五十嵐カノアの語るサーフィン、オリンピック、日本への思い、そして伝えたいこと

「家族」と呼ぶ日本チームのためにオリンピック出場権獲得を目指す東京2020銀メダリスト、五十嵐カノアがOlympics.comに語ったサーフィン、オリンピック、日本への思い。インタビューの模様を紹介する。

1 執筆者 Hirotaka Hikoi
五十嵐カノア:CT第6戦サーフランチ・プロ2023
(2023 Getty Images)

「日本チームはみんな家族。できるだけ多くの日本人が国を代表するのを見てみたい」

そう語った五十嵐カノアは、この1年間、パリ2024オリンピック出場枠の獲得を最大の目標として奮闘してきた。

昨年9月の国際サーフィン連盟(ISA)ワールドサーフィンゲームズ(WSG)ハンティントンビーチ大会(米カリフォルニア)で優勝を果たした五十嵐は、日本男子にパリ2024出場枠1つをもたらすことに貢献した。今年6月のWSGエルサルバドル大会ではアジア勢1位となり自身の出場枠を確保している(※)。

※来年2月予定のプエルトリコで行われるWSG2024への出場が条件。全ての出場枠は、WSG2024終了後に行われる最終発表まで暫定となる。

現在、ワールドサーフリーグ(WSL)チャンピオンシップ・ツアー(CT)を転戦している五十嵐。CTを通じて3つ目のオリンピック出場枠獲得を目指し戦い続ける。これまでに9戦を戦ってきた。

次の第10戦タヒチ・プロ(8月11日~20日/タヒチ島チョープー)を終えた時点の最終ランキングで、上位10人(ただし各国最大2人のため3人目以降は除かれる)に入ればパリ2024の出場枠をさらにもうひとつ追加することができる(7月19日現在の五十嵐のランキングは13位)。これによって日本男子がまたひとりパリ2024に出場できる可能性が出てくる。

Olympics.comは、WSGエルサルバドル大会直後、五十嵐に独占インタビューを行う機会を得た。五十嵐のサーフィンについての思い、日本人としてオリンピックにかける夢、そして次の世代に伝えたいことについて貴重な話を聞くことができた。五十嵐の熱い思いのこもるメッセージを紹介したい。

(2019 Getty Images)

五十嵐カノアにとって「サーフィンはニュートラルな場所」

Olympics.com:五十嵐選手にとってサーフィンにはどんな意味がありますか?

五十嵐:僕にとって、サーフィンはたくさんのことを意味します。毎朝、目が覚めたらサーフィンのことを考えるし、眠る時もサーフィンのことを考えています。

これは競技や試合で勝つことを言っているのではなく、僕にとってのサーフィンは友だちと一緒に大事な時間を過ごすような場所なのです。

Olympics.com:どんな時にサーフィンに行くのですか?

五十嵐:ストレスに参ってしまった時にもサーフィンに行きますし、もちろん競技やその準備のためにもサーフィンをします。

僕が子どもの頃、サーフィンはニュートラルな場所でした。アジア人として、見かけが違うからと言って非難されたくない時に向かった場所がサーフィンでした。でも海の中では、サーファーたちの誰もが同じ目で僕のことを見てくれました。今では海に行くと、みんなサーファー仲間として僕を迎えてくれます。だから僕は海が好きですし、サーフィンが好きなのです。

ICHINOMIYA, JAPAN - JULY 27: Kanoa Igarashi of Team Japan completes a huge aerial to find a last minute winning score against Gabriel Medina of Team Brazil during the men's semi final on day four of the Tokyo 2020 Olympic Games at Tsurigasaki Surfing Beach on July 27, 2021 in Ichinomiya, Chiba, Japan. (Photo by Ryan Pierse/Getty Images)

(Ryan Pierse)

五十嵐カノアにとって「オリンピックは長い旅」

Olympics.com:東京2020からサーフィンがオリンピック競技になりました。それについてどう思いますか?

五十嵐:(ISA会長の)フェルナンド(アギーレ)の尽力があり、オリンピック競技としてのサーフィンは現実のものとなりました。子どもの頃の僕には、サーフィンでオリンピックに出るなんて夢にも思いませんでした。オリンピックに出ることなんて考えたことがありません。他のスポーツは苦手なので(笑)。これはすごい進化です。いつかはこうなっていたかもしれませんが、それが僕の生きている間に起こったことはとても幸運です。

Olympics.com:東京2020を振り返って、どんなことが思い出されますか?

