アジア競技大会を5つの視点で振り返る
パリ2024オリンピック出場枠の獲得から日本新記録の樹立まで、熱い戦いが繰り広げられた杭州アジア競技大会。次回大会は、3年後に愛知・名古屋で開催される。
2週間以上にわたった第19回杭州アジア競技大会は10月8日に全日程を終え、3年後に愛知・名古屋で開催される第20回大会での興奮を予感させて幕を閉じた。
1年の延期を経て実施されたこの大会では、中華人民共和国浙江省杭州を舞台に、体操競技や陸上競技、競泳など歴史ある競技のほか、スケートボードなどのアーバンスポーツ、チェスやブリッジなどのマインドスポーツなどが実施された。各会場では白熱の試合が展開され、多くのドラマが生まれ、新たな歴史が刻まれた。
Olympics.comではアジア競技大会での選手たちの活躍を5つの視点で振り返ってみたい。
パリ2024出場枠をかけた戦い
一部の競技では、来年に迫るパリ2024オリンピック出場枠(※)をかけて実施された今回のアジア競技大会。
個人種目においては、パリ2024の新競技・ブレイキンで半井重幸(なからい・しげゆき/Shigekix)が決勝の激しいダンスバトルを制し、ボクシングでは男子71kg級の岡澤セオン、男子57kg級の原田周大(しゅうだい)がアジアの有力ボクサーを倒してパリ2024出場枠を確保し、日本代表に内定。近代五種では、内田美咲(みさき)、佐藤大宗(たいしゅう)が出場枠を獲得した(日本近代五種協会の規定によれば、近代五種では今後も予選大会があるため、現時点で日本代表内定とはならない)。
団体種目では、日本男子水球チームがパリ2024出場枠を確保。2014年、2018年のアジア競技大会で銀メダルが続き、表彰台の頂点まであと1歩のところに迫っていた日本男子チームは、今大会の決勝で地元・中華人民共和国代表チームを破って優勝。53年ぶりに金メダルを獲得するという快挙も成し遂げた。
※オリンピック各国代表の編成に関しては国内オリンピック委員会(NOC)が責任を持っており、パリ2024への選手の参加は、選手が属するNOCがパリ2024代表選手団を選出することにより確定する。
早田ひな、張本美和&木原美悠、女子ハンドボール代表が大金星
日本のスポーツファンにとって最も白熱した試合のひとつに挙げられるのが、卓球の早田ひなとワン・イーディ(王艺迪/中華人民共和国)が激闘を繰り広げた女子シングルス準決勝だろう。世界ランキング4位のワンを相手に、同9位の早田はゲームカウント2-3の状態から最後2ゲームを連取して逆転勝利。大金星を挙げた。
同じく卓球では、張本美和&木原美悠(みゆう)ペアが中華人民共和国の強豪ペア、スン・インシャ(孫穎莎)&ワン・マンユ(王曼昱)と対戦し、ゲームカウント3-1で勝利。ともに10代のふたりは、今後の活躍を期待させるパフォーマンスでファンを沸かせた。
バドミントン混合ダブルスの渡辺勇大(ゆうた)&東野有紗(ありさ)ペアも中華人民共和国の強豪ペア、フェン・ヤンジー(馮彥哲)&ファン・ドンピン(黄東萍)を破って、日本勢初の決勝進出を果たした。決勝ではジェン・シーウェイ(鄭思維)&ファン・ヤチョン(黄雅瓊)ペアにストレートで敗れたものの、初の銀メダル獲得となった。
さらに、女子ハンドボール日本代表「おりひめジャパン」は、3連覇を狙ったアジアの強豪・大韓民国代表チームを相手に29-19で勝利を挙げ、男女を通じて日本初の金メダルを獲得。「おりひめジャパン」は8月に広島で行われたオリンピック・アジア予選の最終戦で同国代表チームに敗れてオリンピック出場枠獲得がお預けになっており、今回の勝利で今後の飛躍に向けて自信を積み重ねた。
各競技で連覇達成! ソフトボールは6連覇
今大会で日本代表が獲得した金メダル数は52個。そのうち11個は個人または団体が連覇することで獲得されたものだ。
11の連覇の中で3連覇以上となると、個人で成し遂げた選手では、東京2020オリンピックの空手女子形で銀メダルを獲得している清水希容(きよう)の3連覇が唯一となる。
団体種目では、6連覇を達成したソフトボールの快挙が突出している。レジェンド、上野由岐子は6大会連続出場しチームの6連覇に貢献した。また、3連覇を果たしたトライアスロン混合リレーでは、佐藤優香(ゆか)が3大会連続出場し、チームを3度の金メダルに導いた。ちなみに、今回のトライアスロンでは女子個人、男子個人、混合リレーの3種目が実施され、日本代表選手が金メダルを総なめにした。
一方、今大会で多くの金メダルを獲得した選手といえば、ソフトテニスの上松俊貴(としき)が挙げられる。上松は、男子シングルス、男子団体、混合ダブルスで3個の金メダルを獲得し、三冠を達成した。
鈴木聡美、諸田実咲が日本記録を樹立
今大会では日本新記録が2つ誕生した。1つは、競泳の鈴木聡美が女子50m平泳ぎでマークした30秒14(アジア競技大会当時)。鈴木は、青木玲緒樹の持っていた日本記録(30秒27)を破り、今大会で銀メダルを獲得した。大会後、日本に帰国した鈴木は、10月8日に行われた国内大会で同種目を30秒10で泳ぎ、アジア競技大会で樹立した自らの日本記録をさらに更新した。
もう1つの記録は、陸上競技の諸田実咲が女子棒高跳で自らの日本記録(4m41)を7cm上回ってマークした4m48。諸田は銀メダルを獲得した。ちなみに、諸田が日本記録を樹立した10月2日、陸上競技ではふたりの日本人金メダリストが誕生。男子200mで上山紘輝(うえやま・こうき)が優勝し、男子110mハードルでは高山峻野が41年ぶりに日本に金メダルをもたらした。
また、大会記録を見ると、2競技4種目で日本代表選手が大会新記録を樹立した。競泳の本多灯は、男子200mバタフライで大会新記録となる1分53秒15をマークして金メダルに輝いた。自転車競技トラックレースでは、男子チームスプリントで42秒934、男子チームパシュートで3分52秒757、女子チームパシュートで4分21秒224をマークし、いずれも大会新記録で金メダルを獲得した。
地元選手たちが大活躍、MVPに輝く
今大会で最優秀選手(MVP)に選ばれたのが、地元・中華人民共和国代表のジャン・ユーフェイ(張雨霏/ちょう・うひ)とチン・ハイヤン(覃海洋/たん・かいよう)。
東京2020の競泳で個人とリレー合わせて4つのオリンピックメダルを獲得しているジャンは、このアジア競技大会で大会記録を樹立した50mバタフライをはじめ6つの金メダルを獲得。一方、7月の世界水泳・福岡大会で平泳ぎ三冠を達成していたチンは50m、100m、200mで大会記録を更新してここでも三冠。さらにリレーでの二冠を加えた、合計5個の金メダルを獲得して、アジア競泳界をより高みへと導いた。
地元ファンの声援を後押しに活躍した中華人民共和国代表選手たち。次回、愛知・名古屋で開催される第20回アジア競技大会では、日本のスポーツファンの存在が選手たちの力となることだろう。愛知・名古屋大会は3年後の2026年9月19日〜10月4日に予定されている。