羽生結弦さんの東京ドームアイスショー "GIFT" に35,000人が大歓声「本当に幸せな経験をさせていただいた」

フィギュアスケート男子シングルでオリンピック2連覇を達成したプロスケーター・羽生結弦さんの単独公演アイスショー "GIFT" が2月26日、スケーター史上初となる東京ドームで行われ、2時間半の熱演に35,000人で埋め尽くされたスタンドから大きな歓声と拍手で包まれた。

1 執筆者 Yukifumi Tanaka/田中幸文
Hanyu delivered his Gift to the delight of a crowd of 35,000.
(2023 Gift Official)

フィギュアスケート男子シングルでオリンピック2連覇を達成し、2022年7月にプロスケーターへと転向した羽生結弦さんが2月26日、スケーターとしては史上初となる東京ドーム(東京都文京区)での単独公演のアイスショー「ICE STORY 2023 “GIFT” at Tokyo Dome supported by 雪肌精」に臨んだ。

この一夜限りの "氷の物語" のショーには、35,000人の観客でスタンドが埋め尽くされ、競技よりも大きなサイズのアイスリンクが東京ドームのフィールドに設置された。また、80を超える映画館でのライブ・ビューイングや、日本のみならず世界各国へライブ配信されたこの "GIFT" の演出には、世界的に人気の高いアーティストであるPerfumeなどのコリオグラフィーを手がけるMIKIKOさんが手がけ、さらに、北京2022フィギュアスケート最終日のエキシビジョンにおいて、羽生さんが演じたプログラム楽曲の「春よ、来い」を歌う松任谷由実さんをはじめ、数多くのミュージシャンをプロデュースしてきた音楽家の武部聡志さんが、ショーの音楽監督を務めた。

生のオーケストラも控える規格外スケールのアイスリンクで、羽生さんは12曲のプログラムを2時間半にわたり、『ひとり』で滑り切った。その中には、北京2022のショートプログラムで演じた「序奏とロンド・カプリチオーソ」も含まれ、羽生さんは冒頭の4回転サルコウを美しく着氷した。また、アンコールでは前述の「春よ、来い」も演じ、会場からは大きな歓声と拍手が送られ、終始あたたかい雰囲気に包まれていた。

『ひとり』という心に贈り物を

自身だけでなく、フィギュアスケートにとっても新たなページを開き、歴史に残るステージを完遂した羽生さんは、GIFTの公演後、メディアの取材に応じた。

- GIFT単独公演を自身で振り返って

「もう本当に、大変なことだらけでした。ドーム公演っていうことよりも、スケートのエンターテイメントを作るっていうことが、非常に大変なことで…『2時間半、もつかな』って(不安に)思ったんですけど、ドームという会場だからこそできる演出と、MIKIKO先生やライゾマティクスさん、東京フィル(ハーモニー)さんだったり、本当に名だたるメンバーが集まっているからこそできた、総合エンターテイメントが作れたのではないかなと、今は実感しております」

- フィギュアスケートの新たな可能性の手応えを感じたのでは?

「課題もありますし、もっとこうすればよかったなとか、もっとこうできたなみたいなものがある。ただ今日、このGIFTという公演に関しては一回きりで、フィギュアスケートならではの一期一会な演技ができたっていうことに関しては、自分自身すごく誇りを持っています。少しでも皆さんの中で、ほんの1つのピースでもいいので、 記憶に残ってくださっていれば嬉しいと思います」

- GIFTに込めたメッセージとは?

「今までの人生の中で、『ひとり』ということを幾度も経験してきました。実際、いまだにありますし、それは僕の人生の中で常につき纏うものかもしれないです。ただ、それは僕だけじゃなくて、大なり小なり、皆さんの中で存在しているもの。(GIFTは)僕の感性を描いたような物語でもありつつ、皆さんにとっても、きっとこういう経験あるんじゃないかなって思って綴った物語たちです。少しでも、皆さんの『ひとり』という心に贈り物を、 『ひとり』になった時に帰れる場所を提供できたらいいなと思って作りました」

「あの時、掴み切れなかったものを、今、掴み取る」

質問は、このアイスショー前半で演じられた「序奏とロンド・カプリチオーソ(ロンカプ)」にも及んだ。この楽曲は、昨冬の北京2022で羽生さんがショートプログラムで演じたプログラムでもある。

「北京オリンピックでやり切れなかったっていう思いが強くあったプログラムです。あのプログラムには、 夢を掴み切るっていう物語が自分の中にあります。このGIFTっていうストーリーの中にも、夢っていう存在がものすごく大きくあって、(ショーの)前半で夢を掴み切ったっていう演出をしたかったっていうのが、選んだ理由です。北京オリンピックを連想させるような演出をした上で、ロンカプをやったのは、あの時に夢を掴み切れなかったから」
「あの時、掴み切れなかったものを、今、掴み取るんだって。逆にまだまだ掴み切れていない夢も、4回転半だったりとか、 それに向けて、これからも突き進むんだみたいなイメージを込めて、滑らせていただきました」

そして、スケーターとしては史上初となる東京ドームでの公演を終え、会場に詰めかけた35,000人という大勢の観客の前で演じた率直な感想についても、羽生さんは、オリンピックを知っているアスリートらしい回答で締め括った。

「技術的に言えば、平行感覚とか掴みづらかったです。スポーツ選手なんで、そういうこと言っちゃうんですけど(笑)」
「(東京ドームに入って、最初に感じたことは)自分なんて、ちっぽけな人間なんだっていうことでした。ただ、35,000人の方々、そして、この空間全体を使った演出をして下さった皆さんの力を借りたからこそ、ちっぽけな人間であったとしても、いろんな力が皆さんに届いたんじゃないかなっていう気はしてるんです」
「ある意味では、震災の時に『ひとり』だったら、何もできなかったなっていう記憶とちょっと似てて…皆さんの力がいっぱい集まったからこそ、絆があったからこそ、(前に)進めた公演だったかなって思います」
「これだけの方々の前で、久しぶりに歓声を浴びながら、6分間練習だったり、試合のプログラムたちを色々やってみて、本当に幸せでした。 なにより、『ひとり』の人間にこれだけの力が集まることって、本当にあり得ないこと。本当に幸せな経験をさせていただいた。この幸せな経験とか、自分から発せられた思いとかが、未来の見えない今の世の中に対して、少しでも力になればいいなって思っています」
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