オリンピック予選シリーズ、BMXフリースタイルのすべてがわかる!

執筆者 Greg Presto for Olympics.com
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Rim Nakamura of Japan performs a blackflip during the Men's BMX Freestyle seeding event, run 1 on day eight of the Tokyo 2020 Olympic Games
写真: 2021 Getty Images

アクションに満ちた自転車イベントのルール、試合形式、採点、トリック、注目選手を紹介する。

BMXフリースタイルは、 スピン、フリップ、テールウィップ、ランプ、ジャンプ、レールなど、オリンピックで最もアクション満載の1分間かもしれない。

ライダーたちは1980年代ごろからこれらのトリックを発展させ、2021年に行われた東京2020オリンピックでオリンピックデビューを果たした。パリ2024オリンピックでは初めて観客の前で披露される。だがその前に、5月に中華人民共和国の上海で、6月にハンガリーのブダペストで開催されるオリンピック予選シリーズで観客を魅了することになる。

テールウィップからバースピン、ヒップジャンプ、パンピングまで、オリンピックで最も新しくエキサイティングなスポーツのひとつを理解し、競技観戦を楽しむため、BMXフリースタイルのアメリカ合衆国代表チームのライアン・ナイキスト・コーチと、東京2020に出場し、パリ2024でも活躍が期待されるニック・ブルース(アメリカ合衆国)の専門知識を借りて紹介しよう。

BMXフリースタイルとは?

BMXとは「バイシクルモトクロス」を略した言葉だ。オートバイのモトクロスレースのように、ダートやジャンプ台の上を走るタイプのレースを指す。しかしBMXでは、自転車にモーターは付いておらず、小さな車輪とギアのない自転車が使われる。この競技を統括する国際自転車競技連合(UCI)のルールブックによると、BMXバイクはフラットペダルで、タイヤの空気圧が高い状態で直径22.5インチ(57cm)を超えないホイールでなければならない。

BMXフリースタイルの試合は、速さを競う「レース」ではない。ライダーが繰り出すトリックを審査員が採点する審査競技となる。オリンピックでのBMXフリースタイルの試合は、専用パークで行われ、ライダーがジャンプ、スピン、フリップをするためのジャンプ台、ランプ、レールなどが設置されている。

ライダーたちは60秒間の「ラン」に数々のトリックを組み込み、0.00~99.99のスコアで採点される。

BMXフリースタイルのコースには、どのような障害物がある?

ナイキスト・コーチは、パークは大会ごとに異なり、それはBMXフリースタイルの最大の醍醐味のひとつと言う。

大会名とは裏腹に、ライダーたちは「フリースタイル」でトリックを披露しているわけではないからだ。各ライダーは、ジャンプ、フリップ、スピン、その他のトリックを組み合わせたルーティンを組み立て、パーク内を縦横無尽に走り回る。大会ごとにランプの配置が変わるため、ランの構成は毎回自ずと変わってくる。

フィギュアスケートのようにルーティンがある他のスポーツでは、「いつも同じ表面で行われる。たとえばアイスリンクなどね。でも、我々のランプはシャッフルして動く。コースも変わる。前回あったランプが完全に取り払われ、新しいランプが設置されることもある」と彼は言う。

コースの規模や障害物の数は様々だ。UCIによると、コースは正方形か長方形で、中央に障害物が少なくとも3つあり、外周に障害物が並んでいる。コース全体の大きさも様々で、たとえば2018年に行われたブエノスアイレス・ユースオリンピックでは、コースの幅は22m×40mだった。アメリカンフットボールファンであれば、フットボールフィールドの20ヤードラインとエンドゾーンの間のレッドゾーンくらいの大きさを想像してほしい。

これらのコースでよく見られる障害物には、以下のようなものがある。

  • [クォーターパイプ]丸いパイプの4分の1の形をしたスロープ。コースの端にある高い壁を背にしていたり、壁に向かって設置されていたり、クォーターパイプの上部に平らな面がある場合もある。初心者コースでは、これらの高さは通常1.2~1.8メートルである。
  • [スパインランプ]2本のクォーターパイプを背中合わせに並べ、2つが接する部分に細いスパイク(またはスパイン)を作ったもの。
  • [ジャンプボックス]スパインランプとは異なり、このボックスには凹凸があり、ジャンプ面が着地面よりも急になっているため、ライダーは反対側に着地しやすく、スムーズにライディングを続けることができる。
  • [ヒップジャンプ]スパインランプのように背中合わせではなく、2本のクォーターパイプが角度をつけてくっつけられた障害物。
  • [レール]金属製のレールがスロープに並んでいる場合もあれば、階段のレールや地面に垂直なレールのように独立している場合もある。これらのレールは、ライダーが横切ったり滑り降りたりするために使用することができる。また、前輪または後輪でレールの上に乗ることもできる。

ライダーはどのようにランを組み立てる?

