**ガブリエラ・パパダキスは、北京2022冬季オリンピック**のリンクに立つ前、心臓が鳴る音が聞こえそうなくらい緊張していた。
「心臓発作を起こすんじゃないかと思いました」パートナーの**ギヨーム・シゼロンとともに金メダルを手に入れた後、フランス人アイスダンサーのパパダキスは、Olympics.comの独占インタビュー**にそう話してくれた。
「『ドク、ドク、ドク、ドク』という感じでした。でも、自分は大丈夫だというふりをしようとしていました」
しかしパパダキスは、そんな緊張の嵐の中で、的確な精神状態を見つけることができた。「パニックになっていたときは、ストレスを感じているときのほうが自分は良いスケートができる、と自分に言い聞かせました。あんなストレスは今まで感じたことはなかった。だから、きっと今までで最高の演技ができるぞ、と納得させたんです」
彼女とシゼロンは、リズムダンスで過去最高の演技を披露した。90.83点という世界最高得点を叩き出し、2点のリードをつけてフリーダンスに臨むと、36時間後には、銀メダルに終わった**平昌2018**で逃した金メダルを手に入れていた。
24ヵ月間に主要な国際大会が2回しか行われないといった、次から次へと起こる予期せぬ問題に悩まされた、期待と興奮と重圧に満ちた北京大会へのオリンピックサイクルは、こうして締めくくられた。
衣装のトラブルに見舞われた2018年の出来事は過去のものとなり、4度の世界タイトルは彼らを代表する業績ではなくなった。パパダキス&シゼロン組の黄金の瞬間は、子供の頃に一緒にスケートを始めた20年前から、年月をかけて培われてきたものだった。
しかし彼らが金メダルを目指して滑っていた最後の数日間は、そんな彼らのキャリアの中でも、最も困難な時期だったといえるかもしれない。
ギヨーム・シゼロン「過酷なメンタルゲーム」
「正直、これは過酷なメンタルゲームです」と27歳のシゼロンも同調した。「メンタル・オリンピックと呼んでもいいくらいです」
パパダキスが最もプレッシャーを感じたのはリズムダンスでリンクに立つ直前(2月12日)だったが、シゼロンの場合は、前日に首都体育館での2回目の練習を終えたときだった。
彼はそのとき、ロマン・ハグナウアー、マリー=フランス・デュブレイユの両コーチを含むチームにメッセージを送っていた。
「僕らはこれをやるべきなんだろうか?」と書かれたそのメッセージの内容は、リズムダンス本番の前夜に試合会場を使って練習するという判断について尋ねたものだった。「僕がおかしいのか?これがクレイジーなことなんだとしたら言ってほしい。でも、僕はやりたいんだ」
彼らは実行した。その夜の練習でリンクにいたのは、他にひと組だけ。審判もいない。数日前の団体戦で、ライバルや練習仲間たちが滑っているのを見た、そのオリンピック会場のリンクに、少しでも慣れておきたかった。
「自分でも本当に驚きましたが、普段のモントリオールでのような、地に足のついた感覚を少しでも取り戻したかったんです」とシゼロンは続けた。「ただ落ち着いて、静かに過ごしました。そして次の日には、やってよかったと思いました。すべてがよりいい感じに思えたので」
シニツィナ&カツァラポフ組との対決
それぞれが緊張と向き合いながら臨んでいたふたりだったが、パパダキス(26歳)は、2018年以降、そして直近、といってもパンデミック前になるが、2020年の欧州選手権で自分たちを破った唯一のチーム、現世界チャンピオンの**ヴィクトリヤ・シニツィナ/ニキータ・カツァラポフ**組に注意を払うことにエネルギーを費やすことはしなかったという。
では、アイスダンスの競技が始まるまでの数日間、このROCデュオを意識していなかったのだろうか?
「私はしていませんでした」とパパダキスは率直に答えた。「他の人が何をしているのか、どんなスケートをしているのかはまったく見ていません。私がコントロールできるのは、自分たちがどう滑るかということだけ。私にとって重要なのは、それだけなので」
「私が集中しているのは、私と(ギヨーム)、そして私たちのスケートだけです。ましてや彼でさえもなく、私だけかもしれない。私たちがリンクですることだけ。他の人が何をするかは気にしません。私たちが素晴らしい演技をして、彼らが勝ったのなら、それでいいと思っています」
パパダキスとシゼロンは、モントリオールでの練習仲間が団体種目でROCチームに勝つところを見ていた(リズムダンスでは**マディソン・ハベル/ザカリー・ダナヒュー組、フリーではマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ**組)。しかし集中していたのは、自分たちのやるべきことだけだった。
パパダキスは続けた。「彼らがやっていることを見てストレスを感じたり、不安になったり、恐怖を感じたりしても意味がありません。そんなことをしても意味がない。私は彼らを意識して見ているわけではないのですから」
2018年を葬り去る新たなエンディング
4年前、パパダキスとシゼロンは、テッサ・バーチュ/スコット・モイア組との対決を視野に平昌大会に臨んだ。しかしリズムダンスの冒頭で、パパダキスの衣装がはだけるというハプニングに見舞われた彼らが手にできた結果は、2位が精一杯だった。
北京2022では、素晴らしいリズムダンスに加えて、フリーダンスの「エレジー」も最高得点を獲得し、フランスがこの大会で手にした5つの金メダルのうちのひとつを手にした。そして、平昌2018の雪辱も果たされた。
「私たちは、自分たちのキャリアのこの章を書き換えたかったのです」とシゼロンは語る。「メダルそのものよりも、ここまで辿り着いた私たちの道のり。4年前、銀メダルに終わったのは残念でした…だから、4年前には勝てなかった彼らが、今回は勝ったのだ、ということを歴史に残したい。それが私たちの思いです」
パパダキスは、北京で滑っているときに無意識のうちに平昌のことを考えていたかどうかはわからないと言う。しかしあの衣装の不具合についてはまったく考えてはいなかった。
「リンクに上がったときは、4年前のことは考えていませんでした」と彼女は言った。「ただ、潜在的な部分では、4年前の悔しさを感じていて、それを繰り返したくないと思っている自分がいることもわかっていました」
「でもそれは衣装のことではありません。それよりも、この瞬間を楽しむことができず、オリンピックを十分に体験することができていなかったということです。4年前、リンクの上にいたときの私は、オリンピックというものを体験していませんでした。ただただパフォーマンスをやりきろうとしていただけだったのです。今回は、同じことは繰り返したくありませんでした」
シゼロンは、2018年の経験も含めて、このような結果になることが運命づけられていたように感じているという。
「乗り越えるのは大変でした。でも、ここで金メダルを獲得したことで、すべての出来事に意味があったことがわかった気がします。この章を金メダルで終えられることが、僕たちはうれしいんです」
「4年前には勝てませんでしたが、それが今回の勝利の原動力になりました。4年前に優勝していたらどうなっていたかはわかりません。ここにはいなかったかもしれない。今回、勝つためのモチベーションや意欲もなかったかもしれない」
「僕はただ、こうなったことに満足しています」