イタリア・ローマにて現地時間の6月26日、「ストリートスケートボード選手権プロツアー(ストリート選手権ローマ)」が開幕する。この大会は、パリ2024スケートボード競技ストリート種目の最初の予選大会となり、オリンピック世界ランキングのポイントが獲得できる重要な大会と位置付けられている。Olympics.comでは、本大会の模様をライブ中継で配信する予定だ。
この大会には、男子8名、女子10名、合計18名の日本人選手を含む世界中のスケートボーダー総勢176名が出場予定で、パリ2024の出場枠をかけた新たな戦いの幕開けとなりそうだ。
その中には、昨夏のTokyo 2020女子日本代表で、8位入賞を果たした西村碧莉も含まれている。西村は2021年、同じくローマで行われた世界選手権で優勝を収め、Tokyo 2020代表に選出。金メダル候補としてその呼び声が高かった。しかしオリンピック会場での公式練習中に、かかとを痛めるアクシデントに見舞われる。さらに大会本番の前日、練習中にレールから落ちて激しく転倒してしまい、ひざと骨盤まで怪我してしまう。それでも彼女は追い続けた夢のオリンピックの舞台で滑り、出場した20名中予選5位で決勝進出を果たす。
上位8名が出場する決勝では、怪我により思うようなパフォーマンスができず、最終8位に終わる。しかし、彼女の最後まで諦めずに戦う姿勢はSNSでも大きな反響を呼び、西村が大会後に投稿したインスタグラムには10万を超える「いいね」と、1500件を超えるコメントが寄せられている。初出場のオリンピックで、初めて採用されたスケートボードというスポーツで、彼女が残したものは大きい。
そんな西村が、パリ2024を目指すことを発表し、ローマの地へ1年ぶりに戻ってくる。そんな注目の大会を前に、彼女がOlympics.comだけに語ってくれたスケートボードの魅力を振り返ってみた。
「限界がない」
西村は東京都出身の2001年生まれ。7歳の時からスケートボードを始め、ふたりいる姉、特に2番目のお姉さんとは頻繁に滑っていたという。女の子がスケートボードをすることについて心配する声が両親には何度も届いていたそうだが、西村は周囲の目も言葉も全く気にしなかったと笑う。
「(性別は)関係ないです。スケートボードは誰でも楽しめるスポーツ。私にとっては、スポーツというより遊び(という表現)の方が近い。遊びの延長線上に大会がある」
“スケボー“の魅力は、ジェンダーの垣根がないこと、それだけではない。
「子供も大人も、どんな世代でも楽しめることも、魅力のひとつです。スケボーには限界がないのです」
「技にも限りがない。壁にぶつかりながら、何度も練習して、それを乗り越えていくんです」
そんな“リミットレス“なスケートボードに取り組むからこそ、彼女のメンタルは限界なく強くなるのかもしれない。アスリートらしい強さもありながら、西村は今時の若者らしい一面も見せてくれた。
「GENERATIONS from EXILE TRIBEが好きです(笑)。気分が落ち込んでいる時はGENERATIONSの曲を聞いて、気合入れ、気持ちを高めています」
「間違いはない」
多くの人からの支えがあって、スケートボードを続けていることに感謝している西村は、なかでも家族が一番だと答えた。
「(自分にとって大切な存在は)家族です。常に自分のそばで、自分のことを応援してくれているので。刺激をもらっています」
緊張しやすい側面をもち合わせている西村だが、大事な大会の前や海外遠征時には、特にこだわりのルーティンなどはないそうだ。
「自分ができる最大限のことだけ、考えています」
西村は、手すりを使ったトリックが得意で、その反面フラット(地面)で板を回すのは苦手だと話す。しかし、スケートボードに正解はないと語気を強めた。
「それぞれにスタイルがあって、それはみんな違う」
「スケートボードに、間違いはないんです」
胸にグサリと刺さった。
みんなちがって、みんないいのだ。
「自分を信じろ」
西村には、先見の明があるのかもしれない。
その理由のひとつは、この単独インタビュー(2021年5月実施)の際に、Tokyo 2020 を通じてスケートボードに対する人々の考え方が変わってほしいと彼女自身願っており、実際にスケートボードのイメージはがらりと変わった。
「スケートボードがオリンピックに決まってから、いろんな人の見方が少しづつ変わってきているとは感じます」
「でも、日本ではまだ、スケートボードは危ないっていうイメージが強い。(地元開催のオリンピックに出ることで)少しでもその印象を変えられたらいいなと思う」
Tokyo 2020スケートボード女子パーク決勝。最後のトリックが決めきれずにメダルを逃した岡本碧優の元に、海外の選手が駆け寄り、岡本を抱え、国籍問わずにその戦う姿を讃えあう光景は世界中で大きな話題となった。まさにオリンピックバリューのひとつ、"フレンドシップ(友情)"を体現したシーンであった。
「(スケートボードに乗ったことがない人へ)ぜひ、スケートボードの上に乗ってみて、新しい技ができた時の嬉しさや、友だちと高めあいながら楽しめるという経験をしてほしい」
西村は、スケートボーダーとして、知っていたのだ。このスポーツは、仲間がいるからこそ、仲間と共に成長できるということを。それから、もうひとつ、彼女は今後活躍するであろう選手も予見していた。
「織田夢海ちゃんです」
織田は、2022年6月に行われた横浜アーバンスポーツフェスティバルで優勝し、西村と共にストリート選手権ローマの日本代表に名を連ねている。
「(織田は)いいスタイルをもっていて、もっと上達していくと思う」
最後に、西村へ大切にしている言葉を尋ねた。
その答えも彼女らしかった。
「自分を信じろ」
自分らしいスタイルで、自分を信じる。そこに、間違いはない。
なんだか、スケートボードを試してみたくなった。
ストリートスケートボード選手権プロツアーは、イタリア・ローマにて、現地時間28日に開幕する。また、Olympics.comでは、以下スケジュールで大会の模様をライブ配信する予定。
ネット:Olympics.com(ライブ中継)
※日本時間
- 7月2日 23:15 男女 準決勝
- 7月4日 01:45 男女 決勝