ライダーは大会の数週間前にコースの地図を受け取り、やりたいトリックに思いを巡らせてルーティンを組み立てる。しかし、本当のプランニングはコースに着いてからだとナイキスト・コーチは言う。

仮に中央のランプでフリップした後、右側のランプでスピニングフリップをしようと考えていたとしても、現実のコースは想像していたものとは違うかもしれない。

「実際にコースに出て走ってみると、いろいろな要素が見えてくる。図面を見たときに思っていた通りにならないこともある。スピードが出なかったり、高さが合わなかったりね」

選手たちは、図面と現実の違いを練習で調整しようとする。しかし、練習時間は限られているし、混雑している。ワールドカップのようなオリンピックに似た大会では、選手たちは実際のコースで3度(1回につき1時間)練習することができる。当然、コースを独占して練習できるわけではなく、同時に20人がパーク内にいることもあり、選手たちが練習で自分のルーティンを走りきることはほとんどない。

「練習時間は混沌としている。慌ただしい」とナイキスト・コーチは話す。つまり、選手たちには大会ごとに短期間のうちに特設コースに対応するスキルと、その上で最高の滑りにまとめるという挑戦が求められる。

BMXフリースタイルの大会形式は?

ライダーは1本の滑走につき、60秒間でパーク内を自由に駆け巡る。これはスケートボード競技と同様「ラン」と呼ばれ、ライダーたちはこの中で最高のトリックを披露する。ジャッジは総合的な印象(詳細は後述)に基づき、0.00~99.99点の間で点数をつける。ライダーはランを2回行うが、連続して行うわけではなくライダーそれぞれが1本目のランを行った後、2回に移る。

オリンピックのBMX競技は、予選と決勝で構成される。

予選では、ラン2本の平均点で決勝でのシードが決まる。決勝ではライダーは再びラン2本を行い、ベストスコアだけが採用される。これは通常、ほとんどのBMXフリースタイル大会で行われている採点方法だ。

ブルースによれば、2本のランにどのようにアプローチするか、ライダーの戦略はさまざまだという。ある選手は1本目に全力を尽くし、最大かつ最も印象的なトリックを決めようとする。もし失敗しても、もう一度チャンスがある。それがブルースのやり方だ。

東京2020の金メダリスト、ローガン・マーティンのように、1本目を安全に滑るライダーもいると、ブルースは話す。「最初の滑走で、彼はいつもある程度のスコアを出す。そして、次の滑走では、点数を上げようとして、少しパワーアップするんだ」。

採点方法は?

審査員は各走行を総合的な印象で採点する。UCIルールブックによれば、この採点基準には以下のようなものが含まれる。

  • [難易度]個々のトリックの難易度だけでなく、どのセクションでそれを行ったのかや、コンビネーションも含まれる。
  • [高さ・振幅]ライダーがジャンプでどれだけ高く飛んだかを示す。
  • [フロー]高難易度のトリックを決めるだけでなく、それらをシームレスな滑りに結びつけることも重要だとナイキスト・コーチは言う。ライダーは、1つのトリックが次のトリックにつながるような流れを持っていなければならない。
  • [トリックのバリエーション]
  • [着地]これは単に着地することではなく、スムーズに着地することだとナイキスト・コーチは言う。ライダーが難なく着地すると、実際にスピードが上がり、ペダルを踏む必要がなくなる。
  • [リスク要因]
  • [コースの使用]ライダーは同じセクションで同じトリックを60秒間し続けるわけにはいかない。より多くのセクションを利用することが高得点のカギとなる。

高得点のランはとは? トリックの数は?

