった。バックフリップで観客を喜ばせてプログラムを締め括ったマリニンは、氷の上に仰向けになったまま身体中で呼吸をしながら今自分がやってのけたことを反芻するかのように天井を見つめた。「4回転の神」「イリアは氷上の王」と書かれたボードで埋め尽くされたスタンドからは、大歓声が沸き起こった。
同日に行われた女子シングルではアンバー・グレンが、ジュニアGPファイナル男子シングルではジェイコブ・サンチェスが優勝し、マリニンは彼らに続いて優勝。アメリカ合衆国の選手らはシングル4種目中3勝を挙げた(ジュニア女子シングルでは島田麻央が勝利し、3連覇を達成した)。
グルノーブルでの優勝は、今シーズン無敗のマリニンにとって2連覇となる。フリーのスコアは186.69点で、2024年の世界選手権で記録した自己ベスト227.79点を大きく下回ったものの後悔はない。12月2日に20歳になったばかりの彼は、プログラムをさらに向上させる方法をすでに考えているという。
「技術審査員のことはあまり考えていませんでした。結果が出た後、このプログラムをやり遂げようと挑戦した自分をただ誇りに思いました。今は何を改善し、何ができるかを確認するためのテストのようなプログラムです。でも、今夜のパフォーマンスには全体的に満足しています」と続けた。
On Edge
2022年の冬季オリンピック北京大会に向けてトレーニングに励む、世界最高のアイスダンスペアの氷上と氷の外での個人的、感情的な挑戦を追いかける。