5大会出場のアリソン・フェリックス決勝へ 母としてトラックを駆ける

オリンピック出場5度目のアメリカ代表アリソン・フェリックス。母親として初めてとなる東京2020で、あらゆる世代の女性たちに影響を与える存在でためにトラックを駆け抜ける。

写真: 2015 Getty Images

アリソン・フェリックス(35、アメリカ)は8月6日(金)、400m決勝に登場する。

東京2020開幕まで1カ月に迫った6月。アメリカでのオリンピック選考会に出場したフェリックスは、その後の記者会見であふれ出す感情をうまく言葉にできなかった。35歳となる彼女の18年近くにおよぶスポーツ人生の悲喜こもごもが、10日間の選考会で蘇ったのだろう。得意とする200mでの東京2020出場権は獲得できなかったものの、400mでの出場権を獲得。レース後、彼女は自分の心境を涙ながらに語った。

フェリックスは、「あらゆる感情が入り混じっています」と素直な気持ちを語り、「東京に行けることに興奮しているのはもちろんですが、悲しく思う部分もあります。(陸上が)これまでの私の人生を占めていたので、これが最後になると思うと悲しい気持ちでもあります」と続けた。

フェリックスの集大成とも言える東京2020オリンピックで、彼女は「史上最も成功したオリンピック女子陸上選手」となることが予想される。これまでに金メダル6個を含む9個のメダルを獲得しており、もし8月6日(金)の400m決勝、あるいは8月7日(土)の女子400mリレー決勝でメダルを手にすることができれば、オリンピックの陸上競技におけるメダル数でマリーン・オッティ(ジャマイカ)を抜くことになる。

復活の復活

フェリックスは世界選手権を13度制しており、合計18個のメダルを獲得している。メダルが飾られる棚を今覗いてみると、ひょっとすると2歳の娘・カムリンがこっそりと忍ばせたおもちゃが見つかるかもしれない。

フェリックスは2018年11月にカムリンを出産した。わずか32週の早産で、出産前には子癇前症と診断されていたことから、緊急帝王切開となった。有色人種の女性はこの疾患で死亡する可能性が3~4倍高いとされており、フェリックスは偏った不良妊娠転帰に関する意識を高めることに力を注いだ。妊娠中の異常の兆候に関する一般の認識を高めるために、米国政府の「Hear Her」キャンペーンに参加。またこの問題について、米下院委員会でも発言した。

フェリックスはトレーニングの再開前から体調の回復に苦戦していただけに、彼女にとって最後のオリンピック選考会で幼いカムリン(キャミー)を連れていたことは、心を打つ光景だった。

「本当に特別でした。これが私の最後のオリンピック選考会になることはわかっていましたし、この立派なスタジアムでレースをしたいと思っていました。娘の存在は、ケーキの上のアイシングのようなものです」

「特に2018年は、出産、キャミーが未熟児で生まれたこと、健康上の問題など、(復帰できるかどうか)わからない瞬間がたくさんありました」。フェリックスは復帰するために直面した問題についてこう語り、「復帰1年目は本当に大変で、さらに1 年の大会延期。次から次に殴られているような感じでした。すべてが降りかかってきて…。でも戦い続け、もう1度挑戦したいと思っていました」と話した。

厳しい挑戦を続ける一方、フェリックスは自分が困難にいかに立ち向かうか、そしてそれが幼いキャミーに伝わっていくことをわかっていた。

「私はただ、どんなことが起ころうとも自分らしさと誇りを持って物事を行い、あきらめないことを彼女に示したかった。勝とうが負けようがどんな結果になろうとも、一貫してそれを維持したかったのです」

この選考会では、同じ400mのクアネラ・ヘイズ(29、アメリカ)も息子のディミトリウスを連れて来ており、母親アスリートを支援するフェリックスの姿勢を称賛し、レース後に感謝の気持ちを伝えた。

「彼女が母親たちのためにしてくれたことに感謝していると伝えました。私も母親で、彼女は私たちのために戦ってくれ、アスリートとしての道を切り拓いてくれ、陸上のためにあらゆることをしてくれた。決して諦めないという彼女らしさに、感謝の気持ちを伝え、敬意を示しました」

Allyson Felix and daughter Camryn and Quanera Hayes with son Demetrius
写真: 2021 Getty Images

次なる世代

ハーバード大卒の陸上選手ガブリエル・トーマス(21)も、フェリックスに影響を受けたアスリートのひとりだ。彼女はこの選考会の200mで21秒61という驚異的な記録で優勝し、アメリカ代表入りを決めた。

レース後のインタビューでトーマスは、「アリソン・フェリックスは私に最大のインスピレーションを与えてくれる存在です」と話し、「記憶の限りでは、彼女は私が初めてテレビで見た人です。祖母の家に泊まったとき、母が私に言ったんです。私に似ている人がいるからオリンピック選考会を見ようって。その頃から長年にわたって頭の片隅に残っている人なのです。彼女の謙虚さと優しさ、そして彼女の持つ能力、彼女こそが私にインスピレーションを与えてくれた人です。彼女と同じチームの一員であることは、涙が出るほど嬉しいことです」と語った。

アスリートとして活躍する傍ら、トーマスはハーバード大で神経生物学を専攻し、現在は公衆衛生学(特に疫学)の修士号を取得中だ。テレビで彼女を見ている子供たちへのメッセージを求められると、「12、13、14歳の頃にオリンピック選考会を見ながら、どこか遠くで起こっていることのように感じていました」とし、「やりたいことをやって、大きな夢を抱いて、自分のものにしてください。それがハーバードであれ、オリンピックであれ、何であれ、やり遂げてください。なぜなら、あなたならそれができるからです」とコメントした。

アスリートが語るアリソン・フェリックス

フレッド・カーリー(アメリカ、男子400m):

「男性でも女性でも、彼女(フェリックス)は私たち全員にインスピレーションを与えてくれます。なぜなら、彼女のように長期にわたってオリンピックでメダルを獲得するような選手はあまりいないからです。彼女は18年以上も競技を続けているんだからね。彼女の世代の現役オリンピアンはもうほとんどいません。私には家に小さな娘がいます。子供たちにとって、女性であれ男性であれ、尊敬できる人がいるのは素晴らしいことだと思います」

クリスチャン・マルコム(英国代表のコーチ/フェリックスが世界選手権デビューを果たした2005年の同大会で、男子4x100mで銅メダルを獲得)がフェリックスとシェリーアン・フレーザープライス(ジャマイカ)、そして彼らの競技生活の長さについて語ったコメント:

「彼らがやり続けている姿を見るのは素晴らしいことだと思います。私は、限界まで続けることを信条としていますが、彼らは今も続けていて、しかも高いレベルで活躍しています。ふたりとも陸上競技では今でも世界トップレベルであり、これはふたりの努力と、それを維持するための体調管理の賜物だと思います。ふたりとも長いキャリアの中で怪我を経験してきましたが、それを乗り越えて強く特別な存在になりました。彼らは素晴らしい存在であり、多くのアスリートにインスピレーションを与えています」