各ライダーは、何ヶ月も何年も練習して身につけた難しいトリックや華やかなトリックを武器として持っており、各ランでできるだけ多くのトリックを披露したいとブルースは言う。しかし、時間は60秒しかない。理想的なランでは、トリックを8個か10個つなげることができるが、多くの場合は絶対的なベストトリックを5つか6つしかできず、その間に入るトリックは、難易度のやや低いつなぎのトリックだとブルースは話す。

ブルースによれば、これらの技は簡単ではないが、それほど高く飛んだり、素晴らしく見えたりすることはない。その代わり、これらの技は通常よりテクニカルで、ライダーがコースをより広く使うことができ、「コースの使用」の評価を高めることができる。

ひとつのトリックから次のトリックへ流れるようにつなぐことも、高得点を出すためには重要だとナイキスト・コーチは言う。着地を見れば、ライダーの滑りがどれだけスムーズに進んでいるかがよくわかる。ライダーがハンドルバーに激突することなく高速でトリックを実践しているとき、彼らはスピードを維持し、次のトリックに移行することができる。時にはペダルを漕ぐ必要さえなく、ジャンプの勢いをそのまま次のトリックにつなげることもあるという。これは「パンピング」と呼ばれ、高得点の滑りをきれいに見せるのに役立つ。

ライダーはひとつのトリックから次のトリックへと流れるように技を繰り出しながら、最高のトリックで区切られるインパクトのある大きな瞬間へとつなげたいとブルースは言う。理想的な滑りには、興奮のピークが3つあるという。 観客を興奮させる難易度の高い序盤のトリック、滑走の中盤のピークとなるトリックやシリーズ、そして最後に1分間を締めくくるパワフルな最終トリックだ。

ラン直後のライダーの気持ちは?

疲労困憊! ナイキスト・コーチによれば、ライダーは脚を使ってペダルを踏み込み、腕と背中の筋肉を使って体とバイクを引き上げ、反転させ、回転させ、手、前腕、肩を使って大きな着地の衝撃を和らげる。

ラン1本目が終わると、ブルースは体が「目覚める」ように感じるという。すべてが全開になる、と言う。そして次の滑走まで8分から15分ほど休む。2本目が終わったときの状態を、彼は「大腿四頭筋が完全に火照っている。腕が少ししびれることもある。完全に疲れきっている感じだ」と表現する。

しかし、その疲労感はポジティブなものだという。「 すべてを注ぎ込み、すべてを着地させ、肉体的にはもう何もできない感じ」と話す。

BMXフリースタイルにはどんなトリックがある?

BMXライダーがバックフリップをする様子は、何気なく見ている人には印象的で危険なものに見えるが、実は経験豊富なライダーにとってはかなり簡単なトリックなのだとナイキスト・コーチは言う。オリンピックのような大きな大会に出場するライダーは、難易度を上げるために、このような基本的なトリックをエレメントとして使い、フリップやスピンをミックスして、見たこともないような新しいコンビネーションを生み出す。彼らがエレメントとして使う基本的なトリックには、以下のようなものがある:

  • [スピン]ライダーは1回転(360度)、または2回転(720度)、3回転(1080度)を行う。
  • [フリップ]ライダーはシングルバックフリップ以上の技を繰り出す。 ダブルバックフリップや、英国のシャーロット・ワーシントンのようにフロントフリップもある。
  • [バースピン]空中に飛んだ状態でライダーはハンドルバーを1回、または複数回、回転させる。
  • [テールウィップ]テールウィップでは、ライダーはハンドルを持ってペダルから足を離しながらバイクのフレームを回転させ、最終的にお尻と足の下にバイクを戻す。トリックによっては何度もテールウィップを繰り返すものもある。
  • [ウィリー]前輪または後輪に乗り、もう一方の車輪を空中に浮かせる。

組み合わせの要素が多ければ多いほど、トリックは難しくなる。例えば、ブルースはこの種目で初めて「フレアー・ウィンドシールド・ワイパー」を成功させた。これは、フレア・ジャンプ(バックフリップの後に180度の横回転)をして、着地前にバイクのテールを一方向にウィップし、(フロントガラスのワイパーのように)反対方向に戻すというものだ。

ナイキスト・コーチによれば、このような大技の開発には数ヶ月から数年かかるという。あるいは、難しくても簡単にできる場合もある。チームUSAのコーチであり、Xゲームズでのメダル獲得数が16個にのぼるナイキストによれば、1回の練習でできるようになったトリックもある。その一方で、何年もうまくいかなかったのに、ある日突然できるようになったものもあるという。

BMXフリースタイルはいつからオリンピック競技に?