五十嵐:オリンピックは素晴らしいものでした。ただ、オリンピックは競技のあるその日1日だけではないのです。オリンピックは何年も前から始まる長い旅なのです。4年間の旅です。

むしろ、競技の当日のほうが楽なぐらいでした。プレッシャーや緊張はそれまでのことで、競技の日に僕がすることは波に乗ることだけでした。そして、僕は母国のために銀メダルを獲得することができました。これは本当に、本当に最高の感覚でした。間違いなく自分の人生を変えるものになりました。

Olympics.com:パリ2024に向けてどのように準備しているのでしょうか?

五十嵐:準備は他の大会と同じように行っています。どんな大会でも僕は全力を出し切ります。ただ、オリンピックでは、少し違った準備が必要ですね。大きな期待、メディア、プレッシャーなどがあり、日本を代表して結果をもたらすことを考えなければなりませんから。

体力的には問題なく準備できます。あとは会場となるあのチョープーの波に挑むには精神力を高めなければなりません。初めて行った子どもの頃はとても怖かったですが、何度も通いテクニックを磨きました。今ではチョープーの波は自分にぴったりだと確信しています。家族のため国のために金メダルを獲得したいです。

ICHINOMIYA, JAPAN - JULY 25: Kanoa Igarashi of Team Japan reacts after his Men's Round 1 heat on day two of the Tokyo 2020 Olympic Games at Tsurigasaki Surfing Beach on July 25, 2021 in Ichinomiya, Chiba, Japan. (Photo by Ryan Pierse/Getty Images)

(Ryan Pierse)

五十嵐カノアにとって「日本チームはみんな家族」

Olympics.com:WSGでは選手でありながら日本チームを全力でサポートしている姿が印象的でした。そこにはどんな思いがあったのでしょうか?

五十嵐:僕にとって、WSGはとても大きな意味を持っています。日本のサーファー仲間とつながることができる場所なんです。2週間、家族のように一緒に過ごし、思い出を共有して絆を深めることができるんです。僕がこれからもずっと覚えていることは、メダルや結果よりもむしろ、家族であるチームと一緒に夕食をとったこと、毎晩チームでミーティングをしたことなんです。だから僕はWSGが大好きなのです。

僕にとってチームはみんな家族です。だから僕はチームを全力でサポートしたいのです。日本の成長、そしてアジアの成長を見たいですね。もし僕が持っている全てを提供できれば、少しのサポートになるかもしれません。チームのためにサポートできることが大好きです。家族として成長したいですね。

Olympics.com:今回のエルサルバドルで、パリ2024の出場枠を(条件付きで)獲得しました。今はどんな気持ちですか?

五十嵐:ここでオリンピック出場権を得ることができて嬉しかったです。昨年のISAハンティントンビーチ大会で出場枠を1つ獲得し、今回もうひとつ取ることができました。さらにCTで3つ目を手に入れることが目標です。

僕は、できるだけ多くの日本人が国を代表するのを見てみたいのです。オリンピックがどれだけ人の人生に影響を与えるかを理解しているつもりです。仲間が喜ぶ姿を見たいのです。だから僕は全力で日本チームをサポートします。

SAN CLEMENTE, CALIFORNIA - SEPTEMBER 06: Kanoa Igarashi of Japan prepares to surf during a training session at Lower Trestles ahead to the 2022 Rip Curl WSL Finals on September 06, 2022 in San Clemente, California. (Photo by Sean M. Haffey/Getty Images)

(2022 Getty Images)

五十嵐カノアにとって「伝えたいことは自分自身であり続けることの大切さ」

Olympics.com:世界中の多くの子どもたちのロールモデルとして、次の世代にどんなことを伝えたいと思いますか?

五十嵐:僕が伝えたいことは、単に自分自身であり続けることの大切さです。僕は自分自身に忠実であり続けたいのです。

日本人として生まれ、日本人として育ったカリフォルニアで、僕はいつも何か異なるひとりでした。僕は他のみんなと同じように見て欲しかったんです。でも時間が経つにつれて、僕は自分自身が好きだということに気づきました。ユニークで人とは異なる自分を認めようとしました。

だから、(次の世代の)あなたが何であろうと誰であろうと何をしようと、自分自身に忠実であり続けて自分自身を輝かせようとする限り、それが最善だと思います。僕に伝えられることがあるとすれば、自分は常に自分自身であることを示すことに尽きます。

Olympics.com:ありがとうございました。

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