BMXフリースタイルは、東京2020でデビューした。男子では、オーストラリアのローガン・マーティンが金メダルを獲得し、ベネズエラのダニエル・ダースが銀メダル、英国のデクラン・ブルックスが銅メダルを獲得した。女子はシャーロット・ワーシントン(英国)が金メダルを獲得し、ハンナ・ロバーツ(アメリカ合衆国)が銀、ニキータ・デュカロズ(スイス)が銅メダルに輝いた。

しかし、パリ2024では、東京のBMXフリースタイルにはなかったものがある。それは「観客」だ。新型コロナウイルス感染拡大による制限により、東京大会は無観客で開催された。超高速のレースで、競技者がサイドラインのファンの横をジリジリと通過するのは大したことではないかもしれないが、高空を舞うトリックに声援を送る観客は、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮するのに役立つとニック・ブルースは言う。

「精神的に少し変だった。競技モードに入るのが難しくなったと思う」と彼は言う。東京オリンピックに出場できたことに興奮し、光栄に思っているが、パリでの経験はさらに素晴らしいものになるだろう。フランスの観客は、この競技を気に入るに違いない。「僕たちは毎年モンペリエで競技をするのだけれど、大観衆が集まる大会のひとつだ。僕たちのスポーツはヨーロッパの文化に受け入れられていて、その地で実際にオリンピックを開催することはよりエキサイティングなことだ」。

パリオリンピックを前に、初めてオリンピック予選シリーズが実施される。5月に中華人民共和国の上海で、そして6月にハンガリーのブダペストで開催される2つの大会で構成されるシリーズで、選手たちはパリオリンピックへの出場枠を争う。

BMXフリースタイル選手がオリンピック出場枠を獲得する方法は?

24人のライダー(男子12人、女子12人)がパリで競い合う。開催国であるフランスは、男女各1人の出場枠を保持しているため、予選では22の出場枠が用意されている。

予選期間は2022年11月1日に始まり、2024年6月23日に終了する。2022年のUCIアーバンサイクリング世界選手権で男女各2枠、2023年のUCI自転車世界選手権で男女各3枠が用意されている。

今年5月と6月に上海とブダペストで開催されるオリンピック予選シリーズでは、男女各6人がパリへの出場枠を獲得する。

オリンピック出場枠の詳細については、こちらの記事をチェック。

なお、オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。

BMXフリースタイル注目選手

男子

  • ローガン・マーティン(オーストラリア)
    ブルースは、東京2020オリンピック金メダリストを見て楽しんでいる。「彼はとてもスムーズで、計算されている」とチームUSAライダーは語る。
  • ホセ・トーレス(アルゼンチン)
    「マリグノ」のニックネームを持つトーレスは、高さに定評がある。「彼は何をするにも他の選手より3、4フィート高く飛ぶ」とナイキスト・コーチは言う。「彼の高さは屋根を突き抜けていて、見ていて本当に楽しい」。
  • マーカス・クリストファー(アメリカ合衆国)
    ニック・ブルースは、オリンピック予選シリーズに出場する米オハイオ出身の21歳・マーカス・クリストファーと練習している。「彼はピットブルのようだ。クレイジーだ。誰もやらないような、本当にハイレベルなトリックを持っている」。
  • ニック・ブルース(アメリカ合衆国)
    ブルースは2020年大会で負傷したが、回復してオリンピック予選シリーズに出場。31歳と今大会では高齢の部類に入るが、経験は彼の強みでもある。ナイキスト・コーチは「彼は強くて強い男だ。彼の走りを見ていると、パワーがあるのがわかる。彼はバイクを操ることができる。スピードを維持できる。そして、ただひたすら走るんだ」と語る。

女子

  • ハンナ・ロバーツ(アメリカ合衆国)
    東京2020の銀メダリストであるチームUSAのロバーツは、この種目で2022年のアーバン自転車世界選手権と 2023年のUCI世界選手権を制した。ブルースによれば、彼女は「とても器用」だという。彼女は本当に大きなトリックを持っていて、本当に優れたフィラートリックを持っている。「彼女が初めて何かをするとき、それは通常、女性がバイクでそれをする初めてのことだ」とナイキストは付け加えた。
  • ペリス・ベネガス(アメリカ合衆国)
    もう一人の2020オリンピック選手であるベネガスは、「コースに出ると、即座にそれを分析することができる」とナイキストは言う。ひとたびそうなれば、28歳の彼女はものすごく大きな存在になる。「彼女は本当に速くて強い」
  • **中国代表
    **ブルースもナイキスト・コーチも、中国女子チームは強力だと認める。2023年のUCI世界選手権では、中国女子のソン・シベとチョウ・フイミンがロバーツに次ぐ2位と3位に入った。

パリ2024、BMXフリースタイルの日程は?

パリ2024オリンピックでは、男女ともに予選が7月30日に、決勝は7月31日に行われる。